「っちゅーわけで、俺の目の前に天使が舞い降りたんや!!」
「へぇ」
「入学して数ヶ月…何で俺は今まで気づかんかったんや!」
「知らん」
「なんやねん、サム!もっと真剣に聞かんかい!!」



側にあったクッションを投げつけられる。
ボスッと腕に当たったクッションは別に痛ないけど、部活の後から家に帰ってからもとにかくツムは“一目惚れした”ってうるさかった。



「大体、天使ってなんやねん。しかも“黒くて長いリコーダー持ってた”って」
「いや、やって俺楽器の名前なんて知らんし」



ツムは音楽に詳しくない。というか、バレーボール以外全く知らん。興味がないんやから。
もちろんそれは楽器の名前も例外じゃなくてツムの知ってるもんなんて小学校の音楽教室とかによくあるようなもんくらい。



「絶対、吹部やとは思うねんけど」



スマホを手にして“吹奏楽 黒いリコーダー”と検索に打ち込むのが見えた。
まぁ、学校で楽器を演奏してるなんてほぼほぼ吹奏楽部で間違いないやろ。
軽音部の可能性もあるけど、バンドで笛なんて出てこうへん。
黒いリコーダー…パッと思い浮かんだものがあった。



「それ、クラリネットと違うん」
「クラリネット?」
「これ」



ツムよりも先に見つけたからスマホの画面を見せると、あ!!と当の本人は声を出した。
いや、耳元で叫ぶなや。



「いや、なんかちゃう…」
「は?ちゃうの?」
「似てるけど、なんか…俺が見たんはもっとイカつかった!」
「はぁ?」



当たったと思ったけど、ツムはクラリネット違うって自信満々に言い張った。
ほんまか?てか、イカつい楽器って何やねん。
そう言われると思い浮かぶのはトロンボーンやチューバなどの金管楽器や。
ちなみに俺が意外と楽器に詳しいのは入学して同じクラスになった吹奏楽部に所属している女子の存在のお陰である。
最初のグループ学習で同じ班になり、そこで知り合って……結構話す仲になった。
クラスの中でもよく話す女子やとは思う。
それは多分、入学当初から注目を浴びていた自分に対しても媚びるような態度取らんと自然体で接してくれたから。
あの子も吹奏楽の推薦で稲荷崎高校に入学してすごい子がいるって注目されてたけど、全然天狗にならへんし、優しいし、いつもお菓子くれるとにかくええ子や。

あかん。話脱線した…。
クラスメイトのことを隅へ追いやろうとしたけど、そういえば、あの子が演奏するオーボエも黒いリコーダーやん…と思ってしまった。
いや、でもツム何べんも俺のクラス来とるしな。
名前知らんくても顔ぐらい見たことあるやろ。
やって、あの子そこそこ有名やろ?
稲荷崎高校吹奏楽部はコンクールでも全国大会に何度も出場する常連強豪校である。確か部員数も中々の人数がいたような気がする。
こいつは違うって言うけど、ツムの見た楽器は本当はクラリネットやったんかも知れへんし、それ以外の何か木管楽器やったんかも知れへん。アホやからちゃんと楽器覚えてへんねやろ。
やから、仲の良いあのクラスメイトである可能性なんて限りなく低いのに。
いつもニコニコと笑っているクラスの人気者のあの子を思い浮かべてしまったのはやっぱり"黒いリコーダー"のようなもの…オーボエを演奏しているからか、それか“天使”と例えても違和感を感じない容姿のせいか。

ああ…ちゃうな。双子の勘やな。



「え、待って…これちゃう!?」
「まだ、探してたん」



俺が出した答えに納得いかず、ツムは自分でも探してたらしい。
見つけた、と検索結果を見せてくるツムの画面に映し出されていたのは



「オーボエ」
「多分…いや、絶対これや!!ここがイカつい!」



クラリネットとオーボエはとても似ている。
“イカつい”と表現していたのはクラリネットよりも多い表面についてるキーや部品の数やった。
それ以外にも違いはもちろんあるけど、吹奏楽に馴染みのない者からしたら一緒に見える。



「とりあえず明日、同じクラスの吹部の奴にこれ吹いとる女の子おるか聞いてみよ」



もし、ツムがほんまに見たのがオーボエを演奏する吹奏楽部の部員なんやったらかなり人数は絞られる。
大所帯の吹奏楽部にも関わらず、オーボエは特に人数が少ないって本人も言うとったしな。
そして、やっぱり双子の勘があの子のような気がした。



「なぁ」
「ん?」
「もしかしてこの子?」



俺はポケットから仕舞ったスマホを再び取り出し、ポチポチとアルバムから少し前にクラスメイトらと撮った写真を表示する。
ツムが目を見開いたのを見て俺は悟った。



「あぁー!!この子やこの子!……いや、何でお前がこの子と写真撮ってんねん!!」
「やっぱそやったかー。同じクラス」
「はぁ!?最初は別の楽器言うてきたくせになんやねん!しかも、同じクラス!?」
「そんなん知るか。お前やってしょっちゅう俺のクラス来るくせに気ぃつかんかったやん」
「サムのクラスの奴なんていちいち覚えとらんわ!」
「あーじゃあ、この子も別にそれほど興味ないってことやな」
「はっ…それはあかん。一生のお願いや!その子のこと教えてくれサム!!」
「その一生のお願い何回目?」



こいつの一生のお願いは今年だけで少なくとも3回は聞いた気ぃする。
けど、俺はお前とは違って人に優しくする人間やから貸し1な、と伝えることを忘れず、あの子のことを教えてやった。



「宇野愛梨。ツムの言う通り吹部でオーボエ吹いとる子や。中学でも吹奏楽の強豪校やって、ここも推薦で入ったらしい。1年でもう舞台立ったり注目されとる。あと、かわええしな」
「いやぁ、流石やな。あんだけ上手いねんから納得や。……ところで何でそんな詳しいん、サム」
「クラスん中でもよう話すからなぁ」
「まさか……そんなん言うてお前もこの子のこと狙っとるんか!?」



俺ら双子やぞ!?
双子って好きなもん似るって言うやん!?

再び騒ぎ出すツムに損した気分になった。
せっかく教えてたったのに何やねん、その態度。
双子の好きなものが似るのは確かに心当たりがある。
けど、俺はあの子にそういう気持ちは抱いてへん。

やって、



「宇野さん、彼氏おるし」










「は?」



たっぷりと間を空けて片割れは間抜けな声を出した。
口をポカンと開けてフリーズしている。(自分と同じ顔が情けない表情ひてるんはなんかモヤっとするわ)



「もういっぺん言うて?」
「やから、宇野さん彼氏おるって。クラスの男が騒いどった」
「………はぁ!?なんやどこのどいつや!?絶対俺の方がすごいやろ!!」
「なんか2年の野球部のエースピッチャーとか言われてる奴やったかなぁ」
「エースかなんか知らんけど、ここの野球部って甲子園出るか出えへんか微妙な部活やんけ!」
「なんや付き合いだしたんは最近やけど、そいつと宇野さん中学一緒やったらしい」
「はぁ!?なにそれ!?」



稲荷崎高校の野球部だって弱くはない。
甲子園も何回か行っとるし。
まぁ、毎年全国進んでる俺らからしたら意中の相手の恋人がそんな微妙な奴やなんてプライド高いこいつは到底納得できひんのやろうな。



「あぁぁぁぁ!!絶対俺の方がすごいって証明したる!!!」

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