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「第三者が目撃した京天」
※匿名様のみお持ち帰り可能です。





それを見たのは本当に偶々だった。部活の帰り道、部室に置いてきた忘れ物に気付き、慌てて踵を返して学校を目指す。最近は気温も低くて上着がなければ寒いくらいなのに、学校に着く頃には汗でべたべたになっていた。誰かがまだ残っているのか、運良くサッカー棟は鍵が閉まってなく、これ幸いと足早に部室を目指す。明日も朝練だ。さっさと忘れ物拾って帰ろう。焦る気持ちで扉を開きかけて、止まった。小さく開いた扉から微かに声が聞こえたから。普通の話し声なら別に気にせずそのまま開いていただろう。しかし、その声は普通のものでなく、不自然に途切れ途切れで、荒い呼吸と微かに聞こえる水音。


(…え、これ…って)


自分だって年頃だ。そういう類いに関する事には敏感な時期であって、自分の予想が正しければ、今目の前の部屋で行われている事は間違いなく情事だろう。


「…ッ、ん…ぁ…」


(うわぁうわぁっ)


さすが中学は小学校と違って進んでる。だなんて調子はずれた事を考えていると、ふと思考が現実に戻った。
今目の前の部屋では情事が行われているとして、問題なのはここが雷門中学校名門であるサッカー部所有のサッカー棟内であるという事。部員以外に入らないこの場所で、しかも放課後もとっくに過ぎた時間にこの場所にいるという事は、サッカー部に所属している誰かという確立が高い。
つまり、今この中にいる誰かは、先程まで一緒に汗水垂らしてサッカーに励んでいた仲間の1人という事なのだ。


(せ、先輩か誰かなのかな…?いや、もしかしたら同級生の可能性もあるよね。でもこういう事、部室でやってもいいのかな?まあ、部活で恋愛禁止とか言われてるわけではないけど、部室に女の子連れ込むというのは何ていうか…ううん…)


まだサッカー部に入って両手で足りる日にちしか経っていない自分には、ここで部室に入って注意する勇気など無い。暫くの間悩んだが、結局今日の事は目をつぶって帰ることに決めた。


(…あ、忘れ物…はもういいや。明日も朝来るんだし)


扉を閉めようと、把手に掛けていた手に力を入れる瞬間、室内から一際高い声が響く。ドキリとしたが、すぐ思い直して扉をゆっくり閉めていく。完全に塞がれるその直前、小さく、本当に小さくだが。

剣城と、泣きそうな声が聞こえた。



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