稲GOss | ナノ
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(拓天♀)
ところ様のみお持ち帰り可能です。
まるで、王子さまのようだ。
遠目から、彼を初めて見たとき私はぼんやりとそんな印象を抱いた。
雷門はサッカーでは名門校だ。そのサッカー部員達を率いるキャプテンともあれば、校内では一目置かれる存在になるのは仕方の無い話だと思う。文武両道。しかも家柄の良い生まれ。噂によれば、趣味として習っているピアノの腕は相当の物らしい。
そんな絵に描いたような実績と才能を持つ彼を慕う乙女達は数知れず。ミーハーな幼なじみはそれを事細かに私に教えてくれた。
本当にそんな人がいるもんなんだね。秋姉の作ってくれたお弁当を突きながら感想を告げれば、葵は手を伸ばして、私の額を叩いた。
「あヴっ」
「何他人事みたいに言ってんのよ。あんたの彼氏でしょ」
彼氏、という言葉に頬が熱くなるのを感じた。未だに聞き慣れないその言葉。だって、実感が未だ沸かないのだ。
そう、キャプテンこと神童拓人先輩と私は所謂恋人同士なのだ。
「…あ、葵!秘密だって言ったろ!!」
「大丈夫。誰も聞いてなんかないわよ」
「僕は聞いちゃったけどね」
はっ、と声の主を見れば、友人である信助が紙パックの牛乳を啜っていた。彼を含むサッカー部の皆にも伝えてないのに。蒼くなる私の視線に気付いた信助は、にこりと愛らしい笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ天馬!僕知ってたから!」
「えぇっ!?」
衝撃の事実に声も出ず、ただ口を開閉するしかなかった。いつから露呈していたのか、そもそも誰に聞いたのか。私じゃないからね。問う前に幼なじみが先手を打つ。じゃあ誰が?持ち上げた腰を再び椅子に収める。そんな私の様子に信助は苦笑を漏らした。
「残念だけど、多分サッカー部の皆は知ってると思うよ」