あの幸福をもう一度 (4/6)

 「あの時から、スザクのことをもっと知りたくて、仕方がないんだ」
目をキラキラと輝かせて言うジノを、アーニャが相変わらず無表情で見つめている。それは、まるで何かを見極めているかのようだった。やがて彼女は、嘆息して手元の携帯に視線を移す。いつものようにボタンの操作音を単調に響かせながら、彼女は口を開いた。
 「スザクは…ジノが苦手って言ってた」
ぽつりと紡がれたアーニャの言葉は、ジノの心を貫くナイフだ。だが、アーニャは相変わらず携帯の画面に視線を落としたまま、ジノにはお構いなしに言葉を続ける。
「…でも、嫌いじゃないって。多分、接し方が判らないんだと思う」
ジノはその言葉に、ぱっと表情を明るくする。
 考えてみれば、スザクがああも頑なにジノを拒否する理由など考えたことがなかった。ただ、諦めずに頑張ればいつかは受け入れてくれると信じて、めげずにアプローチを繰り返してきた。
 効果がなかったわけではない。アーニャには妄想扱いされたが、確かにあの時、スザクはジノの名前を呼んでくれた。その上、彼は初めてジノに笑顔を向けてくれたのだ。
 だが、効果が現れたからこそ、これを期に戦略を変更して一気に畳み掛けるのは良策かもしれない。
「そっか。そうだな。日本人はシャイだって、何かの本にも書いてあったしな」
 ジノが意気揚々と拳を握ったところに、アーニャがすっと自分の携帯の画面をジノに向けて差し出してきた。覗き込んだ画面に映っていたのは、1件の受信メール。送信元には“スザク”と表示されている。
 『ごめん。僕の次の休暇は明後日だから、流石に明日は休めないよ。予定が合わなくて残念だけど、今度絶対一緒に行こうね。休暇、楽しんで』
随分と親しげなメールだ。これをあのスザクが打ったとは、ジノにはとても信じられない。だが、休暇を2日連続で取ることを考えられない生真面目さは、確かにスザクらしい。
 「スザク、明後日オフ」
「…っ!!」
アーニャに嫉妬すら感じかけていたジノは、その言葉で、やっと彼女の意図を理解した。
「サンキュー、アーニャ!!」
嫉妬に歪みそうだった表情を、晴れやかな笑みに変えて、ジノはアーニャに謝辞を告げた。告げるが早いか、もの凄い勢いで駆けだして行く。
「記録」
その後ろ姿を写真に収めるアーニャの声も、耳に入っていない。
 今はただ、明後日どうやってスザクを捕まえ、彼とどのように過ごすかで頭がいっぱいだった。


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