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先日、図書委員の仕事で図書室の本の貸し出し当番をやった帰り道、及川に会った。私を見つけたらしい及川は、飼い主を見つけた犬のように(もしも尻尾があったなら千切れんばかりに振っていたことだろう)私に駆け寄ってきて、当たり前のように隣を歩いていた。
それが、嫌ではなかった。鬱陶しいような気もしたけれど、楽しそうに話す及川と帰るのが楽しいと思いつつある自分がいる。素直になれない私ではあるけれど、及川があんまりにも必死に頼んでくるものだから、月曜日に一緒に帰る約束までしてしまった。最近の自分の奇行に心当たりがあるとすれば、それは認めたくないけれど、ただ1つだ。
私はそれを確かめるべく、友人2人に相談を申し出た。2人は快く引き受けてくれて、今に至る。
カフェで話そうかという案も出たのだが、高校生の私達のお財布事情はなかなか厳しく、結局、放課後の誰もいない教室で話をすることになった。野球部やサッカー部の声が校庭からきこえてくる教室。あまり大きな声でなければ廊下まで私達の声が届くことはないだろう。


「それで…及川くんのことだよね?」
「最近仲良いもんね」
「違うよ、及川が勝手に話しかけてくるだけ」
「でも嫌じゃないんでしょ?」
「……うん」


ズバリ核心を突いてきたのは和音だ。彼女は琴乃と違って男勝りというかサバサバした性格で、男女問わず友達が多い。裏表のない言動に、私も好感を抱いている。そんな和音の一言に、私は素直に頷いた。
そう、嫌じゃない。だから問題なのだ。最初は正直、本当にウザかった。けれど、琴乃と練習試合を見に行ったあたりからだろうか。私の中での及川の存在は、だんだんと変化を遂げている。今現在も。


「名前ちゃんは及川くんのこと、どう思ってるの?」
「んー…?最初はウザいなー自身過剰な奴だなーって思ってたけど、バレーしてるの見てからはそこまでウザいと思わなくなったかなあ…」
「今はどうなの?好きなの?」
「えっ!えー……?及川のことが………?」


いつか及川に言われた単語に身体が反応する。好きか嫌いかと言われたら、どちらかというと好きなんだと思う。けれど、胸を張って好きだと言えるほど、この感情には自信がなかった。
今まで何人かの人と付き合ったことはある。でも誰かを好きになったことはない。だから好きだと思う基準が自分の中で曖昧なのだ。


「名前は難しく考えすぎなんじゃない?及川が告白されるの見てつらかったんでしょ?誰かと付き合うの嫌だなって思ったんだよね?」
「う…うん……」
「じゃあそれは恋だよね」
「恋?」
「及川のことが好きってこと」
「私が、及川のこと、すき……?」


2人の友人は同時に頷く。
馬鹿ではないつもりだから恋がどんなもので好きという感情がどんなものか、理屈では分かっていた。しかし、いざ自分のこととなるとピンとこない。
確かに和音に指摘された通り、及川が告白されるのはあまり良い気持ちがしなかったし、断ったよ、と報告された時になぜかほっとしたりもした。それはつまり、私が及川のことを好きだと思っているから、ということなのか。
考えていたら恥ずかしくなってきた。自覚するとこうも恥ずかしいものなのか。なんとなく、最近の自分の行動からそうではないかと思っていたけれど、友人達の指摘によって、それは確信へと変わった。
私は及川に恋をしている。


「及川くんは名前ちゃんのこと好きだと思うよ」
「…好きって、言われた」
「え。じゃあ両思いじゃん」
「違うよ。たぶんあれは誰にでも言う感じだった。ラブじゃなくてライクの方」
「そうかなあ…」
「及川、チャラそうだもんね。イマイチ信じらんないか」
「うーん…ノリで言われたというか、からかわれてる感があって…」


そんな話をしている時だった。
ガラリと教室の扉が開いて、そこに立っていたのは今まさに話の渦中となっている人物だった。及川は少し驚いた様子で近付いてくる。


「何何?女子会?いいなー!俺も混ぜてよ!」
「及川は女子じゃないでしょ…何しに来たの?」
「んー、忘れ物取りに来た」
「用事済ませて早く部活戻りなよ。主将なんでしょ」
「分かってるよー…名前ちゃんは厳しいなあ…」


ブツブツ言いながら自分のロッカーを漁る及川。先ほど話していたことはどうやらきかれていないようでホッとした。
私達のやり取りを友人2人は何も言わず眺めていたけれど、若干にやけている。何よ、私にどうしろって言うのよ。


「ねぇねぇ名前ちゃん達、まだ残ってる?」
「私と琴乃は用事があるからそろそろ帰らなきゃ。名前は図書室で自習するんでしょ?」
「え、何それ、きいてな…「じゃあ、また明日ねー」
「ちょっと!」


和音は琴乃を連れて瞬く間に教室を出て行った。私、自習なんかしませんけど。これはなんとも分かりやすい…2人きりにさせよう作戦ですか。明日、和音に抗議しなければ。


「自習するならさ、今日も一緒に帰ろうよ」
「いや、自習はしない…やっぱり帰る」
「え?なんで?」
「なんでも!じゃあね!」


私は逃げるように教室を飛び出した。
さっきの話の結果、私は及川が好きだと気付いてしまった。今までとは心持ちが違う。急に2人で帰るなんて、今の私には無理だ。どんな顔して及川を見ればいいのか分からない。一緒に帰ると約束した月曜日までになんとかしなければ…。
ふと、後ろを振り返れば、私のことをじっと見つめる及川の姿が目に映った。駄目だ、やっぱり今は無理。及川のこと見れない。
私は下駄箱まで一目散に駆け出した。


その双眸は眩しすぎた


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