恋は盲目 (6/7)

 「残念でした〜」
スザクの話を聞いての、ロイドの第一声はそれだった。スザクとてロイド相手に慰めの言葉を期待していたわけでもなかったが、流石にあっけに取られてロイドを見上げる。いつの間にかスザクの隣に座っていたロイドは、立ち上がって先程まで入力作業をしていたコンソールを操作した。
 ディスプレイに現れたのは「今日のスザク君」という題名のファイルだった。

今日のスザク君
皇暦○○年 ○月○日 晴れ

今日、スザク君は朝からセシル君が作った特製おにぎりを食べさせられていた。顔は引き攣っていたけど、ちゃんと完食出来るところが凄いと思う。デヴァイサーとしても特別な彼は、きっと胃袋も特別なんだろう。

スザク君のお仕事が終わった後、新しく開発したKMFのナビゲーションシステムの実験に付き合って貰った。
ユーフェミア皇女殿下の博愛主義や、皇帝陛下の演説に振り回されるスザク君は面白かったけど、あのシステムはやっぱりあんまり実用的ではないようだ。

などといった文面と共に、スザクのその日のバイタルデータや、シュミレーションでの成績や適合率等の詳細なデータが添付されている。
 「というわけで〜、僕も彼らと同類なんだよね〜。残念でしたぁ〜」
あっけらんとして言うロイドに、スザクは思わず笑い出してしまった。ロイドには予想外の反応だったのか、お腹を抱えて笑うスザクを前にきょとんとしている。眼鏡の奥の瞳が戸惑いに瞬く珍しい姿が面白くて、スザクは余計に笑ってしまった。
 「あれ、怖くないの?」
「そんなこと言ったって、ロイドさんソレ…朝顔の観察日記みたいじゃないですかっ…!!!」
添付してあるデータはともかく、文章は理系のロイドには相応しくない。まるで小学校の宿題のような風情だ。
「だって、僕成長期だから」
妙な言い訳と共に肩を竦めるロイド。スザクには何がどう成長期なのかいまいちよくわからなかったが、不思議とジノやルルーシュ、シュナイゼルに抱いた恐怖心は沸かなかった。
 「むぅ。じゃあ、こっちは? 僕のコレクション」
言いながら、コンソールの下にしまってあった四角いボックスを出して、蓋を開ける。中にはチャック付きの透明な袋に入った何かの事件の証拠品の様なモノが、大量に入っていた。
 「何ですか? コレ…」
一つ一つつまみ上げてみると、必ず袋にシールが張ってある。

【○○年○月○日 スザク君が昼食時に使用した割り箸】
【○○年○月○日 スザク君が鼻を噛んだティッシュ】

 「もしかして、さっきのバイタルチェックって…」
「そ。それで取った唾液や鼻水のサンプルから算出したんだよ」
通りで、そんな毎日バイタルチェックをされた覚えがないはずだ。もっとも、ランスロットやシュミレーターの稼動時にある程度のデータは取れると思うが。
 「僕って、ロイドさんにとって実験動物か何かなんですか?」
スザクは、笑いを堪えながら問いかけた。やはり薄気味悪いとは思わず、とてもロイドらしいと感じてしまう。
「うーん、っていうか最重要観察対象? 僕の大事なパーツだし〜、君って何か気になるんだよね。目が離せないっていうか…」
ロイドの間延びした声を聞いていると、さっきまでのことがすべてどうでもよくなってくる気さえするから不思議だ。
 「別に割り箸とかティッシュとか集めなくても、唾液でも鼻水でも髪の毛でも、ロイドさんが欲しいんだったら何だって持って行っていいですよ」
笑いに再び零れた涙を指先で拭いながらスザクがそう告げると、ロイドは何度か瞬きを繰り返してからニヤリと笑った。
「本当に〜?」
「はい」
「じゃあ、今度精液のサンプル取らせてくれる?」
「はい!?」
 一瞬スザクはロイドが何を言っているのか分からなかった。だが、意味が分かるにつれ顔が熱くなってくる。
「あの…精液ってそんな…」
「何だって持って行っていいんじゃなかったの〜?」
「た、確かにそう言いましたけど…」
言質を取られている以上、真面目なスザクには反論し辛い。ロイドはスザクをからかうように楽しそうに笑いながら、小指を差し出した。
 「約束。日本ではこうするんでしょ?」
「……」
スザクは渋々と小指を差し出す。自分で言ったことでもあるし、何より恥ずかしいとは思っても嫌だとは思わなかった。彼が望むなら、それも別にいいかと思ってしまう。
 「いいですけど…。ロイドさん、どうして精液が必要なんですか?」
「ん? そりゃ、僕が君と射精するようなことをしたいからでしょ。成長期だから」
小指と小指を結び合わせながら告げられたその言葉が、今日の怒涛の出来事の中でも一番スザクを驚かせたのだった。

 END


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