裏口 | ナノ


▽ 公爵家の傭兵


(……まったく)
傭兵、クラトス・アウリオンは今夜幾つ目かになるため息をついた。
城で催される宴の警備など、傭兵の仕事としては、比較的気楽な方だ。
しかし、
(よもや、自分まで正装せねばならぬとはな……)
白と青を基調にした衣装は、彼の雇い主から賜ったものだ。
護衛がこのような目立つ格好をするなど前代未聞だ、と訴えたが、主は聞き入れなかった。
『華やかな場所では、地味な格好の方がかえって目立つ。それに、とてもよく似合っているぞ。こんな姿のそなたを連れて歩けるとは光栄だ』
慈しむような眼差しは、その奥底に、有無を言わせぬ強さを併せ持っている。
こういうところは、さすが大企業の会長だ。
言うことを聞かざるを得ない雰囲気にさせられる。
渋々ながら、クラトスは了承し、今に至る。
正装したからといって、任務を果たせないこともない。
齢16にして、その剣の腕前は、王国の騎士団にも劣らないと評判だ。

とりあえず宴が終わるまでの数時間、雇い主であるリーガルから目を離さずにいよう、と気を入れ直した時だった。
ふと、不躾な視線を感じた。
敵意や、殺意ではない。もっと、ねっとりとした、嫌なものの類いだ。
振り返ると、一人の男が立っていた。
もう初老といって差し支えのない年齢。
だが、体は鍛え抜かれており、背丈も気迫もある。服装からして、爵位を持つ者のようだ。
「君、見ない顔だが、どこのご子息かな?」
男は作り笑いを浮かべ、近づいて来る。
熱のこもった、舐めるような視線が不愉快だ。
こんな席でなければ、即座に振り払っているだろう。
だが、リーガルに恥をかかせる訳にもいかない。
クラトスは、最低限の礼を持って返答した。
「恐れながら、私はどなたの子息でもありません。今日は警備の仕事のため、ここに参りました」
すると男は、あからさまに態度を変えた。
「護衛か。ならば、遠慮はいらないな。どうだ、この後、私と」
下心を隠さずに、手を伸ばす。
が、その手が、肩にかかるかというところで、逞しい腕が、クラトスの体を引き寄せた。
「これはこれは。我が家の者に、何かご用ですかな?」
いつの間にか、リーガルが側にいた。
男は驚き、あわてて取り繕う。
「いや、まさか貴方様の所の方とは……。これは失礼した」
そそくさと立ち去るその背を一瞥したリーガルは、フンと鼻を鳴らした。
「まったく、あの爺め。いやらしい顔でそなたのことをじろじろと見おって。許せぬ」
「声が高いぞ。それに、私のことを気にかけている場合ではないだろう」
確か先ほどまで、リーガルは王の側近と話をしていたはずだ。どんな話かは知らないが、それよりも護衛一人を優先したとあっては示しがつかない。
だが、リーガルは気にする風もない。
「そなたより大事なものなどない。また何かあれば、すぐに駆けつける」
だから、それは護衛である自分の仕事だというのに。
倍ほどの年齢差があるとはいえ、どうもあの男は過保護に過ぎる。
パーティーに戻って行く後ろ姿を、クラトスは呆れたように見送った。


「今日はご苦労だった」
宴が終わり、屋敷に戻ったクラトスは、そのままリーガルの部屋に通された。
「……無事に終わってよかったな」
「ああ。そなたが見守っていてくれたおかげだ」
「何を言う。何もしていないではないか」
大抵の宴がそうであるように、不穏なことは起こらず、和やかに場はお開きとなった。
それが一番良い終わりかたではあるが、今一つ物足りなさが残る。
そんなクラトスの様子を見ていてか、リーガルが声をかけた。
「疲れてはおらぬか?」
「ああ」
「では、もうひと働きしてもらいたい」
屋敷の警護だろうか。
それとも、明日の仕事の下調べだろうか。
どちらにせよ、断る理由はない。
「なんなりと。だが、その前に着替えさせてほしい」
「その必要はない」
なぜ、と問い返そうとしたとき、膝裏に腕が回った。もう片方の腕で首から肩も支えられ、軽々と横抱きにされる。
「服ならば、私が脱がそう」
「待て。もう一働きとは、その……」
「そうだ。不服か?」
そのままベッドに運ばれ、下ろされると同時に覆い被さられる。
上質なコロンの香りに、頭がくらりとした。
リーガルと触れ合うのは、これが初めてではない。
手を繋ぐ、抱き締められるなどのスキンシップはこの屋敷に招かれた10に満たぬ年頃からだが、15の時には初めての口づけを交わし、16になってからは、もう少し進んだ関係を持つようになった。ゆっくり、長い時間をかけて、二人は互いの気持ちを育んで来た。
それは至極和やかで、穏やかなものだった。
だが、今宵のリーガルからは、少し危険な雰囲気が漂っている。
宴で飲んだ酒が回りでもしたのだろうか。
見下ろす視線は、いつもより熱をはらんでいるように感じる。
不安とも、期待とも思える胸騒ぎを感じつつも、クラトスは瞳を閉じ、リーガルの口づけを受け入れた。

「あ……、リーガルっ……、んっ……」
「どうした? 今日はいつもより感じているようだが」
「んぅっ……、違っ、あ、う……!」
正装した上着をはだけ、露出した白い胸に顔を埋めたリーガルは、先ほどから執拗に、薄紅色の突起を食んでいた。
唇で、歯で、舌で攻め立て、クラトスの快感を徐々に引き出して行く。
「ほら、ここも、もうこんなに」
「いや、だ……!」
脚の間に手が伸ばされ、クラトスの未成熟な昂りを大きな手のひらが包み込む。
そこに触れられるようになったのはごく最近のことで、慣れないクラトスは、思わず背を弓なりにしならせた。
「あっ……! は……ッ」
「ここは、好きか?」
「ん……っ、うあっ、あ……!」
緩やかに手を動かされるだけで、頭の上まで熱い痺れが駆け抜ける。
覚えたばかりの快感は、制御するのも難しく、わずかに愛撫されるだけで、そこははしたない程に濡れた。そのぬめりが更なる快楽を呼んで、情けないほど簡単に上りつめてしまう。
「あっ、うあぁ……っ!!」
程なく白い飛沫が散り、腹と胸を温かく濡らした。涙を滲ませ、肩で息をするクラトスの髪を、リーガルは優しく撫でさする。
「どうだ、気持ちよかったか? ……少々、急ぎすぎたか」
「は………ぁ、リーガル、も………、」
「ん?」
「リーガルにも、同じように……、気持ち良く………」
クラトスは、呼吸を整えながら、リーガルを見上げた。
常ならば、この後リーガルはクラトスの手や口、太股や、双丘の谷間を使い、高みに達する。
挿入は、未だしたことがない。
それはもっと大人になったら、と言われている。
だが、今夜は違った。
リーガルは、熱のこもった目でクラトスを見つめ、告げた。
「そなたと、ひとつになりたい」
「え……?」
「これを、そなたの中に入れたい」
「、っ………!?」
蕾に押し付けられた灼熱。
言うまでもなく、それが何であるか理解したクラトスは、ぶるりと身を震わせた。
この熱さ、太さ。
間違いなく、リーガルのものだ。
「本当は、そなたが成人するまで待つつもりだった。だが、今日のようなことがあると……、この先安心していられぬ」
絞り出すような声に、ああ、宴でのことか、と思い当たる。
下心を剥き出しにした男の誘い。
あんなものに乗るはずはないし、たとえ力ずくで来られてもはね除ける自信はある。だが、リーガルは更にその先を見据えていた。
「優しいそなたのことだ。私を引き合いに出されでもしたら……」
「そう……だな……」
その可能性は否定できない。
今日とて、相手がもっと高位の者で、リーガルに危害を加えることをほのめかされたら、拒絶しきれていたかわからない。
「たとえそなたが私以外の輩に汚されたとしても、私の気持ちは変わらない。しかし……」
呻くようなリーガルの声は、彼の苦悩を表していた。クラトスには、その気持ちがよくわかった。
自分も同じだからだ。
リーガルを守れるのなら、この身などどうなっても構わない。
けれど、叶うなら、誰よりもまずリーガルに、すべてを喰らいつくしてほしい。
「わかった」
クラトスは、その要望を、静かに受け入れた。
「なってくれるか? 私のものに」
再度問い直すリーガルに、もう一度、しっかりと頷く。
リーガルのものになるということは、その大きく怒張した欲望を、自らの体内に受け入れるということだ。男性として、このような行為は、通常許容しがたいことだろう。
だが、決して嫌ではなかった。
いつかは、こうなる気がしていた。
この屋敷で、彼に仕えることになったときから。



香油か、それとも、何か特別な薬品なのか。
それらをたっぷりと纏った指が、クラトスの体内を行き来する。
最初は一本だった。
それらは徐々に増やされ、今、三本目が潜り込んだところだ。
決して細くはない、武闘家の指。
それらがぎちぎちに詰め込まれた自分のそこは、一体どうなっているのだろう。
最初は、一本でも息苦しかった。
だが、滑らかに抜き差しされているうち、なんとも言えない重さと熱さが、体の奥から湧き上がって来た。
もっと、擦ってほしい。
激しく出し入れしてほしい。
焦れる度に指は増やされ、その動きも大胆になっていく。
両の脚を高く掲げられ、秘所を晒す格好。そこに愛しいリーガルの視線が注がれ、指で犯されている状況は堪らなく恥ずかしかったが、それよりも快楽の方が勝ってしまった。
もっと、もっと。
ついに、自分から腰を揺らし始めたとき、束ねた指が、ずるりと引き抜かれた。
「よいか………?」
リーガルが、のし掛かってくる。
両の膝裏をとらえられて左右に割られ、腰が浮くほどに持ち上げられた。
ああ、来る。
熟れた蕾に、まさに巨根と言うにふさわしいそれが、慎重にあてがわれる。
脚と腰が高く持ち上げられたせいで、その様子がよく見えた。
未だにそれが、すんなり入るとは思えない。
だが、怖くはなかった。
リーガルに壊されるなら、本望だ。
「欲しい………、早く………」
気づけば、そんなことまで口走っていた。
初めてのくせに、何とはしたないことかと即座に後悔したが、リーガルはその言葉にいたく煽られたようだ。
やおらクラトスの細腰を抱え上げると、わずかな戸惑いを見せながらも、ぐいと先端を埋め込んだ。
「んうっ、うぁああ………ッ!!」
ビリビリと焼けつくような痛みに、思わず悲鳴を上げる。幼児の腕ほどもあるそれは、やはり、指とは比較にならない。
裂ける。壊れる。
知らず、涙が溢れ出す。
その様子に、リーガルは一瞬迷いを見せた。
だが、すぐにそのまま、体重をかけて侵入を開始する。
「クラトス……! すまぬ……!」
「ううッ、ぐ、あぁッ……!」
気にするな。そう言いたいのに、口をついて出るのは悲鳴ばかり。
やがて、ごつりと体の奥が突かれ、侵入はそこで一旦止まった。
涙で霞む目で見れば、漸く半分程が納まったところだった。
二人とも汗だくだ。
しかも、リーガルは、見たこともないほど余裕を失っている。
どうしたのか……と不安げに見上げた途端、リーガルが低く呻き、ゆっくりと腰を前後に動かし始めた。
ごり、ごりと壁を抉る動き。
引き抜かれては、また奥に入り込まれる。
「う、あぁ………、」
「クラトス、クラトスっ……!」
狭い、きつい、熱いなど、切れ切れに呟かれた気がする。
それがしばらく繰り返され、やがて、徐々に激しい動きに変わり。
ついに、下腹に熱が弾けた。
「っ、ひぃっ………?!」
熱は激しい奔流のように、体の奥深くまで放射される。普段、勢いよく、また大量に放たれるリーガルの精が、今まさに自らの体内に注がれているかと思うと、不意に甘い疼きが、体を駆け上って来た。
「ひ、リーガル、また、またいく……っ!」
「クラトス……!」
「あっ、出る、出るぅ……ッ!!」
激しい快感に脚を蹴りあげ、身悶える。
しかし、クラトスの砲身から吐き出されたのは、精液ではなく、濁りのない液体だった。
勢いなくショロショロと漏れ出るそれとは逆に、リーガルを包み込む襞が、激しく痙攣する。その吸い込むような動きに、リーガルの方がもう一度、クラトスの中で、勢い良く熱を噴き上げた。
「あっ、あぁーーッ………!!?」
先ほど以上に奥深くまで、叩きつけられる灼熱。
思わず下腹に力を込めれば、受け止めきれなかった熱が、卑猥な音を立てて、結合部から外へと散った。
深い交わりは、想像していた以上に羞恥に満ち、また綺麗でもない。互いの欲望をぶつけ合う激しさは、戦闘のそれとも似ている。
しかし、何と言う背徳的な快楽なのだろう。
絶えず名を呼ぶリーガルの声を遠くに聞きながら、今度こそクラトスは、気を失った。


「気づいたか?」
「リーガル……?」
意識を取り戻したのは、温かいタオルの感触を感じてだった。
「すまない。無理をさせた」
その一言で、先ほどの醜態が思い起こされ、クラトスは、頬に熱が集まるのを感じた。
「体を拭き清め、治癒は施したが……、辛いか?」
「………いや」
全く辛くないということはない。
だが、それを上回る幸福感が、痛みや、体の奥で疼く違和感をかき消してくれた。
「私も夢中で、手加減もできず、何とも中途半端になってしまったな。これに懲りず……、また、改めて相手をしてくれるか?」
「……もちろんだ」
クラトスは、小さく微笑んだ。
だが、今はともかく、初めてのことに身体が疲弊しきっている。
「すまないが、リーガル……、眠い」
「ああ、今日は疲れただろう。ゆっくりおやすみ」
「ああ。……とは言え、何か危ないことがあったら、すぐに……」
起こせよ、と言いかけた口に、途中でリーガルの人差し指があてられた。
「頼むから、そこまで気を回してくれるな。大丈夫だ、何があろうと、目覚めるまで、そなたの眠りを妨げないと約束しよう」
そう言ったからには、どんなことがあっても、彼はそれを守り抜いてくれるだろう。
本当は、年若い自分などより、よほど武術に長けていることも知っている。
悔しいが、この男の隣以上に安心できる場所は、世界中のどこにもない。
これからも、側にいたい。
彼がそれを望む限り。
クラトスは、逞しい胸に顔を埋め、深い眠りについた。

end.

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