「"宮くんのこと、いっつも見てんで?"やで!?可愛過ぎん!?」 「その話何回目や」 「フッフッ…今日も教室の前通りかかったら愛梨ちゃんと目合ったし、付き合うのも時間の問題やなぁ?」 「ツムがずーっと見とるの視線感じて“気色悪いな”って見ただけとちゃう」 「おいサム表でろや!!」 「……侑。最近、ずっとあんな感じだよね」 「俺も教室でよう宇野さんの話されるわぁ」 アップメニューをこなしながら角名は横の双子を観察する。 愛梨ちゃんが俺のこといつも見てるやって!! 部活の休憩中、どこかへ消えたかと思えばそう叫びながら帰って来たのは数日前のことだ。 興奮気味に話す侑の様子に愛梨のところに行っていたんだなとすぐに察した角名と治。 その後、自分も彼女と名前で呼び合うことなったと治に向かってフフンと得意げに言い放つ姿を見て銀島はあの時ポカンとしていたが、どうやら最近は教室で侑の餌食になっているらしい。 そういえば、昨日はとうとう連絡先を交換しただとか。 何の報告だよ。女子かよ。 愛梨が既に野球部のエースと別れていたことも背中を押したのか、1年も温めていた片思いが嘘のように侑はガンガン攻めていた。 「あ、オーボエ…。これ絶対愛梨ちゃんや」 「え、そうなん?どれ?」 「ほら、この音」 「へ、へぇー…」 「ツム、愛梨ちゃんの音は聴き分けられるって言いよるんやけど、ほんまキショない?」 「マジで言ってる?」 「初めは“オーボエ”って名前すら知らんかった男やで」 色んな音に混ざって微かに聴こえる音を拾い、銀島にこれが愛梨ちゃんの音や!とレクチャーする侑に治が冷めた視線を送る。 以前も「あ、愛梨ちゃんのオーボエ」と言い出し、お前に音の違いなんかわかるんかと一蹴しようとしたが、本当に彼女が吹いていたとか。 侑曰く同じ楽器でも音が全然違うと力説していたが、治は信じていない。ただの、気色悪い執念なのだと思っている。 「あー愛梨ちゃんの演奏聴きながら練習できるとか至福の時間…」 「侑。恋愛すんなとは言わんけど、集中できひんねやったら吹奏楽部の部長に言うて、これ演奏してる子の練習場所変えてもらうで。ええんか?」 「きっ北さん…!」 「もうインターハイも始まるやろ。いくら予選や言うてもそんなんやと足元救われるで」 「すんません!ちゃんとします!!」 ポケっと浮かれる侑。 そこにやって来た我らが部長北信介が正論パンチをお見舞いする。 お前らも喋り過ぎや、と治達も巻き添え事故を喰らい、練習に戻った。 ________________________ 最初の頃は警戒されていたが、少しずつ愛梨ちゃんが心を開いてくれているような気がする。 連絡先をゲットした時は飛び上がるぐらい嬉しかった。 愛梨ちゃん、今頃何してるかなぁ 部活を終え、自主練もほどほどにして制服に着替えながら愛梨ちゃんに今日はどんなラインを送るか考える。 変なことを送らないようにじっくり。けれど、俺のことかっこいいなとかすごいなとかは思って欲しい。 今なら毎日連絡を寄越してきていた元カノやアプローチをかけてきた女子の気持ちがちょっぴり理解できた。 「侑は何必死にスマホ見とんの?」 「宇野ちゃんに送るライン考えてるんでしょ。毎日やり取りしてるみたい」 「既読スルーや未読スルー常習犯の侑が!?」 「気散るわ!静かにせぃ!!」 銀の言う通り、ラインを中々返さないのが通常運転ですぐに返す方が珍しいことは自覚している。 返信が必要なものも別のトーク画面に埋もれてしまい、北さんに怒られたこともある(そこから北さんからのラインと部活のグループラインは気をつけるようになった) だから、用がある訳でもないのに連絡を取り合うという行為は中々大変であったのだが愛梨ちゃんとせっかくできた繋がりを断ち切るなんて俺にはできなかった。 あーだこーだ言ってくるこいつらのせいで中々ええ文章が思い浮かばんけど…! ダラダラと校門へ向かっていると治の腹がぐうと鳴った。 「腹減った。帰りコンビニ寄ろかな…」 「お前、部活終わった後も何か食っとったやん。あー…でも俺も何か買おかな」 「あれ宇野ちゃんじゃない?」 「何言うとるん角名。吹部はこの時間とっくに部活終わって……え!愛梨ちゃん!!」 「あ、侑くん」 歩いている生徒の数が少ないせいか俺の声はそれなりに大きく響いた。 愛梨ちゃんがいるなんてそんな嘘いらんねん!と角名を蹴ろうとしていた足を下ろし、姿勢を正して駆け寄る。 吹奏楽部は文化部の割に運動部並みに厳しい。だけど、部活は俺らよりも少し早めに切り上げるのに…… 今日はツイてる!! 「お疲れ様!」 「愛梨ちゃんもお疲れ様。吹奏楽部がこの時間なん珍しいなぁ」 「今日は部活の後、パートのミーティングやってん。バレー部はいつもこの時間?」 「まぁ、こんくらいの時間が多いな」 「結構遅いんやねぇ」 夏とは言え、この時間にもなると辺りももう暗い。 愛梨ちゃんの言葉に絶好のチャンスだと思った。 「愛梨ちゃん何通学?夜も遅いし送るで?」 「電車通学やけど… 駅までの道まぁまぁ明るいし大丈夫やで?」 「そうなん!?俺も電車!一緒に帰ろ!!」 「えっでも… みんなはいいの?」 「いいいい!あんなん!アイツら寄り道するみたいやから先2人で帰ろ!」 「寄り道?」 「コンビニのことでしょ。治さっき行きたいって言ってたじゃん」 「え、侑もなんか食う言うてなかった?」 「2人で帰らせろオーラ垂れ流し過ぎやねん」 置いてきたチームメイトが後ろでコソコソと話すのが耳に入り、愛梨ちゃんにバレないよう鋭い視線を向ける。 一緒に帰るまたとないチャンス…見逃す訳にはいかない。ほぼ毎日一緒に帰る部活仲間と初めて下校時間が被った好きな子を天秤に掛ければ傾くのは当たり前に後者だ。それもせっかくなら2人きりで帰りたい。 彼女は今だに後ろを気にしていたが、気づかないふりをして乗る方面の電車を尋ねる。それに答えたのは治だった。 「俺らと同じ方面やんな?」 「えっ!?そうなん!?」 「そういえばそうやったね」 「最寄りも近なかった?」 何と自分たちの最寄り駅と2駅しか離れていなかった。 「てか、何でサムが知っとんの?」 「去年、文化祭の打ち上げ帰り一緒なって知った」 「普段会わないからびっくりしたんだよね」 羨まし過ぎるシチュエーション。 彼女と一緒に帰ったことも、住んでいる場所が案外近いこともどうして黙っていたと愛梨ちゃんがいなければいつものように治と言い合いになっていただろう。 掴み掛かりそうな拳をグッと握る。片割れには冷ややかな目で見られたから多分、考えていることはバレている。 「はぁ…暗いしツムと帰り。愛梨ちゃん」 「え…」 「サム…!」 「変な奴おったら盾にして逃げたらええから」 「ふふっ。侑くんおったら背高いし向こうも逃げて行きそうやね」 「愛梨ちゃんは俺が絶対守るから!」 「いやいや、スポーツマン怪我させたらあかん!」 まぁ、この辺りは人通りも多いので物騒な目に遭うことは早々ないだろうが、自分を気遣ってくれる愛梨ちゃんにキュンとした。 治らと別れて好きな子と2人で歩き出す。 すれ違い様、治から気い使ってやったんやからプリンな。3こパックじゃないやつ、と相変わらずがめつい要望があったが、それも安く感じる程に俺は舞い上がっていた。 △ back ▽ |