神の愛、人の愛 5 (2/5)



 神聖ブリタニア帝国第3皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニア。それがユフィの名前だった。
 「あの時は本当に驚いたよ。ユーフェミア皇女殿下」
スザクが誂うように気取った口調で彼女を呼ぶと、ユフィは可愛らしく頬をふっくらと膨らませてスザクを睨んだ。
「ユフィと呼んで下さいと言ったでしょう?」
「ごめん、ごめん、ユフィ」
 スザクは彼女の騎士になり、彼女と過ごすことが多くなった。
 最初はどうして自分が…と思った。まさかあの時のちょっとした冒険だけが原因なのだとしたら、いくら何でも軽率過ぎるのでは…と。
 だが、好意的でない視線に晒されながら歩く自分を少し苦しげに、だが決然と見つめるユフィの目を見た時、いい加減な気持ちではないのだと確信が持てた。だからこそ、騙し討ちのような任命でも、自分が騎士になることで彼女の立場が悪くなるのではという危惧があっても、彼女の騎士になることを選んだのだ。
 後に聞いたところによると、どうも兄である第2皇子に部隊内でのスザクの功績を聞いての判断でもあったらしい。もっとも、話してくれと積極的に強請ったきっかけはやはりあの日のことだった様だが。
 「よく、周りの人に反対されなかったね」
「シュナイゼルお兄様は賛成してくれました。ただ、コーネリアお姉様は…」
そう言ってユフィが表情を曇らせる。
 シュナイゼルとは件の第2皇子のことだ。彼はユフィの異母兄に当たり、彼の部隊に居た関係からスザクとも面識がある。現在最も皇位に近いと言われている人物だ。
 そしてコーネリアとは数居る兄弟の中で唯一ユフィと母親を同じくする姉、第2皇女コーネリア・リ・ブリタニアのことだ。「ブリタニアの魔女」と異名を取る彼女の部隊は、シュナイゼルの部隊と並び称される程の実力を誇る。
 後方で部隊全体の様子を把握しながら盤上の駒を動かすように指揮をする参謀型の指揮官であるシュナイゼル。彼とは反対にコーネリアは自らが先陣を切って戦う、武人型の指揮官である。高い指揮能力は勿論、彼女自身の剣の腕も相当のものだ。「命を懸けて戦うからこそ統治する資格がある」との信念の下、先頭に立って敵と切り結ぶ姿は正に戦女神の如しと言われている。
 統治者であるブリタニア人と被統治者であるナンバーズを厳格に区別する主義の持ち主として有名で、京都六家に爵位を与えることに最後まで反対していたことはスザクも聞き及んでいる。ましてその俄貴族が大事な妹の騎士になるなど、許す筈もなかった。
 「でも、お姉様もきっとスザクの良さをわかってくれます」
ユフィがそう言って元気づけるようにスザクに笑いかける。
 スザクは彼女のこういう前向きな言葉や笑顔にいつも救われていた。
 「それはそうと演説の原稿、出来上がった? お喋りもいいけど、明日にはエリア7に出発するんだろう? 副総督」
「酷い。スザクが話しかけたんですよっ!!」
再び頬を膨らますユフィの後ろから彼女が書きかけの原稿を覗き込む。原稿は文字通り真っ白で、スザクは思わず苦笑を零してしまった。


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