大事なモノは心の中に (1/3)

 つい、絆されてしまった。そうとしか言いようがない。スザクは目の前の青年の提案を了承した傍から、それを後悔していた。だからとてこんなに嬉しそうな表情をされては、今更やっぱり辞めるとも口に出来ない。
 別に彼が嫌いなわけではない。親切だと思うし、明るく闊達な性格にはむしろ好意すら覚える。だが嫌いじゃないからこそ、積極的に寄ってこられるとつい感情が揺れて困る。彼は自分にとって蹴落とすべき存在だ。そんな相手と友情を築くべきではない。スザクは二度と友人を裏切るようなことは、したくなかった。だが同時に、必要とあらばそうする決意も胸に秘めている。だからこそ彼とは距離を置きたいのだ。
 「どこへ行く? ショッピングがいいか? それとも、映画か? 庶民のデートだとあとは…遊園地とかか?」
スザクの心など知るはずもなく、ヴァインベルグ卿は今にも浮き上がりそうなぐらいに有頂天で、行き先を思案している。
 とりあえず、どこからツッコミを入れるべきか。再会した幼馴染みに対しても何度もそう思ったことを思い出し、スザクの気分はより陰鬱と沈んでいく。
「ショッピングモールも映画館も遊園地も、こんな時間からは開いてないと思いますよ…」
他の部分は捨て置いて、実務的なところを指摘してやれば、ヴァインベルグ卿は自身の失態に顔を真っ赤にした。面白いぐらいに感情が顔に表れる。これではまるで、初デートに張り切りすぎて空回りする男子中学生のようだ。女性に慣れていそうに見えるのにと意外に思う反面、年相応な反応が微笑ましくもあった。
 スザクは、ジノの直情的な姿に思わず嘆息する。それと共に心中の暗い霧が幾らか晴れた気がした。
「朝食は食べられましたか? 自分が作ったものでよければ、お付き合いください」
言いながら、室の鍵を開け、部屋の中へと誘い入れる。フォローしてやる謂われもないのだが、どうせスザクも朝食がまだだしトレーニングの後でお腹も空いていた。
「スザクの手料理か!? 食べる!!」
ヴァインベルグ卿の顔がぱっと明るくなり、勢いよくスザクの部屋に飛び込んでいく。まるで犬みたいだなと、笑いを堪えながらスザクは後ろ手に扉を閉めた。


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