大物狙いなんです (2/3)


 「行こう、ジノ」
スザクは、固まったままのルルーシュを置いて、帰路に就く。ジノの反応が鈍かったので後ろに手を差し出してやれば、ジノは嬉々としてスザクに追い付いてその手を握った。
 男同士、それもラウンズ二人が一見仲睦まじく手を取り合って屋上から校門まで歩いたのだから、当然人目を引いた。だが、ジノは元よりそんなことを気にする質ではない。また、スザクもこの時はそんなことに留意している余裕がなかった。
 スザクの頭の中は、先程のルルーシュの“ブリタニアをぶっ壊す”発言をどう解釈すべきかで一杯だった。ルルーシュが記憶を取り戻していると思えなくもない発言だ。だが、記憶が改竄されているからといって、性格が大幅に変わるわけではない。なら、ゼロであったこととは無関係に、再びそういう発想に至るのも不自然なことではない。まして、ただの勢いでの言葉だ。実際に行動に移すつもりがあるかすら、定かではない。もちろん、行動に移すなら記憶が戻っているかどうかに関わらず潰すのみだが。
 たとえC.C.を誘き出すためとはいえ、平穏な生活を手に入れたのだ。ルルーシュにはできることならこのまま幸せに暮らして欲しい。それが自分の押し付けがましいエゴであると知りつつも、スザクはそう願わずには居られなかった。
 「…ク、スザクッ、おい、スザクってば!!」
スザクは自分を呼ぶ声に思考の海から浮上する。随分と声をかけ続けていたらしいジノは、不機嫌そうにスザクを睨んでいた。
「ごめん、ジノ。ちょっと、考え事をしていて…」
スザクは苦笑して謝罪する。気付けば既に校門を過ぎて駅へと至る途上だった。随分と考え込んでいたらしい。
「何、考えてたんだ?」
「別に。ちょっとね」
「皇帝陛下のことか!?」
誤魔化そうとするスザクに切り込んできたジノ。その口から出た予想外の名前に、スザクはパチパチと瞬きした。それに対するジノの表情は、真剣そのものだ。なぜ、ここで皇帝陛下なのだろう? 確かにルルーシュの記憶を書き換えたのは、皇帝陛下のギアスであるから、まったく関わりがないわけではないが。だが、そんなことをジノが知るわけもない。
「えっと、どうしてここで皇帝陛下が出てくるのかな?」
「だってさっきのスザクの話で言うと、スザクの理想は皇帝陛下じゃないかっ」
さっきのスザクの話というのは、スザクがルルーシュと別れるために使った方便のことだろう。どうやらジノアレを真に受けたらしい。ルルーシュじゃあるまいしと、スザクは脱力する。
 「ジノ、アレは嘘だよ」
「え!?」
ジノに大仰に驚かれて、スザクは少なからずショックを受けた。自分はそんなに権力者が好きそうに見えるのだろうか。尤も、自分の今までの行動を省みるにスザク自身にも思い当たるところが多々ある。
「とにかく、あんなのはルルーシュと別れるための口から出任せだから」
スザクはゴホンと咳払いしてそう断言した。
「じゃあ、どうしてルルーシュと別れたんだ?」
問われて、スザクはジノに恨みがましげな目を向けた。そのまま何も答えずにジノの手を振り解く。いきなりの行動に呆然としているジノを放って、定期券で改札を通った。改札の向こうでジノが慌てて鞄の中の定期券を探っているが、無視してホームに向かう。
 スザクがルルーシュと別れた理由は、他ならぬジノ・ヴァインベルグその人だった。
 そもそも、スザクがルルーシュに言い寄られて寄りを戻したのは、ルルーシュが考えるような甘い理由ではなかった。ゼロが再び現れた今、ルルーシュが記憶を取り戻していないかより近くで探るためである。どうにもロロのルルーシュへのベッタリ具合を見ていると、見張りとして機能しているか不安だった。だが、寄りを戻してみたからといってあのルルーシュがそう簡単にボロを出すわけがない。ここ最近では、わざわざ恋人同士で居る意味も感じなくなっていた。だが、逆に保険としてならそのままでも悪くはない。そう思える程度には、スザクは既に擦れてしまっていた。
 それをわざわざあんな嘘を付いてまで別れたのは、偏に後ろから自分を追いかけて来る大型犬が原因だ。
 ジノとスザクは別に恋人同士というわけではなかった。だがずっと諦めずに一途に言い寄ってくるジノに、近頃スザクの心が絆されかけていたのも事実だ。そんなタイミングでの、ゼロの出現とルルーシュとの再会。そして、ルルーシュとスザクの復縁。当然ジノがすんなりと身を引くはずもなかった。
 今までと変わらないアプローチに加え、ルルーシュへの嫉妬から暴走したことも1度や2度では済まない。
 ジノの言い分としては、ルルーシュと居てもスザクが幸せには見えないから納得できない。ということだった。強ち間違っていないだけに、スザクもジノを強く拒否することが出来なかった。仕方が無いので、この度ルルーシュと別れるに至ったのだった。
 平たく言えば、ルルーシュと別れたのはジノが煩かったから。或いは、ジノに余計な心配をかけたくなかったから。と言えなくもない。
 だが、そんなことを彼に話してやるつもりはスザクには毛頭なかった。
 電車を待つホーム。スザクに追い付いて、後ろから抱きついてくる彼の腕。スザクはその腕にそっと自分の手を重ね、温もりに身を委ねた。素直になれない唇の代わりに、彼の新たな不安を払拭してくれるよう、願いを込めて。
 夕日に照らされ長く延びた二人の影は、重なって一つになっていた。

 END


[*prev]  [next#]
[目次へ] [しおりを挟む]

  



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -