衝突編-02

「うん…うん、じゃあ、またあとで。」
「先生なんて?」
「まだ意識は戻らねえけど命に別状はないってさ。」

通話終了のボタンをタッチし、顔をあげる。それを待っていましたとばかりに劉院が問うと、大丈夫だって、と短い返事。ほっと息をつきよかったと呟いた。

ツバメの巣を訪れた討伐団の面々が裏口で倒れている隼人を発見した翌日。聞きつけた劉院が店長である隼人を心配していたため気を遣った伊折は昼休みを利用して病院に向かった兄に電話をしていた。兄の様子は落ち着いており、命に別状もないと聞き自分自身もほっとする。しかし、1つだけ気になることがあった。

「店長を襲った人って、」
「警察が追ってるらしいけど…。」
「…けど?」

一瞬、伊折が曇った表情を見せた。普段あまり見ない伊折の一面に少しだけ驚き、戸惑う。

「銃に打たれた個所が2か所と、刃物で切り付けられたあとが1箇所…。」
「心当たりがあるのか?」
「…いや、悪い俺の考えすぎだ。俺、ちょっと姫に用事あるから行くな。午後は年齢別だろ?ちゃんと準備しておけよ。」

じゃ、と軽く手を振りその場を立ち去る。姫と約束していた時間まであと10分。予定の場所まではそれほど遠くなくいつものペースでも十分間に合う。しかし、彼女の性格上恐らく既に来ているだろうと考え少し急ぎ足で廊下を歩いた。

約束の数分前に到着した伊折は、ふと一度足を止める。姫はやはり既に到着していたが、どうやら誰かと会話を交わしているらしい。綺麗な金色の髪を揺らし、笑顔を浮かべながら彼女と会話を交わしているのは伊折の元チームメイトで今も親交の深いリョクだった。その隣に、同じく元チームメイトであった花鈴が座っており、2人の会話が終わるのを待っているようだ。

「姫、悪い待たせた。…お前らが2人でいるなんて珍しいな。」
「伊折さん!大丈夫です。私が早く来すぎちゃっただけだし…。」
「ああ、伊折、ちょうどいいところに。君を探していたところに姫さんを見かけたので声をかけていたんですよ。」

声をかければ姫がぱっと顔を上げる。少し遠慮気味に答えた彼女の頭をいつものように撫でてやると少しだけ照れくさそうに笑う。そんな姫を横目にリョクと花鈴に視線を向けた。

「連絡してくれればよかったのに。」
「通話中だったんだよ。」
「ああ、さっき香折兄ちゃんに電話してたんだ。悪いな。」
「もしかして、隼人さんのところかい?」
「そうそう。命に別状はないって言ってて安心した。」
「そうですか、それはよかったです。…それで、そのことなんですが。」

リョクがチラリと姫を横目に言葉を濁した。伊折はそんな彼を見てすぐに言わんとしていることを理解する。

「…姫、ごめん。ちょっとだけ待っててもらっていいか?」
「あ、はい。大丈夫です。」
「悪いねえ、ちょっとお借りするよ。」

姫から少し離れて、リョクが聞きましたか?と伊折に問う。どこか神妙な面持ちで花鈴が頷き、伊折も相槌をうった。

「隼人さんの傷だろ…?」
「銃痕と刃物の切り傷なんてよくある話さ。でも…。」
「銃痕は2か所とも足だったって香折兄ちゃんが言ってた。」
「切り傷は恐らく日本刀だね。ナイフで切りつけたには深すぎる。」
「その通りです…。そして、僕達はこの戦い方を知っている。」

3人が一斉に黙る。表情はどれも穏やかなものではなかった。そんな3人を遠目に、姫はふと考える。
あの3人は今でも親交が深く仲もいい。よく一緒にいるのを見かけるし実際元チームメイトであるのだから当たり前だろう。しかし、だからこそ気になることがあった。誰もが一度は疑問に思っていたであろう事。

「姫、待たせて悪かったな。」
「…ひゃっ!い、いえ!気にしないでください!」

いつの間に会話を終えていたのか、突然戻ってきた伊折に驚き思わず声を漏らす。すると、伊折が何かに気づいたように首を傾げた。

「…どうした?」
「え、その。」
「なーんか聞きたいって顔してる。」

言ってごらん?とさっきと同じように優しく頭を撫でられる。あまりにも優しく促されたものだったからか、いつもなら遠慮する姫が口を開いて言葉を紡いだ。

「えっと…あの…伊折さん達のチームメイトの方は、今どうしてるのかなって…ふと思って…。」

俯きながら一生懸命言葉を探る。ああ、失敗した。これは、きっと聞いちゃいけないことなのに。

「ああ、そんなことか。」

けろっとした顔で伊折が笑ってみせた。それに驚き顔を上げる。しかし、姫はその目で確かに見てしまった。

「死んじゃった。俺達を庇って。」

そう答えた彼の表情は、無理に笑っているのがすぐに分かるほど、弱々しいものだった。
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -