吝かと哀憐 2/2



じぃんと痺れる感覚に、ほとんど同時に息を吐いた。瀧野がゆっくり確かめるように指をまわしてくると、仁山は一瞬手を止めたが、直ぐにまた上下させる。こぼれ出す先走りの液が絡んで小さく音を鳴らして、背中がやけに汗ばむ。
「どこがいい?瀧野。教えて」
「さ、先っぽ、あんまり…っしな、しないでぇっ」
それはいいという意味だろうと仁山はつるりと丸みを帯びた亀頭を執拗になぞった。雁首との段差をくすぐり、瀧野がきつく目を瞑って唇を噛みしめるのを楽しむ。頭を左右に振って嫌がられても、止める気などない。
「俺のも、もっと扱いてよ」
「ご、ごめ…っでも、で、出来ない、ごめ、仁山…ぁっ」
「こんだけでぐずぐずになってどうすんの」
責める言葉は幾らでも湧いて出てきた。下を向いた睫毛とすべっていく涙の意味を考えてしまう。こんな時でさえ、瀧野は河東を思っているのかと思うと腹が立った。きっとこれは嫉妬なのだと確信して、仁山は胸が張り裂けようになったくらいだ。ささやかな快感が、余計に惨めさを誘う。
「瀧野、後ろ向いて」
「ふぇ…っえ、な、なに?や、う、嘘、やだ!」
「入れないし、無理だし、いいから」
「だ、って…!にや、仁山ッ…は、恥ずかしいから!」
仁山は無理矢理、力任せに瀧野の体をひっくり返して腰を持ち上げる。半端にずれたズボンを下着ごと引き下げて、丸っこい尻が露わになった。谷間を開いて奥を探りたい欲求を殺して、唾を飲む。柔らかなそこを軽く撫でるだけでも瀧野はガクガクと震えて、可哀想だと思いながらも愉快だった。
「っぅく、んっ……っ、ぅ、ぁ、ぁう…ッ」
「足軽く開いて…挟んで」
瀧野は何も言わない。体を硬直させて、仁山の声も届いていないのかもしれない。汗をかいた太ももは滑りがよくて、ペニスを差し込むのは容易だった。玉がぬるりと擦れて、瀧野が床に額を擦りつけるように項垂れる。
「……動くぞ」
体内に挿入するよりは劣るだろうが、仁山にとっては今までにない快感を覚えた。まるで処女を奪ったような達成感さえある。それが瀧野の体温を知ったからなのか、河東を知らず自分を知らされた瀧野を哀れに思うからなのかは定かでない。どっちにしても、仁山は悦べたかもしれなかった。
「瀧野、なあ、泣いてんの」
「ぅ、るさ…ぁっ…、う、仁山ぁ、も、やめ…っ」
「それは……恥ずかしいから?気持ち良くないから?」
「ひっ…!やめ、も、だめ…駄目だから…なあっ、て」
「答えになってないし。答えてよ、瀧野」
仁山は問いながら瀧野の腰を後ろから抱え、萎えないままのペニスを握った。気持ち良くないからというわけではない。だかといって恥ずかしいから、というわけでもなさそうだ。ただ瀧野は答えない。言えば仁山が傷つくとでも思っているのだろう。その優しさが、仁山には辛かった。
「馬鹿だなあ、瀧野。お前、ほんと、馬鹿だよ」
ぬちゃぬちゃと体液が絡み合い、肌がぶつかり合い、静かな図書室の空気を濁らせていく。心は冷えていても擬似的な性行為は出来てしまうものだと、仁山は初めて知った。それから、瀧野を軽蔑できない自身にも気付いてしまう。
「ごめんな、瀧野」
「なん……っ、なんで、お前が、謝んの…?」
「最初に言っただろ、お前が好きだって」
「そ、なの……意味、わかんね……よ」
瀧野は意味を求めたが、仁山は口先だけでかわすことも止めた。どこからが本音でどこまでが嘘なのか、分からなくて良かったのだ。ただ射精の時だけが確実に近づいてくる。嫌だ駄目だと呻いても、瀧野は呼吸を荒げて俯いている。
「そろそろ、イきそう?」
「はっ、ぁんっ…んっ、んくっ、い、ぅうっ」
仁山が腰を押し上げる度に瀧野の声が上ずる。この瞬間だけは快楽も共にしているのに、満たされた気にはなれない。心からの好きの一つでも言えば変わったかもしれないことを、あえて無視する。
「い、く…ッ出る、も、だめ、仁山っ、ぁ…!」
手の平の中のペニスが跳ねて精液を吐きだすのが、生々しい。仁山も遅れて、床と瀧野の太ももを汚していた。後から来る凄まじい虚脱感から重苦しい息が漏れる。終わってしまえばなんてことのないことだった。
「…っ、瀧野」
「な、んだよ…仁山、どいて、仁山」
「嫌だ」
声を絞り出すのがやっとで、仁山は汚れた手のまま瀧野を抱き締める。痛いとずるいを交互に繰り返す瀧野に対する感情は明確だ。羨ましかったし、愛おしかった。誰にも言えない秘密を打ち明けるに値する人間に選ばれて嬉しかったし、素直な告白のできる瀧野が好きだった。
「瀧野、ごめん、忘れてもいいから」
「……馬鹿はお前だよ、仁山」
仁山は耳の裏に唇を押しあてて、腕の中で瀧野が震えるのを感じていた。そうしてもう一度と願ったキスは叶って、それでも瀧野は離れていくのだと思った。



150525
リクエストありがとうございました。

 


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