裏口 | ナノ


▽ ずぶぬれ


「あっち……」
ゼロスは額から流れる汗をぬぐった。
まだ6月だというのに、今日の昼間は、まるで真夏のような暑さだった。
夜になっても気温はさほど下がらず、泊った安宿には、クーラーなんてものもない。
夕刻、せっかくシャワーを浴びたというのに、もう汗だくだ。
当然、寝付けるはずもない。

だが、隣のベッドのクラトスは、軽やかな寝息を立てていた。
この暑いのに、よく眠れるものだ。
しかし、よく見れば彼も汗だくで、クセのある髪の毛は泳いだ後のようにしっとりと濡れ、額やうなじには、汗が伝っていた。
その姿が、
(……やけに色っぽいじゃねーか)
触れたい、と思わず手を伸ばしたが、寸でのところで思いとどまった。
こんなときに情事に持ち込んだら、もっと暑いに決まっている。

……でも。
この天使の肌は、夏でもなぜだか冷たいのだ。
(ちょっと触るくらいならいいか)
ゼロスは隣のベッドに歩み寄り、そっと二の腕に触れた。

はたして思ったとおり、こんなに汗をかいているのに、天使のそこは、ひんやりと気持ちよかった。
「おー……、いっそコレを抱いて寝ちゃう?」
天然クーラーな抱き枕。
でも、ゼロスはごく標準的な体温だから、天使にしたら堪ったものじゃないだろう。
気づいた途端に、振り払われそうだ。

どうしたものかと、少しの間悩みつつ、ゼロスはその寝姿を観察した。

何時もより、かなり露出が多めだ。
素肌に、ゼロスが貸してやった黒のタンクトップを着ているから、鎖骨も二の腕もむき出しで、さらに下半身はといえば。
(下着しか穿いてねーし……)
暑いのだろう、肌蹴た上掛けから、見事な脚を惜しげもなく晒し、きわどい黒のビキニからは、白くて柔らかそうな素肌が覗いている。
ゼロスは思わず生唾を飲んだ。
こんな姿を見せられて、冷静でいられるわけがない。
「あー……、ったく、あんたが悪いんだからな」
もう、暑いだなんだなんて、どうでもよくなった。
それより、体に宿ったこの熱を、どうにかしてほしい。


「おーい……、天使様」
側面から、ギシリ、とベッドに乗り上げた。
上掛けは取り去って、ごろん、とベッドの端に寄せる。
タンクトップを首の下まで捲りあげ、ビキニの下着を数センチずらすと、ますますセクシーな格好になった。

黒い着衣をわずかに纏った白い肌。
色付く胸の薄紅と、少し下ろした下着から見える、色の濃い部分がアクセント。

「……うっわ、いい眺めだねぇ」
目の前の極上の獲物に、思わず舌なめずりする。
「じゃ、いただきますか」
汗に湿った服を脱ぎ捨て、素裸になると、ゼロスは天使の体に覆いかぶさった。


「んっ……、なんだ……? ゼロス?」
事を始めてものの1分と経たないうちに、クラトスは目を覚ました。
飛び込んできたのは、夜目にも鮮やかな赤い髪。
「ごめんねぇ、天使サマ。寝てるところ悪いけど、食わして」
ゼロスが、天使のなめらかな肌に吸い付きながら、もごもごと言う。

「っ、やめろ…! 暑い、のに……!」
「いいでしょ? たまにはこんなのも。野性的でさ」
「ん、ぁ……!」

抵抗する脚を身体で抑えつけ、下着を引き摺り下ろし、取り去った。
ついでにタンクトップも脱がせ、上半身を強く引き寄せる。

「はぁ……、ホント、あっついよな」
わざと肌を密着させ、脚を絡ませると、体の下から苦情が聞こえた。
「馬鹿者……! 暑いのなら、早く退け!」
「嫌だね。コッチの熱さのほうが、深刻なんでな」
もうすっかり昂っている下半身を押しつけると、天使はビクリと身体を震わせた。
「?! ……こら、ゼロスっ……!」
ますます抵抗しようとする体を、押さえつける。
剣では負けても、体術なら、ゼロスの方が少し上手だ。
寝起きであれば、なおさら。
「さ、観念しな。気持ちよくしてやるから」
耳元に、とっておきの声で囁くと、その身体から、諦めたように力が抜けた。



その後、ゼロスは、天使の体をこれでもかというほどに貪った。

舐めて、しゃぶって。
繋げて、擦って。
注いで、かけられて。

もう、どっちの汗だか、体液なんだかよくわからない。
気づけは互いに、激しく求めあっていた。

ひたすらに暑く、熱く、濡れて、乱れて。
体温と同じか、それ以上に暑い部屋の中で。
いっそ、このまま、溶け合ってしまえたらいいのに、などと思うまで。





「……うっひゃー、暑かったあ……!」
「……まったくだ……」

幾度かにわたる行為のあと、互いに荒く息をつきながら、二人はベッドの上に体を投げ出した。
もう、ずぶぬれなんてものじゃない。
「あー……、水飲も、水! 喉渇いた〜!」
「そうだな……、おまえが持って来い」
「あー、はいはい。分かりましたよー……」

仕掛けたのは自分だから仕方がないと、ゼロスはノロノロとベッドから下り、水を汲みに行く。体を起こすと、額を伝う汗がパタパタと落ちた。
久しぶりに無茶をした。
体力も限界で、全力を尽くしたあとのアスリートさながらだ。

「ほらよ。水」
「ん……、ありがとう」
「はは……、それにしても、すごいカッコだねぇ、天使サマ」

彫像のように整った身体が、汗や、その他のものにくまなく濡れている。
月の光にてらてらと光るそれが、イヤラシイことこの上ない。
からかうように笑うと、天使は上目遣いに睨んだ。

「うるさい、誰のせいだと思っている」
「ん〜? 俺サマのせい……だけじゃないよなぁ。アンタも結構……、」
「それ以上言うと、次は無いぞ」
「あー、わかったわかった。そんなに怒るなって。……シャワー浴びよっか」

ゼロスは、まだしかめ面をしている天使を促し、バスルームへ向かった。
水に近い温度のシャワーで体を流してから、乱れていない方のベッドへ、二人で移る。

「……くっそー、やっぱ暑い……」
「ならば、もう少し離れろ」
「んー……、そーだねぇ……」

そう言いつつも、ゼロスは離れない。
そのうちクラトスも観念して、ため息をつきつつ、目を閉じた。

「でもさ、たまには悪くないだろ? こんな風に、ワイルドなのも」

ゼロスの問いに、天使は返事をしなかった。
しかし、これが彼なりの肯定なのだと知っているゼロスは、内心気を良くする。
おかげで、この鬱陶しい熱帯夜も、少しは好きになれそうだった。

end.


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