「あんた達付き合ってると思ってたよ」
「私だって付き合えると思ってたよ」







鳴海からそのショッキングな事実を聞いたとき、心臓を握りつぶされるって表現は実際起こり得るものなんじゃないかと思った。私の心臓は何個あっても足りない、すでにふたつほど成仏しています。洋平からその話を聞いたことはない。でも、鳴海から私に伝わるなんて普通に考えて想像つくだろうし、隠してるわけじゃないのかな。まぁ隠されても隠されてなくてもどっちにしてもショックなことに変わりはない。背中に一気に重い荷物を背負わされての夏休み突入。洋平のお見舞いに行くことだって大楠たちが一緒じゃないと絶対にいやだ。もしそこで彼女と鉢合わせしてみなさいよ、気まずいったらないわよ。


夏休みに入ってすぐ洋平の手術は行われた。軍団に慈悲の心がないってのは知っていたけど、まさか手術の日にお見舞い誘われるとは。いいのかなぁと思ったけどやっぱり会いたいし、結局行ったんだけど。お願いだから彼女いないで下さいと思ってドキドキしながら部屋を覗くと彼女どころか洋平らしき人もいない。あれ?部屋間違えたかなって大楠の方を振り返ると3バカトリオお腹抱えて笑ってます。ん?


「「「ぎゃっはっはっはっは」」」
「ヴるぜー、」


大声で笑う3人に向かってダミダミ声で呆れる人物、え、だれ?あ!


「よーへい!髪おろしてるーーー!、ぷ」


かわいいーーー!病院指定の薄緑のパジャマみたいなのに身を包んだサラサラストレートの好青年、これが洋平ってマジ笑える。だれやねん。


「ひーもうちょう、洋平ウケ狙うんやめてー」
「そーだぜ、お前キャラ考えろー」
「あーづらい」


どうやら手術直後に来ちゃったらしく、洋平の声帯はボロボロでした。辛いのは分かる、分かるけど私達も笑いすぎてお腹よじれそう!逆に辛い!


「はーこれに慣れるの1年かかりそう」
「かかり、すぎ」
「洋平二学期からこれで来いよ!」
「バカやろー行ぐかよ」
「ん、なんて?」
「なまえ、てめ」


あー喋れてない、かわいいよ洋平。いつも私が噛んだら真っ先に突っ込んでくる仕返しさせて頂くよ。しばらくギャイギャイしていると看護婦さんがやって来て「水戸くんを喋らせないで!あとあなたたち五月蠅いです!!」って怒られた。やっぱりどこに居ても問題児だなぁ。


「まーさすがに今日は帰るか!洋平元気しとけよ」
「じゃあね洋平ちゃん、寂しくなっても我慢してね」
「、ヴっせ。じゃーな」


病室を後にして歩いていると、こっちへ向かってくる一人の女性が目に入った。すれ違って行方を目で追ったけど洋平の部屋には入っていかなかった。ホッとする自分がひどく狭い人間に思えた。


次の日、家でごろーんとアイスを食べながらワイドショーを見るっていう史上最強のぐうたら具合を発揮していたら、携帯のイルミネーションがピコンと青く光る。青!青は高校の男友達です。もしかして、と期待してメールを開くとまさにその人からで。


【なんか飲み物買ってきて。】


パシリ上等って返事を送ると同時に、急いでマスカラを塗りたくった。


「おーサンキュ」
「あ、声戻ってる」
「オレ無敵だからよ」
「よく言うよ、手術めちゃくちゃ怖がってたくせに」


一日しか経ってないのに、もう昨日の可愛らしさはなくなっていてちょっとがっかりだ。リーゼントでこそないが、もう普段の洋平。憎ったらしい洋平だ。


「昨日の様子だと思って差し入れ持ってきてあげたのに」


机の上に乗っている花瓶のお花は昨日のまま。目ざとくそんなところをチェックしてしまう。洋平の嫌いなおんなおんなっぽい行動を自分がやっているのは、虫唾が走る行為だと思った。


「どうした、元気ねえな?」
「えーいや、ううん」


洋平は私のことを抱きしめたりしても絶対にキスをしてくることはない。そしてその行為自体なかったかのように朝になると普通に接してくる。何も知らなかったときはそれでもよかったけど、彼女がいると知ってしまった以上、それがすべての答えのような気がした。洋平はきっと私が好きって気付いているだろうし、同情のつもりなのかもしれない。優しいから、洋平は。でもそれが優しさならしんどい。


「あ、そうそう」
「ん」
「今度の土曜おれ仮退院なのよ」
「へーおめでと」
「その日なまえヒマ?」
「、ヒマ!!」


でも今日のパシリとか仮退院の日にあえて私を誘ってくるとか、期待しかないじゃん。彼女はお見舞いに来てないっぽいし、来る気配もない。もしかしたら別れる直前なのかもしれない。私も今まで付き合った人は長続きしたことないから、似た者同士の洋平はその可能性が十分にあると思う。それで私と仲良くなるちょっと前に付き合いだしたとかなら一番いいと思った。今は別れる準備をしてて、ちゃんと決着ついたらこっちに来てくれるのかもしれない。キスをしてこないのも洋平なりのけじめかもしれない。そうだったらいいと、そうに違いないと、私は寝ても覚めても浮かんでくる最悪の疑問を必死に打ち消していた。




(洋平、私は浮気相手じゃないよね?)


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