リボンの魔法(三)


ワンライ再掲。三輪ちゃんがアイドルのオタクしている設定です。


たっぷりフリルの付いたピンクのブラウスに、黒のキュロットの裾が揺れる。普段はスラックスだからかスカートに抵抗がある三輪ちゃんも、これなら安心と喜んでお揃いで買ったエブリンの上下のコーディネート。
26ミリのコテで毛先を巻いてツインテールにして、仕上げにMIU MIUのピンクのリボンを巻きつけ、コテでならす。あたしは前髪も巻いたけど、三輪ちゃんはそのままで十分可愛いからそのままで。

「......はいできた」
「わ......これが私?」

鏡で映った私たちは、言うなれば可愛くラッピングされたマカロンのようなものだ。世間はあたしたちのような格好をする若者を量産型と揶揄するけれど、これがあたしたちの個性であり、勝負服なのだ。

「そうだよ。とっても可愛い!最高じゃん!」

厚底のローファーに足を滑らせて寮を出る。今日は世界で一番大好きな人達に会えて、世界で一番あたしたちが可愛い日!

◇◆◇
はじまりは実技の授業だった。あたしの推しのグループのマフラータオルを使っている時に感じた熱い視線。その先をたどると三輪ちゃんが目を輝かせていた。

「それって......」
「うん、推しのグッズのタオルだけど」
「やっぱり!!!!私ずっとほしかったの、でもコンサート行ったことなくて」
「えッえええ!?三輪ちゃんも好きなの????円盤あるよ見ようよ」
「ほんと!!??」

なるほど三輪ちゃんもここのヲタクだったのか、灯台もと暗し。東京校の五条先生のことも格好いいって言ってたもんな、真衣も桃も五条先生はあり得ないって言ってたけど、私は顔はいいと思う、顔は。

「ほんとほんと。なんなら2連しようよ!で、誰担なの?」
「えっとね、......」
「シンメじゃん!!!!!!本気で2連!!!!三輪ちゃんの現場デビュー見届けさせて!!!!!!」

奇跡が起きた。三輪ちゃんとあたしの担当はシンメだった。絶対2連する。

◇◆◇
【おめでとうございます!第1希望で当選です。】
星のマークで囲まれた文字が視界を滑る。
「三輪ちゃん!!当たった!!」
「ほんと!!??神様!!??」
大阪の某ホールでの公演が当たった。京都から近いから日帰りで行けるのがありがたいねぇ、服どうしようか、任務の間で準備をしている間にあっという間に当日になった。

朝はグッズを買い、会場付近で写真を撮って、開場までの空き時間でプリクラを取った。めかしこんでいるからか、ぎゅっと抱き寄せるポーズも頬を寄せるポーズもノリノリで行えてしまったから不思議だ。三輪ちゃんからいい匂いがするから聞けばDiorのブルーミングブーケの香り。いつの間に買っていたのかびっくりしていたら、「つける?」って貸してくれたからお言葉に甘えてひと吹き。三輪ちゃんとお揃いの香りがふんわりと香る。女の子の香りだ……

◇◆◇
照明が消えて、黄色い声が場内に響き渡った。三輪ちゃん、目にハートマークが浮かんでる。私と三輪ちゃんの推しが目の前を通った。三輪ちゃんの推しが、三輪ちゃんの持つ「バーンして!」の団扇めがけて手で拳銃を打つ仕草をした。

「ひっ......」
膝から崩れ落ちる三輪ちゃんを必死に支えるあたしを見てにこにこと笑う三輪ちゃんの推し、罪深い。運よく通路最前を取れて一生分の運を使い果たした感はあるけれど、三輪ちゃんがこんなに幸せになれた姿を見れたならもうそれで充分だ。

◇◆◇
「初めてのコンサートはどうだった?」
「いた…...確かに推しがいた......」
寮に帰ってからもぽやぽやとしながら、まだ夢見心地でいる三輪ちゃん。その姿が恋する乙女そのもので、いじらしくてしかたない。
「それ、初めて現場に行った子が口を揃えて言う台詞だよ。楽しめたみたいでよかった。疲れてない?先お風呂行っておいで」

するりと三輪ちゃんのツインテールからリボンを解く。夢の世界から魔法が解ける瞬間のようで切ない。明日からいつもの生活が始まる。三輪ちゃんと二連できて楽しかったな、ペンライトの景色好きだな、また行きたいな。ほんの少しだけ感傷に浸りながら、あたしもリボンを解いていった。




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