行為のはじまりに告げられた、妙の台詞を銀時は思い出している。自覚なしに言ったのなら、この女は天性の魔性を持ち合わせていると言って良かった。 本当に優しくして欲しいのならもっと言い方があるはずなのだ。 妙の腹を銀時が手のひらで覆う。 触れた白い腹は肋骨の線が薄く浮き出ているほど。薄っぺらい身体だとは思っている。もう少し肉を、なんてことを言おうものなら、言い終わる前に平手打ちを食らうのが常である。 要らぬ一言に気を付けながら、銀時は腹をまさぐり続ける。覆いかぶさった体勢なので、銀時の首元には鼻にかかった妙の声がちいさく聞こえている。しかし強く肩を引き寄せられているから、熱い息が銀時の肩にかかるぐらいで、声はほとんど押し殺されてしまっている状態だ。銀時にはそれが残念で仕方がない。 少しくらい声を出したって、アイツらは起きやしないんじゃないか。銀時の本心はそれだったが、はいそうですかと妙が手をたやすく離すわけもない。 あちらは肩にすがりつくので精一杯なために、身体の方が無防備になるので、まあこれはこれでよいかと今は放っておいている。 撫でていた手を腹から上へ、細い身体全体にふれていく。 着物の上からでそれなのだ、脱がしたら余計に貧相に決まっている。誰も相手にしないだろうさ。そう過去に言った自分が今こうして欲情してるのだから、妙には色々と申し訳がない。 肌の白さだとか、均一のとれた脚と尻の肉だとか。目を見張るべき場所は幾らもある。かたちのよい小振りな胸だって、強い情欲の念に駆られる要因のひとつ。いくら余裕を気取っていても荒く乱れる呼吸は銀時自身どうしようもなかった。 銀時が妙の脇に手を差し入れると背筋をぴんと伸ばしてくる。可愛い、耳殻に吹き込むみたいにすれば、肩をつかむ手に力が入った。 その胸は不規則に上下し、浅い呼吸が繰り返されている。疲れているのかもしれない。思わず手の動きを止めて、妙の顔をのぞきこんだ。 「……苦しいか」 だいしょうぶか。熱を測る要領で、妙の額に銀時のをくっつける。汗ばんだ額にはりついていた前髪も指の腹でつまんで取り払ってやると、固く目を瞑っていた妙がようやく瞼を開く。 鼻頭がふれあうほどの距離に銀時の顔があるのを認めて、安堵したような息がほぅっと妙の口から吐かれる。大丈夫かの問いかけに対してだろう、妙が首を横にふる。 「ちがうの、銀さんのせいじゃなくて。息を、止めてたから」 「こらえてっからだろ」 出せよ、声。 くっついた額をそのままに、一センチほどの距離で言い放てば、妙は逃げれもしないのに視線を右往左往させるのだった。 恥ずかしいのだろうかと勘繰ったか、ここまでの過程を思えば恥ずかしいだのはもう関係ない。やはり外に聞こえることが怖いらしかった。 大丈夫だって聞こえねーよ、と目で訴えてやるが、妙は下唇を噛みしめて一向に声を出すことを拒絶している。それがいけなかった。強情ぶっているのも今のうちだと、銀時の加虐心は高まる一方なのだ。 かろうじて引っかかっていると言ってもいいほど、襦袢の大部分はもう肌蹴てしまっている。腰で塊になっている襦袢の隙間では、胸を覆っていた下着と同じ色をした布きれがちらりとのぞいているが、一瞥をくれるだけに留めた。 声が聞きたかった。 妙の手が緩んだと同時に、つかまれていた肩口に引き離すことに成功する。慌てて口を塞ごうとする妙の両手を手首ごと左手でまとめあげて、腰骨の横に縫い付けた。 身体を屈ませた銀時は、啄むみたいに臍のちいさな窪みに幾度も唇を押し当てながら、右手で太腿から下肢の付け根を撫で上げる。手を上下に行き来させる行為を繰り返している最中、舌先に触れる妙の腹がぞくぞくと震えるのが皮膚越しに銀時に伝わる。 どんな顔をしてるのかを確かめたくなって、肘で身体をさえたまま、舌も手もすべての身動きを止めて銀時は妙を見やった。目を瞑って身体をよじっていた妙が、うっすらと上気した頬を銀時の身体の方向によこす。 どうして行為をやめるのかと、瞳は戸惑いの色に染まっている。 すり寄るように、まっしろい咽喉に歯を立てた。つかんでいた妙の手を離してしまうことも許して、両の手のひらで胸のふくらみを覆いながら、銀時の口先は小振りな耳朶を含む。わざと音を立てて、やわらかな耳の肉を吸い上げてやれば、ついに妙の鼻腔から吐息が漏れた。 「っ…はァ、」こぼれた息ごとを飲み込むように、唇へ噛み付いてやる。 うっすらと上気した頬を手の甲で触れてやれば、水分をたたえる瞳がまばたきを繰り返した。熱にうかされた目は銀時だけを映している。妙に覆いかぶさる銀時もきっと同じように妙だけを瞳に映しているのだろう。 二人分の呼吸が世界をつくっていた。 整わない息はお互い様で、どこまでも呼吸は噛み合わないまま、唇はついて離れてを繰り返した。 二日目まで ≫まきさん たいへん長らくお待たせしましてすみません、ちょっとエロめという指定でしたがえろ成分が足りていれば幸いです。素敵なリクエストをありがとうございました! 戻る |