今日はとってもいい日にするから(歌)



ワンライ再掲

黒い服は死者に祈る時にだけ着るという。高専の制服は黒を基調としたデザインだけれど、そんな意味も込められているのだろうか。もちろん返り血が目立たないためであったり、激しい動きを要する分汚れにくくするためなどの実用的な理由もあるのだろうけれど、せっかくの学生生活を黒一色で終わらせるのは、あんまりではないか。
だから、無理を承知で歌姫先生にわがままを言った。
「歌姫先生、袴を着付けてもらえませんか」

◎◎◎

歌姫先生の手つきはとても慣れたもので、さすが毎日着物を着ているだけあった。紐を締める時には必ず声を掛けてくれたし、帯も瞬く間に形になった。自分のお給料で買った桜色の着物と紫色の袴は、いつの間にか私の身体に馴染むように着付けられていた。
「可愛いーー!!歌姫先生、ありがとう」
「とっても似合ってる。これで準備万端ね」
一瞬二人の間に、短い沈黙が流れた。きっと同じことを考えている。私はあの時、命を落とした彼らを祈ることはできていたのだろうか。過ぎたことを取り返すことはできなくて、だからこそ生きている私たちが動くしかないのだけれど。
「先生、今までありがとう。私、みんなの分も頑張るから」
「その気持ちがあれば大丈夫よ。だから良い日にしなさいね。卒業おめでとう」
歌姫先生がとん、と背中を軽く叩いた。頬を撫でるあたたかな風が、今日だけは私の門出を祝福している。先に待つ戦友の元へと、袴をたくし上げて走り出した。





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