神の愛、人の愛 1 (2/4)


 「駄目だ、絶対に駄目だ」
食卓の席でアーニャが口にした言葉に、珍しくスザクが厳しい声を出した。だが、その根底で気持ちが不安に揺れていることを、ジノもアーニャも知っている。
「どうして。ジノだって騎士になった。私もスザクを守りたい」
「ジノの時だって僕は反対したよ!! それに君は女の子じゃないか」
スザクの深い森の色の瞳が、不安げに揺れる。2年前には、ジノがスザクにこの顔をさせた。
 「どうしてなんだ…。ジノも、アーニャも…。俺のことなんか守らなくていいのにっ!!」
叩かれた机の上で食器がガシャンと音を立てる。スザクはごめんと呟いて、赤くなった手で顔を覆った。
「私の将来は、私が決める」
スザクの様子に紅い瞳を揺らしつつも、アーニャはきっぱりとそう告げた。
 スザクは唇を噛み、それ以上は何も言わず席を立った。残された朝食だけが、ただ寂しく湯気を立てている。
 ジノは空っぽの椅子をじっと見つめているアーニャの肩に手を置いた。
「落ち込むなよ。私の時だってスザクはすごく反対したけど、結局許してくれたんだから」
「ジノは…ずるい」
アーニャの瞳が、ジノを恨みがましく見つめる。無口な唇と無表情の代わりに、その瞳が雄弁に彼女の気持ちを語っていた。
 どうして自分はジノより後に生まれたのか。どうして自分はジノより体が小さいのか。弱い女なのか。彼女の瞳はそう語っている。
「悪かったな。でも、スザクもアーニャも私が守るから」
そう言ってやると、彼女の瞳が射るようにジノを睨み付けた。
「違う。私がスザクとジノを守ってあげる。それに…」
アーニャの唇が微かな笑みを象る。
「私はスザクと結婚できるけど、ジノはできない」
「結婚できなくても、愛し合える!! っていうか、結婚する!!」
むっとして言い返すジノに、アーニャは愉しそうに鼻を鳴らした。
「スザクはノーマル。だから私がスザクと結婚する」
「いーや、スザクは私と結婚するんだっ!! アーニャでも絶対譲らないからなっ」
子供っぽい言い合いを繰り返しながら、二人とも堪えきれなくなって、笑い声を上げる。アーニャが声を上げて笑うのは、スザクとジノの前でだけだった。
 「じゃあ私も行ってくるから。アーニャも選考会、頑張れよ」
ジノははっとして時計を見つめると、アーニャの頭をぽんと撫でてから踵を返した。スザクと同じ白い燕尾の騎士服が、ヒラリと翻る。それは、2年前にジノがスザクの反対を押し切って勝ち取ったものだった。


[*prev]  [next#]
[目次へ] [しおりを挟む]

  

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -