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Chapter4-2.5 *Another story 二人きりの家で住んでいた頃のお話。


「トム、トム!」

ナマエがまだ横になっている僕の肩を揺さぶる。それはそれは、まるでトロールのような勢いで。

この二人の家に住み始めてから、ナマエはいらぬ心配をしたのか、ノックをして返事がない限り、お互いの部屋に入っては行けないというルールを課した。夜這いされる心配など、ちっともないというのに。しかし彼女も一応は女性であるため、僕はそのルールを律儀に守っている。
それなのに、ナマエはほとんどルールを破っていると言っていい。ナマエがノックをして返事を待った暁など、むしろ何か不吉なことが起こりそうだ。

そんなナマエが、休暇だというのに朝早くから僕の部屋で騒いでいる。いつも休暇は昼過ぎまで寝ているというのに、今日は珍しく早起きしたらしい。

だからと言って、僕までそれに突き合わせようとするのは大間違いだ。早寝が基本のきみと違って、僕は夜型なのだから。

「トム!なんで起きないの?雪が降っているのよ!」

知ったことではなかった。しかしあまりにうるさいため、あらかじめナマエが開けておいたらしい窓に起き抜けの目をやった。確かに降っている。しかし、雪がどうしたのだ。ホグワーツにいるときも、毎年降っていたというのに。

「初雪よ、トム!」

彼女があまりにばしばしと無遠慮に僕ごと布団を叩いてはしゃぐので、ナマエの脇に手を差し込んでベッドに引きずり込んだ。
「へ、」と間抜けな声を上げるのはいつものことだ。何度もこれをされているのに、その度に目を白黒させるナマエは面白い。

「きみ、もしかして初雪をダシにして僕を夜這いに来たのか?」

「なっ…!あなたってそんなことしか考えてないの?そもそも今は朝よ!」

「やけに積極的に起こしてくると思ったら、そういうことか。ベッドでニューイヤーを迎えたい、と」

「バカ言ってないでさっさと起きなさい!」

勢いよく僕のベッドから出ようとするナマエを抱き込んで、首筋にキスを落とす。ぴくりと腕の中で震え、僕に晒しているうなじを待つ真っ赤にさせるナマエ。
これも、何度となくやっているのに反応はいつも初心だ。まるで生娘のように。いや、訂正しよう。彼女は処女だ。

「いい加減にしてバカ!しつこくすると今日一日口聞かないわよ!」

まるでキンダーガーデンの子どもたちのようなことを言う癖は、もうそろそろ成人して数年経つのに変わらないらしい。
しかしそんなナマエに頭が上がらないのはいつも僕の方なのかもしれない。

部屋を猪突猛進という言葉が似合う勢いで出て行った彼女の後を、僕は小さくあくびをこぼしてのろのろとついていった。こんな姿は絶対にスリザリンの寮の中では見せなかったものだが、ナマエの前では自然と無防備になってしまう。

僕がリビングに足を踏み入れると、どこに隠れていたのかナマエが飛び出して来て、突然クラッカーを鳴らした。

「誕生日おめでとう!トム!」

突然のことに唖然とした僕の手を引いて、彼女はダイニングテーブルへと誘う。僕の体にはクラッカーのテープが引っかかったままだ。

ろうそくが一本立てられただけのダイニングテーブルを挟んで向かい合って座らされると、目の前ににこにこと座ったナマエが唐突に杖を振る。
すると、今までなにもなかったテーブルの上にはケーキやチキン、そしていたるところに花の飾り付けが現れ、部屋中が食欲をそそるにおいで充満した。

「トム、あなたはたまにすけべだし、わたしに対して無愛想で意地悪だし、なにも言わずにいろんなところ連れまわすしで悪いところをあげたらきりがないけれど、あなたほど素敵な人は他にいないわ。
生まれて来てくれてありがとう!トム。あなたはわたしの大事な人よ!」

そうして、彼女からは滅多に―というより、一度も自主的にしたことがなかったというのに、僕の頬を両手で挟んで、額、頬、それからくちびるに、彼女のそれを押し当ててきた。

「…きみこそ、悪いところを挙げたらきりがない張本人だろう」

「あら!照れると素直になれないなんて、トム坊やもまだまだ可愛いわね!」

こにくたらしいことを言いながら僕にチキンやグラタンを取り分ける彼女に、「これは全てきみが?」と問いかける。

「朝早起きしたのよ!全部出来上がって、外を見てみたら雪が降っていたから。あなたの誕生日って素敵なことばかり起こるみたい」

そう屈託のない笑顔で言うナマエに、僕はいつも負ける運命のようだ。
「他にはなに食べたい?」と料理に落としていた視線を僕に向けた瞬間、彼女の後頭部に手を回して口づけをする。彼女のおさないキスより、とびきりうまいキスを。

「きみが食べたい、なんてばかげたセリフを僕に言わせるのはきみだけだ」

もちろん、彼女が濡れたくちびるを震わせながら真っ赤になって僕の肩をひっぱたいたのは言うまでもない。誕生日の僕に対しても、全く遠慮はしないようだ。

しあわせすぎてくだらない

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