ライジェル達がマクゴナガルの部屋に入ると、そこにはマクゴナガル以外に、ダンブルドア、そしてウィーズリー夫妻が目を見開いて五人を見た。
「ジニー!」
ウィーズリー夫人が駆け寄り、ライジェルはジニーを背から降ろした。ジニーは泥まみれだったがウィーズリー夫人は関係ないと抱きしめる。ライジェルはそんな姿を、目を細めて見ていた。
「あなた達があの子を助けてくれた!あの子の命を!どうやって助けたの?」
「私達全員がそれを知りたいと思っていますよ」
マクゴナガルの言葉に、ハリーは一部始終を話した。途中からはライジェルの知らない岩の向こう側でのこともハリーの口からは飛び出てきた。
「わしが一番興味があるのは、ヴォルデモート卿がどうやってジニーに魔法をかけたかということじゃな。わしの個人的情報によれば、ヴォルデモートは、現在アルバニアの森に隠れているらしいが」
なら何で早く捕らえないんだ。ライジェルの言葉は口から出ることなく消え去る。
「ママが準備してくれた本の中にこれがあったの。あたし、誰かがそこに置いていって、すっかり忘れてしまったんだろうって、そ、そう思った……」
ライジェルは、そういえば、と二年目の学校生活が始まる前に行った書店での出来事を思い出す。書店で、ルシウスはジニーに本を渡していた。あの時か、とライジェルは頭を抱えたくなった。全ては伯父と尊敬している人の仕業だったのだ。
「……すいません、気分が優れないのと早く汚れを落としたいので先に退出させていただきます」
ルシウスの仕業とわかってこのままいられる余裕のなかったライジェルは、返事も聞かずにマクゴナガルの部屋を出た。スリザリンの寮に戻ろうとした時、ライジェルを呼び止める声が聞こえた。
「待って!」
振り返ると、そこにはジニーとウィーズリー夫妻がいた。
「あなた、あの時のブラックさんでしょう?ジニーを助けてくれてありがとう」
ウィーズリー夫人に頭を深々と下げられて、ライジェルは一瞬虚をつかれて目を丸くする。
「いえ、娘さんを救ったのはポッター……ハリー・ポッターです。礼を言うのなら彼の方が適任かと」
「いえ、あなたもれっきとしたジニーの命の恩人よ。本当にありがとう」
ライジェルが謙遜して首を横に振るが、夫人はもう一度ライジェルに礼を言った。
「ブラックさん、」
ライジェルのところにジニーが駆け寄る。
「ありがとう。あと、ロンが多分迷惑かけたと思うの。ごめんなさい」
お辞儀をするジニーの頭を、ライジェルはぽんぽんと優しく撫でた。
「礼はいらない。それよりも、しっかり安静にしていろ。そっちの方が私には嬉しい」
ジニーは頭を上げた。目はきらきらと輝き、にっこりと笑っている。
「ああ、あと兄のような無謀で馬鹿な真似はするなよ。……あ、すいません」
ライジェルはロン達のことを頭に思い浮かべながらそう言ったが、ウィーズリー夫妻の顔を見て慌てて謝る。だが夫妻は優しげな顔で微笑んでいた。
「じゃあ、行くぞ、ジニー」
「うん。さよなら」
ジニーは夫妻に肩を抱かれながらライジェルの向かう方とは逆方向に歩いていった。
「…………いいな、」
ライジェルは、寂しげにその微笑ましい光景を見て、ぽつりと呟いた。そして、またスリザリンの寮へと足を進めていった。
ライジェルがホグワーツからキンクズクロス駅に戻ると、そこにはレギュラスの他に、ルシウスとナルシッサの姿もあった。二人とも、ドラコを迎えにきたようだ。
「お帰り、ライジェル」
「はい、父様」
ライジェルはレギュラスに頭を撫でられる。
「では私達は先に帰る。また会おう、ルシウス、ナルシッサ」
ライジェルはルシウス達と別れる前、ちらりとルシウスの顔を見た。ルシウスはホグワーツの理事をやめさせられたらしい。まだ少し動揺が残っているのがライジェルにもわかった。
「ルシウス伯父様、」
去り際にライジェルはルシウスに声をかけた。
「自業自得ですよ」
驚きに目を見開いたルシウスが何か言う前に、ライジェルはレギュラスと一緒にその場を後にした。
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