吝かと哀憐 1/2



好きになった男は皆、女を好きになる。それが世間での常識らしいのはさておき、仁山は自分が生まれつき他人とは違うことをわかっていた。幼い頃から頭がいいともて囃されたが、両親や友人にさえ打ち明けることの出来ない秘密をとうとう捨てきれず育ち、罪を犯す人間は本当に賢いのか疑問だ。純粋な苛立ちを覚え、気がつけば何度も想像した唇の感触を知っていた。その時、驚いて目を剥いた瀧野の表情は、なんだか面白おかしくうつった。
「は、……なん、で……?」と瀧野は言い、仁山は「さあ。だってそういう話だったろ、今」と答えた。するとみるみるうちに瀧野の顔が赤くなり、やはりおかしな気持ちにさせられるのだ。図書室の隅でする話ではなかったように思いながら、また仁山は試すように瀧野へ詰め寄る。もう一度キスを試みれば今度は肩をどんと押された。
「なんで」
「なんでって、それはこっちの台詞だ!俺は」
「ホモなんだろ。だったらこういうことしたがれよ」
責めるような口調の仁山に瀧野がまたカッと、今度は耳まで赤くする。照れくさそうに、お前だけには話しておきたいと告白した時とは違う、涙に変わりそうな反応だ。酷いことを言ったと後で悔むことなどお構いなしに、仁山は更に距離を詰めていく。
「お、れが好きなのは…お前じゃなくて」
「河東だろ。さっき聞いた」
「なら…!」
「でも俺がお前を好きだって言ったら?」
びくりと瀧野の肩が跳ねあがり、逃げる足が床を擦って耳障りな高い音を鳴らした。汚れた上履きや風で揺れたカーテンや少し埃っぽい部屋の隅と本のにおいは、何か心を動かすように錯覚する。揃いの制服の下では、同じ形の心臓がどれだけ近い早さで打っているのかが気になって仕方がなかった。
「試すくらいの気持ちでいいからさ、なあ、瀧野」
男を相手にするという意味をわからせてやるつもりで、仁山はなるべく優しく囁く。瀧野のことは好ましく思っていたが、まるっきり恋愛対象にしていたわけではなかった。それでも、興味だけで人は動ける。次のキスは拒まれず、瀧野がおずおずと袖を握ってくる。
「仁山、どうしよう……俺、嫌じゃない」
「うん。いいじゃん、変なことじゃないよ」
仁山は内心、瀧野を見下していた。別の男を好きだと言った口が途端に憎らしくなり、ほとんど本能に任せて舌を合わせた。瀧野が驚いて腰をひいても、後ろは壁だ。隣合った姿勢では首が痛くて、正面に回って逃げ道を塞いでやる。
「もし、お前が河東を本当に好きなら、こういうことだってしたいんだろ?」
「ちょっ…っ、や、仁山…!」
「暴れたら痛いぞ」
隙だらけな股間に手を差し入れて、ショックで跳ね上がった瀧野はまるで新しい玩具だ。ベルトを外してチャックを下げ、下着をずらした。他人の性器を間近で見たのは初めてだったが、仁山は案外冷静な自分に驚いた。
「萎えてる」
「あた、当たり前、だろ……」
「お前ってさオナニーとかしてんの」
「な、ぁっ、や、やだ触んなよ!」
「瀧野、答えて」
くってりと垂れさがったものを掴んで、仁山は瀧野の顔を見つめる。抵抗のために伸びた腕が震えて今度は顔を隠した。それをいいことに軽く手を動かすと、少しずつ固くなる気配がした。
「言えよ。俺も言うから、ってか普通にするだろ」
「うぅ……し、してる…」
恥ずかしくて死にそうになっている瀧野は可愛い。そんな風に思う自分がやっぱり奇妙で、仁山は知らず唾を飲みこんでいた。このままでは、からかう程度で済まされない。今更、嫉妬を覚えていたのではないかと考え始めた。
「………そっか、だよな」
脳内で生まれた責める言葉を自然と飲みこんで、仁山はそのまま瀧野のペニスを扱いた。瀧野は諦めたのか、他人の手で与えられる快感に動けなくなっているのか、声を殺すだけになる。慰める時に河東のことを考えているのかが気になって、仁山は舌打ちをした。それに少し怯えた瀧野が泣きそうになるのが、またどうしてもおかしな悪循環を生む。
「瀧野、俺のも触って」
「ゃ……う、は、ぁ……む、無理だ、って」
「自分のやるみたいにしてくれればいいから」
「に、仁山、仁山ぁ……ッ」
「何?」
「こんな、こんなの、おかしいって…おかしい、のに」
瀧野は涙をこらえきれなくなり、嗚咽した。それが欲望に火をつけてしまったのを、仁山は自覚した。握りこぶしをつくった手を導いて、窮屈になっているそこに触れさせる。怖がっているのは明らかだった。
「無駄なこと考えるな。お前も男ならわかるだろ」
強い口調でもなく、どちらかと言えば弱々しく響いた台詞に瀧野は呻く。それから何度か肩をひくつかせて、自ら指を伸ばした。仁山は、やがて直になぞられた感触に背中を丸めた。


 


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