今日はとってもいい日にするから(硝)


ワンライ再掲



もう駄目かもしれないと思ったとき、大抵のことは手遅れだったりする。そんなときは決まって、布団の中で身体が泥のように動かなくなるのが私の中で恒例になっていた。そして今日その日がやってきてしまったのだと、私は温い布団から重い身体を起き上げた。
「あ。起きた?」
「ごめん、今日動けそうにないや」
先に起きていた硝子はコーヒーを啜っていた。壁に掛けてあるテレビからは洋画の音声が聞こえて、アレグラはイタリア語で嬉しいという意味なんだぜだのなんだのという吹き替えが小気味よく部屋中に響いている。黄味がかった照明と、温かな空調が私を落ち着かせた。シンプルながらあたたかみのあるレイアウトの硝子の部屋はいつ来ても優しく迎え入れてくれて、脱ぎっぱなしの部屋着や買ったままの詰め替え用のシャンプーが放置されている私の部屋とは大違いだった。
「で、少しは落ち着いたの」
「うん、なんとか。昨日は急に押しかけちゃってごめんね」
「また馬鹿みたいに予定詰め込んだりして」
そう言って硝子が私にマグカップを手渡した。濃い目に淹れられたコーヒーの香りが肺を満たし、ゆったりとした朝であることを告げる。
「多少の健康と心の余裕と土日を犠牲にすれば仕事は片付くから、いつもの癖ってところかな」
「それで昨日プチンと切れてここに来た、と」
「ご名答」
あははと笑っていると、額に鋭い痛みが一つ。
「休める時にちゃんと休みなさい。今日は私が面倒見てあげるから」
硝子がこうしてデコピンしてから私を叱るのは、高専の時から変わらずだった。
「休日が被ったことに感謝しなきゃね」
「アマプラ何見る?リモコン貸すから好きなの選びな」
こんな時に硝子と過ごすと、なんだか良いことが起こる気がする。だからこうして、今日も彼女に甘えるのだ。




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