その時の判断が正しかったのか、間違ってたのかなんてのはどうでもいい。


その時、私が選んだのは大楠だった。紛れもないその事実が


すべてだから。







これから先、洋平を想って鼓動を速めることや泣くことをしてはいけない。私が選んだのはそういう道なんだと思う。


「そっか、大楠と付き合うかぁ」
「うん、鳴海は全部知ってたんだよね」
「まぁ大楠があんたのこと好きなのは、ありゃ気付くでしょ」
「そして私が洋平を好きなのも知ってたし、どっちにも協力してくれてたんだね」
「洋平とうまくいってほしかったってのも本心だし、大楠ならあんたのこと幸せにしてくれるんじゃない?ってのもホント。だから、まぁ、いいと思うよ」
「なーるーみー!男前ー!惚れるわぁ」


ありがとうぅ、と泣きつく私を周りの人はふざけてるように見えるかもしれませんが、これはマジなやつです。だって、本当に辛かったんだよ。洋平から大楠に逃げたって思われても仕方ないけど、私だって今までの人生で1番ってくらい頑張ったんだよ。それでダメなら、いいでしょ。リタイアぐらい、自由にさせて。


三年生になった私はクラス替えという制度により、さらに洋平とは遠くなった。もちろん前みたいにみんなでどっか行ったりとかはあるけど、解散する時は決まって私の横に大楠がいて。みんなとは違う方向に歩き出す。洋平は彼氏彼女になった私たちを茶化すだけ茶化して、良かったなと呟いた。その言葉が私にとって、この恋の終わりを告げるなによりの祝辞だった。今はまだ痛い、だけど、もう前に進んでるんだ。

















「水戸くん、はいプリント」
「ん?ああ、委員長か。サンキュ」
「もう!いまは委員長じゃないって言ってるのに」
「ハハハ、悪い悪い。つい名残でさ」
「みょうじさんと仲良かったからクラス離れちゃったの残念だった、ね?」
「んー、なんかみんなそう言ってくるんだけど。べつクラス違うのくらいどうもしないって」
「そう?でも本当にいつも楽しそうだったからさ」
「自分じゃわかんねーもんだな」
「そういうもんなんだ、あ!じゃあこれも知らないでしょ!?」
「なに?楽しそうだね、委員長」


女子特有の中身なんてなんもないようなおしゃべりで口を緩める委員長。こういうのはあんま好きじゃねーんだけど、委員長がしたらけっこう可愛い。真面目だからなぁ普段は。こんな顔もするんだねぇと思うと、やっぱり可愛らしい。


「水戸くんの秘密教えてあげるよ」


いたずらに笑った委員長の顔は、今まで見た委員長の中で1番可愛かった。だから。だからきっと。その話が俺の中でぐるぐる、ぐるぐると残ってしまったんだ。他に理由なんて、あるわけない。














駅から徒歩15分の帰り道で、大楠が私の手を繋ぐ。春なのにまだ寒いと文句を言って繋ぐのに、彼の手はとても熱を持っていた。


「なまえ」
「なに?大楠」
「あーこんなこと言うの恥ずかしいけどよ、」
「じゃあ言うな」
「おいおい待てコラ」
「なによもー」
「いや、まぁ、その。ずっとこんな感じで一緒に居れたらいいよな」
「まぁ飽きなさそうだよね」
「だろ!?」
「じゃーよろしくね」
「おう!」


10年後の私。


今、私はシアワセですか。


隣には誰がいますか。


後悔はしていませんか。


未来のことは分からないけど、この長いようで短い一年を後悔だけはしていないで欲しい。


洋平を好きになったこと。


洋平と触れ合ったこと。


洋平を諦めたこと。


大楠と付き合ったこと。


どれかひとつでも後悔している人間にはなっていて欲しくありません。


後悔していると言ってしまう人になっていて欲しくありません。


この時の私にはどれも大切なことだったと思うから。


でもひとつだけ。
今の私でも後悔していることがあります。


洋平に好きだと言えなかったこと。


言えてたら、10年後なにか変わってたのかな。


そう思えて仕方ないのです。
考えても仕方のないことだけど。


洋平が本当に大好きだった。そんな私を好きだと言う大楠がいた。


みんな自分の気持ちに一生懸命なだけだよね。


だから後悔だけはしていて欲しくない。


10年後の私。


今の私になにを言ってあげたい?


それが知りたくて、はやく、はやく大人になりたいと切に願った16の春。


私はひとつの恋を手放した。












20120727 完


*つみき本編へとつづく。




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