衝突編-03

「陸はどうした?」

隼人の病室に最後にやってきた天が訝しげに問う。香折と翡翠がそれに対して分からないと首を振り学院時代にチームメイトであり現在も行動を共にすることの多いユランに視線を向けた。すると、彼は苦笑いを浮かべて困ったように言葉を濁す。

「えーっと、その、今は会わない方が…いいかなあ、と…。」
「イライラしてるのよ。」

もう、と涼芽がため息をつく。そんな2人になるほど、と相槌を打ち、彼の姿をなんとなく思い浮かべてみた。あれだけ会いたがっていたくせに、いざその可能性が露見した途端に動揺するなんて我儘だな、と少しだけ乏しめる様に呟く。

「まだ先生と決まったわけではねえだろ。」
「そうね、確かな証拠なんてないわ。」

香折が表情を曇らせ、リラがそれに頷く。隼人を襲った人物がまだ過去の恩師だとは限らない。いや、できればそうであってほしくない、というのが本音であった。しかし、否定しきれないのも事実である。真相を知るのは未だ眠っている隼人のみ。命に別状がない以上、早く起きてもらわねば困ると、香折が苛立ったように舌打ちをした。

「明日には意識が戻るだろうってお医者様は言ってたし、そんなに焦らなくてもいいんじゃないかなあ。」
「隼人はいつもいざって時役に立たねえな。」
「香折ちゃん!お口の悪さは相変わらずね!そんなんで本当に教師なの?」
「いってえな、つねるなって!」
「学院ではいい教師演じてるのよ香折ちゃんったら。」
「演じてねえから。お前らに遠慮する必要なんかねえだろ!」

なんて、翡翠の言葉に香折が文句を零せば涼芽が怒った!と、彼の頬をつねった。そんな3人にリラが悪態をつき香折が否定する。なんてことのない、いつもの光景だ。

ユランはほっと胸を撫で下ろした。陸が苛立っている今、他の人達の仲裁までしている余裕が自分にはない。できればこのまま事が済めばいいのだがと思考を巡らせたその時、こほんとわざとらしい咳払いを耳にした。途端に、騒がしくなりつつあった病室が静まりかえる。

「病室であんまり騒ぐんじゃない。そもそも話が脱線してる。」

天が鋭い目つきで睨みつける。それに対して全員が反抗することなく素直に謝罪の言葉を述べると、満足したらしい彼女はそれで?と続きを促した。

「正直言って、私は先生だと思うわ。」
「うん、この闘い方は先生だよ。私達が見間違えるはずない。」
「そうだな…だが、だとしたら、先生はなんのために戻ってきた?」

涼芽の言葉に翡翠がうんうんと首を縦に振った。天もそれには賛同らしく、話を広げていく。ふいに、リラが小さな声で呟いたのを、その場にいた全員がしっかりと聞き留めていた。

「決まってるわ、私達を、あの子達を殺しに来たのよ。」

再び静まり返る病室。なんとなく、いたたまれない雰囲気に、ユランの胃が少しだけキュッと締め付けられた。どうもこういった雰囲気には慣れない。昔のように笑いあう姿を思い浮かべ、その度にあの頃は…なんて思ってしまう自分に嫌気がさした。叶うはずなんてないのに。

「隼人を最初に狙ったのは単に1番弱いから?」
「それなら学院生を狙うのが先じゃないか?日本刀や文ちゃんも対象なら、学や華菱を狙う方が得策だろ。」

じゃあ、どうして?と首を傾げる。そんな翡翠を横目に香折は昔のことを思い出していた。

「先生は、能力のことを嫌っていたから…。」
「ああ、隼人のことが羨ましいなんて言ってたっけ…。」

苦笑いを浮かべながら、隼人を見つめていた恩師の姿を思い出す。しかし、あの人が隼人を羨ましいと思うのと同じように、隼人もあの人を羨ましいと思っていたことも知っていた。なんとも言えない、2人の関係を全員が理解していたのだ。

「難しいねえ…。」
「こればっかりは、仕方ないよ…。」
「…姉さんだったら、こんな時どうしたかな。」
「あの人の話はやめろ!」

ふいに呟かれた独り言に、香折が思わず声をあげた。大きい声を出すな、と注意を促す天を無視して、リラがもう一度、言葉を紡ぐ。

「…香折ちゃんは姉さんのことが嫌いだったっけ。」
「違う、そんなんじゃない。」
「じゃあ、なんでそんなに怒るのよ。」
「っ……あの人が、あの時止めなければ全てが終わってたんだ!」
「香折!」

天が思わず肩を掴む。はっと、我に返ったらしい彼が弱々しく謝ると、ユランがあの、と声をかけた。ゆっくりと視線が集まるのを感じ取る。

「ずっと…あの頃から気になってたことがあるんです。」

ユランのまっすぐな目が、香折を見つめた。そんな彼の視線に気づいてないというようにわざとらしく目を逸らす。

「香折さん、僕達に何か隠してますよね?」
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