未練電話


未練電話



珍しく自分から洋平にメールをした。ただ単に聞きたかったことがあるからなんだけど、別にしなくてもいいメールと言われればきっとそうだ。それでも少し時間をかけてメールしてしまうのは、どうしても未練を捨てきれない証拠だと思う。


お昼休みにそれを送って、午後はデスクワークに励んだ。今日は外出もなく、比較的のんびり仕事が出来る。ただ今日は少しくらい忙しくてもよかったのに。仕事柄、携帯をデスクに置きっぱなしでも問題はないので、ついメールの返信が気になってしまう。


そわそわしながら一日を過ごしたが、仕事が終わるまでにメールが返ってくることはなかった。それでも無視されてるんじゃないという核心がある。洋平、わたし最近は緊張するから電話じゃなくてメールでいいんだけどな。


家に帰ってご飯を作る気にもなれず、ビールとちょっとした枝豆をつまんでいると案の定携帯が鳴りだした。ディスプレイには水戸洋平の名前。


「もしもーし洋平?」
「あ、もしもし」


受話器の向こうからは彼の声のほかに車の音や風の音が聞こえてくる。


「外いるの?」
「うん今帰ってんだよ。でメールのやつだけど」


多分私も洋平もそこまでメールの内容についてはどうでもいいんだ。お互い時々声を聞きたくなったりするだけなんだ。離れられないだけ。離れたくないだけ。


「そういえばこの前大楠に会ったよ」
「え、なんで」
「出張かなんかでこっち来ててね」
「へー」
「結構ふつうに話せんの、しかもあっち彼女いるしね」
「あぁ、」
「そういや洋平は知ってたんだっけ」
「うん」


洋平は都合が悪い会話になると分かりやすく口数が減ってしまう。私もそれを分かっているのになんだってこんな話題を出してしまうんだろう。でも黙っておくのはなんだか後ろめたいの。


「あ、そうそう」
「ん」
「鳴海の結婚式の前後に一週間休みとれたの。里帰りも兼ねてゆっくり帰るよ」
「おお、じゃあそん時また」
「ねえ洋平あそこ行きたくない?」
「なに、どこよ」
「ふふふ内緒」
「なんだよ。それじゃわかんねーよ」
「あはは計画しとくから楽しみにしてて」
「おー」


しばらく前から洋平の歩く音が聞こえなくなっていた。どこかに止まって話しているようだ。


「洋平家ついたんじゃない?」
「うんいま」
「じゃあまたね」
「そうだな、また」


私たちが電話を出来るのは洋平が家に帰るまでの時間って決まっている。家に着くと洋平の彼女が待っているから。私と電話をしているなんて、彼女にとっては一番嫌に違いない。私も洋平もそれを分かっているから、いつの間にかこれが暗黙のルールになってしまっていた。


それなら電話をしなきゃいい、そう思うけど電話をくれるのはいつも洋平。洋平だってきっと私への未練を捨て切れずにいるんだとその度に痛感してしまうのがしんどかった。





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