ハロウィンのパーティーもお開きとなり、ライジェルはパンジーやドラコ達と一緒に大広間から戻る道にいた。

「今年のハロウィンパーティーはよかったわね。去年はトロールの事件があってあまり楽しめなかったもの」
「そうだな。私も医務室にいたし」

 ライジェル達は話しながら歩いていた。だが、前を歩いていた生徒が立ち止まり、ライジェルはつんのめってしまいそうになった。

「どうしたんだ?」
「わからない。人混みで前が見えないわ」

 ライジェルとパンジーは互いに顔を見合わせた。その時、前の方からドラコの声が聞こえてきた。

「継承者の敵よ、気をつけよ! 次はお前達の番だぞ、生まれ損ないのマグル生まれめ!」

 ライジェルは生徒達を掻き分けて何とか前に進み、そして壁に書かれた赤い文字を目に映した。
 ────秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気をつけよ

「血……ではないな」

 鉄の臭いはしない、ただのペンキだろう。それにしても、秘密の部屋、なんて聞いたことがない。

「お前だ! お前が私の猫を殺したんだ!」

 フィルチの叫び声が響く。猫が殺されたのか、とライジェルは頭の片隅で思ったが、視線はいまだに壁の文字に釘付けだった。現場にはハリー達が居合わせたらしく、ダンブルドアに連れられていった。ダンブルドアも監督生に指示をし、関係のない生徒達を速やかに寮へと帰らせた。

「秘密の部屋について、父上は何か知ってらっしゃるらしい」

 寮の談話室に戻ると、ドラコはソファーでライジェルとパンジーに、まるで面白い計画があるかのような口ぶりで話し始めた。

「だがどれだけ尋ねても教えて下さらない。少しくらいなら教えて下さってもいいと思わないか?」
「しょうがないだろう。ルシウス伯父様もルシウス伯父様なりの考えがあるんだろう。必要な時には教えて下さるだろうからそれまで待っていろ」

 ドラコはルシウスが何一つ情報をくれないのを不満に思っているようだ。

「でも、それならドラコが継承者じゃないの? サラザール・スリザリンの作った部屋なら、継承者は確実に純血よ。それにきっと純血の中でもドラコやライジェルみたいに由緒正しい家柄の魔法使いだと思うわ」

 パンジーの言うことに、ライジェルも頷く。ブラック家やマルフォイ家などの純血主義の家柄の魔法使いが継承者の可能性は高い。だがドラコの反応を見る限り彼はスリザリンの継承者ではないらしく、ライジェル自身も違う。レギュラスにスリザリンの継承者について手紙を書いたが、レギュラスはわからないとの返事しか返してこなかった。

「僕じゃない。父上でもなかったらしい」

 ドラコは首を横に振る。それからこの話はお開きとなったが、ライジェルはベッドで横になってもスリザリンの継承者のことを考えていた。ライジェルは紛れも無い純血だ、巻き込まれる危険性はない。今ホグワーツに在学している昔からの由緒ある純血の家というと、ブラック家、マルフォイ家、ウィーズリー家、ロングボトム家、それから一代前までは純血だったポッター家が有名なところだ。だがスリザリンの継承者にグリフィンドールに組分けられた者がなるのはおかしい。となるとやはり候補はブラック家の後継者のライジェルとマルフォイ家の後継者のドラコということになる。そしてライジェルもドラコも継承者ではない────ドラコが嘘をついているならば別だが。

「……やめるか」

 これ以上考えても余計に混乱するだけだ。ライジェルは頭を空にしてまぶたを閉じた。
 クィディッチシーズン最初の試合、グリフィンドール対スリザリン。そしてドラコの初試合でもある。試合当日の土曜日、ライジェルはパンジーとクィディッチ競技場でいい席をとっていた。ドラコの能力をお手並み拝見といったところか。

「きっとグリフィンドールチームなんてこてんぱんにやられちゃうよ! だってスリザリンにはニンバス2001があるんですもの!」

 パンジーはドラコがシーカーをやると聞いてこの日をずっと楽しみにしていたらしい。やがて、試合が始まった。やはり箒の性能差がありスリザリンが優勢だ。しばらくクアッフルの動きを見ていたライジェルだったが、ふとハリーの動きがおかしいことに気づいた。ハリーがライジェルの視界に入る度にいつもブラッジャーに攻撃されている気がするのだ。ライジェルはハリーの動きに注目した。

「……なんだ、あのブラッジャー……」

 ブラッジャーの一つが、確実にハリー一人に攻撃対象をしぼっていたのだ。ビーターのフレッドとジョージが何度も別の方向へ打つが、それでもブラッジャーはハリーめがけて飛び回る。誰かがブラッジャーに魔法をかけた、それ以外にありえない。ハリーの命を狙う、闇の帝王のしもべの仕業だろうか。いや、だとしたら禁じられた呪文で一瞬で片をつけるはずだ。ライジェルは色々考えていた。

「バレエの練習かい、ポッター!」

 ドラコはハリーがブラッジャーを避けているのを見て笑う。もしドラコ自身が今のハリーのようにブラッジャーに追い回されたら半泣きになっているだろうに。その時、ライジェルの目はドラコの頭上に金色に輝く小さなものを捕らえた。スニッチだ。ドラコはスニッチに気づいた様子はない。

「気づけ、馬鹿……」

 ライジェルの呟きもむなしく、結局スニッチはブラッジャーに腕を折られたハリーに取られてしまった。キャプテンのフリントにきつく怒られているドラコだったが、それよりも酷かったのはロックハートだった。ブラッジャーに折られたハリーの腕の骨を、魔法で消してしまったのだ。ロックハートはただの能無しだな、というライジェルの確信は大多数の生徒達にも共通していて、教職員に至ってはロックハートを好いているものは誰一人としていなくなった。
 そんな中、石になったミセス・ノリスに次ぐ犠牲者が出てしまった。コリン・クリービーだ。コリンが非魔法族生まれの魔法使いということを聞いて、やはり継承者の敵、というのは非魔法族生まれだという確信をライジェルは持たざるを得なくなった。


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