あいびき

上陸が楽しみなのはいつもだけど、今回の上陸はいつもよりトクベツなんだ。



上陸の船番が当たらなくてホッとしたのもつかの間。買い出しのハズレくじを引いてしまった。
押してダメなら引いてみるなんて駆け引きとは掛け離れた押しで、やっと兄弟だとか仲間だとかいう関係から脱して恋人という関係に持ち込んで、初めての上陸だったのに。何となく期待していただけに、自分のくじ運の悪さを呪いたくなる。

色の付いた棒を引くという極めてシンプルなくじ。あの大量のくじの中からよりによってと、握り締めた棒の先、色の付いた部分を燃やしてみようかと考えてみる。でもきっとそんなことをしてもすぐにバレて、マルコに半殺しにされそうだからしないけれど。

確か二人当たるはずだったと思い出して周囲を見渡す。と、サッチがこちらを見て困ったような笑顔を向けた。
もしかしてと思う。こっそり歩み寄るとごめんと頭を撫でられて、それは確信に変わる。

ニッと笑ってくじを見せると一瞬だけ驚いた顔をして、やたらと優しい顔で言ったのだ。

「お前とならハズレじゃなくてアタリか。買い出しが終わったら――――初デートだな」

最後の言葉だけ囁くように耳打ちされて、嫌だとかそういうんじゃなくて、多分赤くなっただろう顔を隠す為に俺は俯く。
周りからは買い出しくらいでそんなヘコむなと声がかかる。ヘコんでるのとは違うんだけど、違うと噛み付くのも可笑しい気がして黙り込む。慰めるという名目で頭を撫でてくれるサッチの手が心地好かった。



買い出しを終えてサッチと街を歩く。程好く栄えた街には色んな店が軒を連ねていて、俺はその中の一つに足を止めた。
パンの焼けるいい香りにつられて立ち止まると、それに気付いたサッチも横に並ぶ。

「腹減ってんのか?」

「違ぇ。…いややっぱ違わねぇ、かな…どうなんだろ」

「とりあえず食いてぇんだな」

サッチはフッと笑って待ってろと言って店内に入った。しばらくすると紙袋を抱えて出て来たサッチはまた歩き出す。どこに行くのかとぼんやり付いて行くと、さっき通った時には特に気に止めなかった公園に入って行った。
サッチはベンチの端に座ると、座れということだろう、ポンポンと空いた場所を叩く。俺は少しだけ悩んで、反対の端に座った。

「遠いっつの」

言ってから腕を取られてサッチの横にスライドした。
そのまま背もたれに腕を回されて、いつもより密着しているのが何となく恥ずかしくて俯きたくなる。

「照れてんのか?いちいち反応が可愛いな」

「ガキ扱いすんな!!」

「別にしてねぇよ?ガキにはこんなことしねぇ…」

言葉とともにもっと引き寄せられて顔が近付く。俺の心臓は物凄い勢いで血液を送り出し始めた。バクバクとサッチに聞こえるんじゃないかと思うほどだ。キスも、それ以上の事も、サッチとしたことがないわけじゃないけど、でも。

「サッ、チ。…ここ、外」

「こういう事も期待してなかったわけじゃねぇだろ。なぁ、エース…」

唇が触れるか触れないかぎりぎりのところでサッチはそう言って妖しく笑った。
たしかにそうだけど、でも。ギュッと目を閉じるとサッチが離れて行く気配がした。

「え、」

「外だから嫌なんだろ?」

「あ、」

そうだけど、でも。さっきからこればっかだな、俺。

「とりあえずせっかくだし食おうぜ」

呆ける俺を若干置いてきぼりにして、しれっとした表情でサッチはさくさくと話を進めてしまう。気付けば俺の手にはさっきの店で買ったんだろうクロワッサンのサンドイッチがあった。

「まあまあだな」

早速パクリと食べたサッチに続いて俺もパクつく。

「美味ぇ」

「んじゃ一口ちょーだい」

「え?」

「ソレとコレ中身違ぇの。ソレのが美味ぇのか気になる」

餌を待つ雛鳥のように口を開けて待つサッチの前に食べかけのクロワッサンサンドを差し出すと、サッチは躊躇なくそれを食べたのだった。

「ふーん…。まあまあだな」

そう言って俺にも食べかけのパンをくれる。

「クロワッサンってどういう意味か知ってっか?」

左右に首を振るとサッチがヒントをくれる。

「形からきてんだよ」

「形…。芋虫…?」

「馬鹿!!食えなくなるだろうが」

俺の頭を叩いてから笑う。

「三日月。何となくちょっとロマンチックだろ?」

サッチは口元に三日月を浮かべたように笑う。いつもより幸せそうなその表情に俺はドキリとしてしまった。
その隙にサッチは俺の頭を引き寄せる。

「やっぱ我慢できねぇ」

「な…」

何がと尋ねようとした唇はサッチの唇に塞がれてしまった。
項に回された拘束は緩くて、逃げ出そうと思えば簡単に逃げ出せるだろうけれど、サッチが言っていたように期待していたのも事実。俺は流されるまま目を閉じたのだった。


公園のベンチも、食べさせ合ったサンドイッチも、…キスも。全部がデートっぽくて、俺はやっぱり今回の上陸はトクベツだったと感じた。



-END-



『Rainbow☆』の桃花様より10000hit企画でいただきました。
連載されている414のお話も大好きなのですが今回は42で「休日ほのぼのデート」という内容でリクエストさせていただきました。
サッチ格好いい!エース可愛い!
幸せなおデートの様子に頬が緩みます(●´ω`●)
本当にありがとうございました!


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