大物狙いなんです (1/3)

 「ルルーシュ、僕達もう、終わりにしよう」
放課後の屋上。スザクは、疲れの滲んだ口調でそう告げた。
「何故だ、スザク!?」
ルルーシュは驚いたような口調で問うたが、理由はわかっていた。
 スザクとルルーシュはブラックリベリオンで既に終わった仲だった。だが、ルルーシュは自分が記憶を奪われていることになっているのを利用して、再会した時に強引によりを戻したのだ。だがスザクにしてみれば、記憶をなくしているいとはいえ憎い仇だ。そのうち恋人ごっこが辛くなるであろうことも、ルルーシュの予測の範囲内だった。
「俺のことが、嫌いになったのか?」
「そんなことは…ないけど…」
ルルーシュの頼りなげな声と表情に、スザクの顔が罪悪感に歪む。それも、ルルーシュの計算のうち。根本的に優しいスザクに“何も知らないルルーシュ”を傷付けることなど、出来るはずがない。結局、憎んでいてさえスザクはルルーシュに甘いのだ。そうでなければ、そもそもこうしてよりを戻せているはずもない。そこに漬け込むのが、ルルーシュの作戦だった。
「じゃあ、どうしてなんだ? せっかく、また、こうしてお前と出会えたのに…」
「それは…」
ルルーシュが目に涙を浮かべてやれば、スザクがうっと言葉に詰まった。本当の理由など話せるわけがない。あと一息だ。ルルーシュは内心でニヤリと口の端を上げた。
 だが、そう上手くルルーシュの計画通りにはいかなかった。
「実は…僕、自分より地位の高い人が好きなんだ」
「………は?」
ルルーシュは、思わず素でリアクションしてしまった。
「だからね、例えばジノは軍内では僕よりラウンズでの席次が上だし、それ以外でも貴族だから僕より地位が高いだろ? ロイドさん…あ、ミレイ会長の婚約者だった人は、軍ではもう僕の方が上だけどやっぱり貴族だし。殿下やユフィ、ナナリーは皇族だしね」
俺だって皇族だ!! 黒の騎士団の総帥だ!!
心の中で叫びながらも、声にならず口をパクパクさせるルルーシュ。声になってしまったら、一巻の終わりだったが。
「どうしたんだい、ルルーシュ?」
スザクはきょとんとして呼吸の苦しそうなルルーシュを見つめている。この純真無垢そうな顔で何てことを言ってくれるのか。
 「だ、だったら訊くが…1年前はどうして俺と付き合ったんだ?」
ルルーシュが皇子だったからとは、言える筈がない。そうなれば返答に詰まるのは必定。そこからこの嘘を崩してしまえば、まだスザクを丸め込める。
まだやれる、やれるぞ。
ルルーシュは自分を心中で鼓舞した。
 「だって、昔はただの名誉ブリタニア人の軍人の僕より、一般人の君の方が偉かったし」
「だがユーフェミア殿下の騎士になった後も、お前は俺と別れようとは言わなかった」
二人の仲を決定的に引き裂く原因となった女性。そしてスザクの主だった人。彼女の名前をルルーシュが口にした時、スザクの目に不穏な焔が燃えたが、それを押し込めるようにスザクはにっこりと笑った。
 「だって君、生徒会の副会長だったし」
学校では僕より上でしょ?
とにっこり笑われてルルーシュは言葉を失った。だが、ここで諦めるようなルルーシュではない。
「今だって副会長だ。何が不満なんだ」
「だって僕も学校より軍に居る時間の方が長いし。それにミレイ会長が卒業したら、副会長じゃなくなるじゃないか」
あっさりと返されて、ルルーシュは予想外のダメージに屋上の柵に突っ伏した。
 「じゃあ、私は会長に立候補する!!」
不意にルルーシュでもスザクでもない声が屋上に響いた。そちらを振り返ると、金髪のやたらと長身な少年が手を上げて、物陰から現れた。
「ジノ!! 君、盗み聞きしてたの?」
呆れたような溜め息をつくスザクに、ジノは盗み聞きを否定せぬままスザクに後ろから抱きつく。
「ジノ、重い」
「なぁ、なぁ、私が生徒会長になったら、学校でも軍でもプライベートでもスザクを独占できるんだよな?」
「君だってそんなに学校に来れるわけじゃないし、いつ本国に帰ることになるかもわからないだろ? それなのに生徒会長の仕事なんか務まるわけないじゃないか…」
スザクに指摘されて、ジノはシュンと落ち込む。スザクはそれを慰めようと、夕日を浴びてキラキラと輝く金髪を撫でてやった。
 ルルーシュは未だに柵に突っ伏している。だがそのルルーシュが小さく小刻みに震えながらゆっくりと起き上がってくる。
「だったら……」
「ルルーシュ?」
スザクがルルーシュを心配そうに覗き込む。ルルーシュは、スザクの視線の先で勢いよく顔を上げ拳を握った。
「だったら俺は、ブリタニアをぶっ壊す!!!」
そうすれば、ジノなんかただのぼんぼん。ブリタニアをぶっ壊して、合衆国日本の実質的な最高権力者となるルルーシュに及ぶわけもない。
ふははははは。どうだ、この完璧な計画。これなら、スザクは間違いなく俺のものだ。
 「それなら君は、僕の敵だね。さようなら、ルルーシュ」
この時のスザクの清々しい笑顔は、ルルーシュの目に焼き付いて消えなかった。


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