よつにかまる舟 3/3



息の荒い島香が寝間着を剥いで肌に触れる。指や唇だけではなく、舌で濡らされることが何よりの苦痛だった。特に耳を嬲られるとくちゃくちゃといやらしい音が大きく響き、耐えがたいほどの羞恥を覚えた。
「ッう、ぅっく……ぃっ」
「胸は感じないみたいだね。慣れれば良くもなるらしいが、薄桃色のかわいい乳首が腫れてしまったら可哀想だ」
言いながら島香が粒を弾く。女でもあるまいし、感じるわけがなかった。名残惜しく胸全体を揉むように手のひらで捏ねられても、昭久は快感を得られない。例え性器を直接触られても萎えたままかもしれなかった。
「それにしても綺麗な肌だ。どこもかしこも瑞々しい」
昭久はきつく目を閉じていた。けれど全身をまさぐる手の熱さや、腰に押し付けられる島香の大きな欲望は、嫌でもわかる。島香が発する言葉のひとつひとつが昭久の心をひび割れさせる。
「少し前に、朝早くここを訪れたことがあったよ。君はまだ眠っていて、私に気付かなかった」
うっとりとした声音で島香は告白した。昭久に思い当たる節はなく胸のうちの恐怖がまた一段と膨れた。
「寝相がいい君だ、きちんとかけ布団をかぶっていた。でも私は君を見たかった。その朝は暖かくて、布団を剥いでも起きなかった君は寝返りをうつ。するとね、露わになった太ももがとてもいやらしかったんだ」
「っ……、ぅ、や…ッ」
昭久は咄嗟に耳を塞ごうとしたが、勘のいい島香がそれを防ぐ。肘を掴まれ胸を反らす格好にさせられ、昭久は後ろから覗きこむ島香が視線で胸を犯すのを感じていた。鋭く細い視線の針が突起した乳首を刺し、ちりちりと痛みを帯びたような気さえした。
「その時、初めて欲望を持って君に触れた。鎖骨を撫でた手をくすぐったそうに払って、また君が仰向けになった。愛らしい乳首をつついたら、眉間に皺を寄せたよ。舐めたら、大きく息を吐いた。吸ってあげたら、うんうんって悩ましげに身をよじって、興奮した」
頭が勝手に想像する悪夢に昭久は頭を振った。全く身に覚えがないのだ。眠っている隙に気付かれず体に触れることが可能なのかもわからなかった。けれど島香はしたのだ。昭久の体へ悪戯をしたことを、自慢げに語るほどの快感を覚えて。
「それから、君のここを見たんだ」
「ヒッ!あっあ、やだ…先生っ…ぅ、ぁ……ッ」
昭久の知らない事実をなぞって、島香は下着の中で縮こまった性器を撫でた。初な昭久でも、体を触られるだけで終わるとは思っていない。諦めで投げだした体でも、恐ろしくて大粒の涙を零して嫌がった。
「なぁに自慰をするのとなんら変わりない。いや、それ以上に良くしてあげるよ。暴れないで、力を抜くんだ」
「やぁッ、あ、嫌です…っせんせ、せん、せぇ…!」
布越しに性器を掴まれ、しゅっしゅっと上下に扱かれる。萎んだそこはいくら愛撫されようとも反応を見せることはなく、島香も背後で首を傾げた。昭久は絶望的な気分で泣いた。酷いことをされて勃起するのと、男性的な機能が失われかけている自分を見られのと、どちらが良かったのかも知りたくなかった。
「あの時の君はここを膨らませていたのにねぇ」
「ッ、ぅ、っく…ぁ、も…もぉ…やめてください…」
「ろくに弄ったこともない綺麗な色だった。ああ、そうか君は女性とも経験がなかったね。自慰をしたことがあるのかも怪しいほどだ」
島香の声がふと遠くなる。優しく愛おしい声が貶めるようなことを言う。昭久はその事実を拒否しようと、意識が薄らいでいく心地だった。いっそ島香に語られるその朝のように、知らぬ間に犯された方がまだ救われるだろう。
しかし、島香はそれを許さない。次の瞬間、昭久は再び現実に引きずり戻される。右の手の平に乗せられた温かい肉の正体を理解してしまったのだ。
「他人のものを触るのも、初めてだろう」
島香は熱い息を吹きかける。昭久は喉の奥が妙な音を立てるだけで、上手く言葉を繋げることが出来なかった。手を離そうにも、手の甲から包むようにして握らされて震えるばかりだ。
「こうして、気持ち良くなったことは?」
「あっ、あっ…ぁ、うっ……ッ」
「ないんだろう?ああ、こうするとね、とても気持ちいいんだ。ほら、濡れてきただろう……、君の手がとてもいいから、はっ、こうなるんだ」
昭久の手の中で島香の男性器がどくどく脈を打つ。先から透明な液を零し、二人の手を濡らすのだ。昭久にも知識はある。極まれば尿道をのぼってきた精液が出る。実を結ばぬ命の種が、自分へと向けられる君の悪さに嘔吐感が込み上げた。
「んっ、んっ…ふぅ、う…しっかり握って…ぅ、出すよ。君の手で、しっかり受け止めてくれ」
「嫌です、は、離してっ、先生!」
ささやかな水音を連れて、島香が正に今欲望を放とうとしていた。昭久は力なく布団に顎を乗せて、自由にならない他人のような右手を切り離してしまいたかった。一生分の涙を流しても島香は昭久の手筒に酔い、腰を振る。
「もう許してください…っ、僕は、ぁっ…か、海外になど、行きたくありません!貴方を頼らない、だからっ」
「ぁ、ぐっ、出るッ、う…!」
昭久の叫びも届かず、どっと迸ったそれは昭久の曲げられた指にかかった。島香は昭久の手で射精したのだ。過去の自分の全てを恨むほどの、酷い仕打ちだった。
「ふぅ……ん?昭久くん…?」
「ぐ、ェッ、あ……おっ、かふっ、ふっ、お゛ぇ…!」
肩を震わせ、昭久は尽きない涙を不思議に思いながらえずく。胃の中を空にしても足りない何かが体の中に詰まっていた。それを「可哀想に」と島香が穏やかに背中を撫でた。終わったという安堵感は得られない。きっと、何処までも連れていかれるのだと予感し、昭久はじれったく喉を引っ掻いた。



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