親愛なるレギュラス父様へ。
 昨日の晩に、三大魔法学校対抗試合の代表選手が発表されました。ダームストラングからはビクトール・クラム、あのクィディッチのブルガリアチームのシーカーらしいです。ボーバトンからはフラー・デラクール、こちらはよくわかりません。ホグワーツからは、ハッフルパフ寮のセドリック・ディゴリー、そしてグリフィンドールのハリー・ポッターです。どうしてポッターが選ばれたのかは私にも疑問です。ですが、スネイプ教授から伺ったところ、代表選手を選出した炎のゴブレットに認められた者は魔法契約により、課題をこなさなくてはならないとのことです。セドリック・ディゴリーはハッフルパフの男子生徒ですが、なかなか優秀な生徒で、少なくともポッター以上には見所のある者だと思っております。
 とりあえず、父様に報告できるようなことはこのくらいでしょうか。また何かあれば手紙をお送りいたします。
 愛を込めて。あなたの娘、ライジェル・ブラックより。

 書き上げたレギュラスへの手紙を読み返し、こんなものか、とライジェルはそれを便箋に入れて封をした。

「パンジー、手紙を出しにふくろう小屋へ行ってくる」
「んん……」

 昨晩は夜遅くまで同室者達と代表選手のこと──ほぼハリーに対する悪口のようなものなのだが──を話していたせいか、平日ならば朝食を食べている時間になってもパンジー達は起き出してこない。ライジェルは早々に離脱してさっさと横になってしまったのだから眠気など残ってはいないのだが。十一月に入り、風も冷たくなってきた中をライジェルはかばんを持ってふくろう小屋に向かって足を進めた。パンジーだけに限らず、今日は昨日とは打って変わってこの時間になってもあまり人を見かけない。特にハッフルパフ生は全員が寮に引きこもっているのではないかと疑うくらいにまるっきり視界に入らない。確かハッフルパフ寮の近くには厨房があるから、何か食べ物をもらってきてパーティーを開いていたんじゃないかと考える。ふくろう小屋につくと、昨日見かけたコノハズクがまだ残っていたため、それの脚に手紙を括りつけた。

「レギュラス・ブラックのところまでこれを運んでくれ」

 コノハズクはライジェルの言うことに、わかった、とでも言うかのようにライジェルの指を甘噛みし、すうっと空へと舞い上がっていった。

「ああ、ブラックさん、」

 コノハズクを見送っていたライジェルの後ろから聞こえてきた聞き慣れた声に、ライジェルはぱっと後ろを振り向く。

「ディゴリー、」
「僕も父さんと母さんに手紙を出しに来たんだ。……あと、寮にいるとちょっと落ち着けなくてさ」

 近くによってきたシマフクロウに持ってきた手紙を結わえ、空に飛ばしたセドリックは、ライジェルの隣に立つ。

「……まさか、僕が選ばれるなんてね。大方、グリフィンドールの生徒じゃないかって思ってたよ。今でも信じられない」

 本当だよ、と笑うセドリックに、ライジェルも釣られる。

「まあ、せっかく選ばれたんだ。やるからには徹底的にやれ。お前はホグワーツの代表なんだからな、ボーバトンやダームストラングの奴らに負けるなよ」
「はは、ちょっと僕にはきついかなあ」

 頭を掻くセドリックに、ライジェルは、そういえば、と尋ねた。

「課題について、昨日何か言われたか?」
「ああ、うん。第一の課題は十一月二十四日、今日から三週間強先に行われるってさ。競技内容はわからないままで、武器は杖だけ。先生からの助けは頼むことももらうことも許されない。昨日僕達に言われたのはこれくらいかな」

 セドリックから聞いたことに、そうか、とライジェルは考え込む。

「……準備期間が短いな、それに選手には内容も知らされない。ということは、選手への条件に相応の競技だろうな。仕掛けを幾つも仕組んであるような難しすぎるものは多分出ない」
「うん。でもその競技内容が特定できないんじゃ、何も行動できないよ。これじゃ、最初から君の助けを借りることになりそうだ」

 セドリックの済まなそうな表情に、ライジェルはわずかに目尻を緩めた。

「私なんかでいいのなら、最後まで一緒に調べてやる。手助けになれればいいんだがな」

 まずは資料を集めないとな、と誰に言うでもなく呟いたライジェルは、手持ちの荷物をごそごそと漁る。ライジェルの目当ては手紙用の羊皮紙と羽根ペンだったが、あいにく今は持ち合わせていないようだ。

「羊皮紙と羽根ペン、それに便箋は持ってないか?」
「羊皮紙と羽根ペンと便箋? ちょっと今は持ってないや……」

 手紙は後で書くことにしよう、とライジェルは一度出した荷物をまたかばんにしまう。

「手紙を書いて何するの?」
「とりあえず父に何か役立ちそうな本を送っていただく。そうだな、伯父にも頼んでみるか。お前も、面倒だが何か使えそうな本は送ってもらえ。まずは情報を集めるのが一番だ」

 わかった、と頷いたセドリックは、そうだ、と何かを思いついたように口を開いた。

「確か図書館にも、ホグワーツの歴史についての本があったはずだ。それに昔の対抗試合のことについて何か載ってるかも知れない」
「そうだな。あとはどこか場所を借りれば文句なしなんだが……」

 対抗試合というからには、少なからず攻撃系、それに操作系や変身術の魔法もセドリックは使うことになる。今まで彼が六年の内で学んできたものを使えるのなら、もちろんそれが一番だ。だが、そうも簡単にはいくわけがない。幾つか新しい魔法も習得しなければならないだろう。そのためには、ある程度の場所が必要だ。どこかの教室を借りれるならいいのだが、そう教師が簡単に生徒に使わせてくれるはずもない。

「……スプラウト教授が、確か幾つも温室を持ってる。でも、先生が助力しちゃいけないって……」
「どうせ使わない場所があるなら、それを提供したくらいで助力とはみなされないだろう。最悪、お前の名目でなくて私の名目で借りればいいさ」

 とりあえず今やれるのはこれだけだ、と言い切ったライジェルは、父親に助けとなり得る本があれば送ってもらえるように頼む手紙を書いて、一時間後にまたふくろう小屋の近くで落ち合おうとセドリックと約束し、寮への道を戻った。


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