年の差のある彼への慕情や淡い恋心を秘めることって、女の子は誰しも一度は通る道なんじゃないかなあ なんて私は思うのです。

だってほら、近所に住んでいるいくつか年上の優しく ていつも遊んでくれるお兄ちゃんに擽ったいような甘 い憧れを抱いたり。高校生の時に教育実習生のかっこいい先生に一目惚れして期間限定の片思いに身を焦がしたりって、誰にでもひとつくらいあるものでしょう?

「蔵ノ介くん!」
「えっ、名前さん…!?」

とある高校の校門の前で一人の男子生徒を待ってい た。その理由というのもまさに、年の差のある片思いの彼を久しぶりに一目見たいと思い立ったからで。制服を身に纏った高校生が行き来する往来で私服で立っているのはやはり人目を引いたが学校も違えば会うことも滅多にできる事ではないのでそんなことはあまり気にならなかった。

下校時刻を見計らって待機していたことが幸をなし、 五分とかからずにその本命の男子生徒はマフラーに鼻 のあたりまでを埋めながら校舎を出て真っ直ぐに校門 へ向かい歩いてくる。ちょうど彼が門をくぐり抜けるというその時にひょいと門の影から彼の視界に入りその名を呼べば俯きがちだった視線を驚いたようにこちらへと向けたその表情は困惑が何割かを占めておりこりゃ今回は失敗かなとやんわり頬を掻く。

「ふふふ、来ちゃった!」
「いや、来ちゃったって、大学はどないしたんで す?」
「なんと今日は教授がぎっくり腰のため休講なので す!」
「今回は課題出てへんの?また夜中に泣きを見るん ちゃう?」
「えっ、ちょっと痛いところ突いてくるね蔵ノ介く ん。」

でも今回はしっかり終わらせて提出も済んでいます と、とんと軽く胸を叩けば蔵ノ介くんは少し困ったよ うに笑ってくれた。今日は私の課題もないのでそこを押していけばどこかでお茶をして帰れるかもしれない。 蔵ノ介くんの為ならば喫茶店代くらい安い物だ。 なんてったって私は彼よりいくらか年を食っていて、 毎日毎日大学で栄養系の事柄について知識を深め数多 くの課題と格闘している傍ら社畜のようにバイトをし ているのだから。そう、憧れを抱く年の差は年の差でも、私自身が大学生で想い人である彼が高校生という世間とは逆な年の差なのだ。それでも惚れちまったもんは仕方ない。

この片思いの出発点は、どれくらい前まで遡ることに なるだろう。とにかく私がまだ九州の大学にいた頃のことだ。というと一年ほど前ということになるだろうか。 だって彼との出会いが私が大阪へ来る理由となったのだから。ああそうだ、あれは冬の頬を刺すような寒い空気が残る中ほの温かな光が差す初春に差し掛かる頃のはず だ。

関西にいる友人に会いに態々現在住である九州から飛 行機に乗り込み関西まで出向いたということもあって いつも以上に気分が高揚してしまい二人で繁華街に立 ち並ぶ赤い大きな提灯が軒先にぶらさがっているのが 印象的な居酒屋に転がり込むとメニューさえも見ずに 一番最初に注文したのはチューハイだった。 それを運ばれてきた瞬間に向かい合って座る友人と乾 杯と一度グラスを合せてお互い一気に飲み干した。ビールや日本酒を種類も問わず次から次へと飲めるものは全て飲んでやるとでもいうようにアルコールを胃に流し込みながら、肉じゃがや枝豆なんかの追加注文を少しずつ繰り返し月が夜空に爛々と輝くまで思い出話なんかに花を咲かせた。昼過ぎから店に入り店を出る頃には何時間が経過していたのか夕方から夜に差し掛かろうという時間帯であたりは会社帰りに一杯やるかとでもいう雰囲気なサラリーマンで溢れかえっていた。

上戸な私は調子に乗って友人の倍以上の量を飲みまく り、それでも自力で歩けるほどに意識ははっきりして いたし頬も多少蒸気している程度であった。少しばかりふらつきもするがこの後はおつまみやなんやらを買い込み友人宅にて宅飲みをする予定しかないのでなんら問題はないだろうなんて思った矢先。すれ違いざまにスーツをぴしりと着たサラリーマンと肩と肩がぶつかった。こちらはそれほどスピードを出していた訳ではないのだが相手が帰途を急いでいたらしく中々激しくぶつかる。ぐらりと今日のために新調してきた高いヒールを履いた足が揺らぎそのままアスファルトへ倒れ込んだ。長いことバドミントンで鍛えてきた持ち前の体幹があるので普段はこんなことで倒れたりなんかしないのだが今日はいつも以上に酒を飲んでいたのに加え履きなれない上に高さのあるヒールの靴ということもあり勝手が違った。 膝からがつんと派手にいってしまった。

「あはははは!名前めっちゃ派手にこけてんやんうけ る!」

既に酒に飲まれ気味な友人は私を助け起こすどころか 真っ赤な顔で指をさして腹を抱え爆笑し始める始末。 集まる周りからの視線。果たしてこれを友人と呼んでいいものなのだろうか。なんだかこのまま顔をあげ自身で立ち上がるのも癪だし悔しいしでうつ伏せに倒れ込んだままでいること数秒。 未だ頭の上で響いている友人の笑い声に紛れて声をかけられた。

「あの、大丈夫ですか?」

大丈夫ですか?なんて、自分に問いかけられていると いうことは状況上直ぐに分かった。当然ながら聞いたことのない声に突然話しかけられたことに驚きでアスファルトに埋めていた顔を上げ声の主を見るとそこには柔らかい髪にネオンの光を浴びるミスマッチな男性がいた。 一言で言ってしまうと、タイプ。

「轢かれたら危ないし端寄った方が良さそうやな…。あ の転び方やと擦りむいて血出とるんやないやろか。」

転ぶところからがっつり見られていたのかなんて考え ながら綺麗な顔に呆然と見とれていれば彼はポケット にするりと手を入れたかと思うと濃い緑色のハンカチ を私の目前に差し出してきた。それでもやはり動くことが出来ずにアスファルトに突っ伏していれば「痛そうやけど立てます?」と優しく手を差し伸べてくれる。そこでようやく彼の手を掴み立ち上がることが出来 た。立ち上がって改めて自分の姿を確認してみれば言われた通り手のひらが擦り剥けて血が出ている他に最初に滑り込んだ膝からも血が流れていた。

「帰ったらちゃんと消毒するんやで。女の子なんやら からあんまお転婆せんとばい菌入って化膿せんように したって下さいね。」

人よりも世話焼きの気があるのだろうか、彼は私を立 たせると手に持ったハンカチで丁寧に膝から垂れる血 を拭いながら今後の処置について丁寧に説明してくれ た。 そんな中私の口から出た言葉というのは。

「お名前と学校教えてもらえませんか。」

いわゆる一目ぼれというものだった。 「えっ?」と聞き返すように少し見開かれたネオンの光を反射する眼さえとても美しいもののように思え た。

そこからは早かった。しどろもどろに紡ぎ出す彼の名前と学校の名前を口の中で何度も何度も反芻し少ない脳細胞に刻み込むと、次の日に飛行機で九州の実家に戻ると同時にインターネットで彼の学校の場所を調べ上げそこから近い大学を探した。 年上か同い年だと思っていた彼、白石蔵ノ介君は大学生どころか高校生で自分よりいくつも年下であることが判明。 しかしそんなの大きな障害にもならない。

恋した乙女は強いのだ。

九州と関西、遠すぎるどころか陸さえ繋がっていない ではないか。 そんなのやってられない。大学を関西に変えてそっちで一人暮らしを始めてやると決め、早速蔵ノ介くんの高校と駅から近い物件を探す。 今ほど自分の行動力に感謝したことはなかった。こうして私は家族の反対を半ば強引に押し切り半年と掛からずして一人で九州から本州、関西への進出を成功させたのだった。

ということで蔵ノ介くん、この後暇だったら喫茶店で も行かない?お姉さん奢っちゃうよ。

なんて言うセリフは喉元でつっかえて声になることは なかった。それは何故かと言うと、突然蔵ノ介くんの後ろから女の子が飛び込んできたのだ、それも、とても親しげ に。

「くーちゃん今帰りなん!?一緒に帰らへん?」

正直その少女が視界に入った瞬間あまりの可愛らしさ と若者特有の眩しさに目がくらんでしまった。 自分も年なのだろうか。

というよりも蔵ノ介くんに彼女がいたというショック の方が大きすぎてちょっとどうしたらいいのか分から ない。 上手く笑えてすらいない気がする。こうして彼を追いかけること数ヶ月、今まで彼女の影など見たことすらなかったから確証もなく安心しきっていたのだがよくよく考えてみればこれだけ顔が整っていてさらに気遣いまで出来るっていう彼がモテない はずなどなく、彼女がいない訳がないじゃないか。 目の前が真っ暗になったような気分だ。 蔵ノ介くんのことさえまともに見ていられない。

「あれ?くーちゃんこの人誰なん。知り合い?」
「いや、知り合いっちゅうか。」
「なんやねんこんなとこで、不審者?」
「こら友香里…!」
「ちょっ、ごめん蔵ノ介くん今日は帰るね。ちょっと 整理してくる。うん。」
「あっ、名前さん!」

そういえば今まで何度も告白紛いのことを繰り返して きたがそれらは全て不発に終わり、温い笑顔でかわさ れてきたではないか。それはもしや既に彼女がいたからだったのだろうか。優しい彼は態々九州から関西まで追いかけてきた私に彼女がいるなんていうことを言い出すことが出来ずに今の今まで笑って誤魔化していたのではないだろう か。それを蔵ノ介くんは、そして蔵ノ介くんの彼女は一体 どう思っていたのだろう。 そんなの想像にかたくはない。急速に脳内が冷えてゆく。 私はなんていうことをしていたんだろう。

心を整理すると同時にこれは部屋の荷物の整理も始め なくてはならないかもしれない。 蔵ノ介くんに彼女がいた場合、いや場合というかいるのだけれども、いやでも勘違いかもしれないしああもう自分女々しい! やめだやめだ、これからは恋愛などには現を抜かさず勉強に向かって突っ走ろうと無理矢理自分に言い聞かせとりあえず若い恋人同士の二人からは急いで距離を取ろうと早足で駅への道を戻る。

しかし大通りの交差点で赤信号に捕まってしまったこ とにより足を止めることになる。早く青に変わってくれないかとつま先でとんとんとアスファルトを叩き始めようとしたと同時に、掴むように肩に置かれた手。 思わず肩が跳ね上がる。

「どないしたんですか、来るのも帰るのもいきなりや な。」
「蔵ノ介くん!?あれ?さっきの子は!?」
「一人で帰らせてきた。我が強い子やけん手間取った んやけど追いついてよかったわ。」
「良くない良くない!」

少し息を弾ませながら事もなげに言って見せる蔵ノ介 くんを帰そうと、私は別に蔵ノ介くんの邪魔をした かったわけではないのだと、ただほんとに一目惚れを してしまっただけで自己満足で追い掛けてきただけだ から、寧ろ蔵ノ介くんの幸せは私の幸せだから、妹と 弟を見守ってるような気分だからと彼女の後を追うよ うに言い聞かせ背中を押すがそれはびくともせず、く るりと体を反転させられ寧ろ向かい合う形となってし まう。

「弟?そんなん思ってへんやろ関西まで追っかけてき とるんや。誤魔化しきかんで。」
「蔵ノ介くん?」

怒っているのだろうか、少しばかりつり上がった目は 真っ直ぐに私のことを捉えていた。 温厚な彼がこんな表情を私に見せるのは初めてのこと で動揺するのと同時に、とくんの胸が弾むのが分かった。頬が熱い。

この際やからついでに色々言わせてもらおう思います けど、なんて後ろ髪を掻くかれの姿はやはり初めて 会った時と変わらずに、私にはキラキラして見えた。

「名前さんの家って他所より多少厳しいの聞いて俺だって気い遣ってんねん。付き合っとる相手が高校生のガキ?そんなんご両親の信用も好感度もあったもんやないやろ。年食って就職したってその印象は拭えへん。」
「ごめん蔵ノ介くん、それ私都合よく受け取っちゃう よ。」
「高校卒業して大学入って就職して、それまでの辛抱や。待っとって。ちゃんと俺だけを見て。」
「ねえ。」
「春に迎えに行く。」

俺らが出会った、桜の蕾が綻び始める頃に、必ず。 そう言って蔵ノ介くんは力強く私を抱きしめた。

blossom waste

flowerと悩んだのですが、心菜ちゃんのイメージだと やっぱblossomですね。wasteには屑の他に無駄という 意味もあるそうなのであえてチョイス。無駄多いで! ということで心菜ちゃんお誕生日おめでとう。



遊ちゃんへ
あのですね、人はきっと素敵な小説に巡り合ったとき、頬が緩みきって柔和な笑みを浮かべてしまうものだと思うのです。次いで言うとですね、人は小説の登場人物とまーーーーーーったく同じ境遇育ち過去経験なんやかんやだったりすると近所迷惑になるくらい声をあげて笑うのですよ!!!!文才?そんなの彼女は持って当たり前だ。今回は取り上げない!課題で夜に泣きを見る!大学所属学部!部活経験!酒豪!転けても友達は助けてくれない!多少厳しい親!目的が出来ると周りが見えず突っ走る性格!完全に一致やないですか!敢えて言うなら社畜ではないぜ☆yeah 社畜だったのは高校の頃だ。これは愛を感じていいんですよね、ね、ね。完全に「きゃっ///モノガターリシュジンコーウ///」状態で白石とのリアリティ溢れる描写のお話だぜ?これ読んで発狂しまくってマンション追い出されても私悔いはないわ。感想が凄まじいことになった…。ありがとう、本当にありがとう。無駄なんて一ミリもなかったよ。あるとしたらあれだ、陸繋がってないってやつだ。あそこ改変しろ「心繋がってるヂャン!」に改変しろ。長々とごめんね、ありがとうございました!!

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