恋は盲目 (4/7)

 「じ…自分は…監視されて…いるのですか?」
「落ち着きなさい。監視ではなくて、君に困ったことがないように見守っているんじゃないか」
意図せず唇が震えた。それを知ってか知らずか、シュナイゼルはスザクの腕を引き寄せて隣に座らせ、宥めるようのに肩を撫でる。だが、その撫でられる感触にさえ鳥肌が立って、落ち着くどころではない。
 「あぁ、不自由といえば…」
言いながらシュナイゼルが片手で画面を操作し、もう片方の手はスザクの肩から胸、腹へとゆっくりと滑っていく。
 切り替わった画面に写った光景に、スザクは薄気味悪さで青くなっていた顔を一気に朱に染めた。写されたのはスザクが浴室で性処理をしている姿だった。スザクとて健全な男子であれば、仕方の無いことだ。特に恥じるべき所もない普通の処理の仕方。寧ろ本当に処理だけといった感じで淡泊なぐらいだったが、それでもそれが映像に残されているとなると、赤面せずには居られなかった。
 「これからは自分でこんなことをしなくても、私が愛してあげるからね…」
スザクの耳に息を吹き込む様に囁きながら、手が下腹から更に下へと滑りスザクのズボンの中心を撫でる。スザクは思わず椅子から腰を浮かし、その勢いで立ち上がることでシュナイゼルの魔手から逃れた。
 「で、殿下…自分は…その、い、行かないと…」
スザクが後退る様子に、シュナイゼルが不思議そうに首を傾げる。拒否される等とはまったく考えていない様子だ。
「あ、あの…ロイドさんに…帰ったら、着替えて…キャメロットまで来るようにって言われてて…。新しいオペレーティングシステムのテストがしたいからって…」
本当はそれは明日の予定だったのだが、他に逃げ場が思いつかなかった。ジノは近頃剰りにもスザクを束縛しようとするし、ルルーシュも明らかに様子が尋常ではなかった。かといって、ナナリーやアーニャの様な女の子の所に夜遅く訪ねるのも憚られる。
「そうなのかい? こんな時間まで君をこき使うなんてロイドも困ったものだ」
「いえ、ナイトメアの機能の向上は、結局自分の安全の為ですから。ロイドさんには感謝しています」
「ははっ、そうかい。尤も、アレのは唯の趣味だろうから、君が気を遣う必要はないと思うけどね。ともあれ、そういうことなら仕方がない」
シュナイゼルは特に渋るわけでもなく、苦笑と共に納得してくれた。
 何とかこの場を切り抜けられそうな安堵にスザクは嘆息しながら、やはりヴィクトリア調に変わってしまったクローゼットを開いた。ハンガーに掛かったナイト・オブ・セブンの制服を取り出して、シュナイゼルを振り返る。
 「あの、それでは、自分は着替えますので…」
映像に撮られているのを知ってなお、いや、知っているからこそ着替えを直接見られることに抵抗のあったスザクは、そのままトイレに行って着替えようとした。だが、シュナイゼルに引き止められてしまう。
「ここで着替えなさい。言っただろう? 私はいつも君を見守っていると」
「…イエス・ユア・ハイネス」
了承の返事を紡ぐ声に不本意さが滲み出てしまったのは、仕方がないことだろう。スザクは出来るだけシュナイゼルに見えないように、あるいは出来るだけシュナイゼルを見ないように、彼に背中を向けて着替えた。
 着替え終えて振り返ると、心なしかシュナイゼルの微笑が輝いて見える。
「君の制服姿もあどけなくて素晴らしいけれど、ストイックな騎士服も素敵だね」
そんなうっとりとした表情で讃辞を浴びせられても、スザクは欠片程も嬉しくなかった。それどころか、空寒さに鳥肌が立つ。
 「それでは、自分は失礼します」
「あぁ。同じ政庁内だから心配する必要もないと思うが、気をつけていっておいで」
愛想良く見送ってくれるシュナイゼルに、忍耐の限りに丁寧な礼を尽くしてから、スザクは自室を後にした。


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