04
予定通りミーティングは順調に終わり、俺は図書室にへと向かっていた。
“予定通り”だなんて言ってもちょっと長めに掛かってしまっていたので俺は早足でその教室を目指す。いくら強制的に約束を付けられたとはいえあの人を待たせるのは何だか申し訳なかったのだ。重いテニスバックが背中で揺れた。
やがて見えてきた扉をめいいっぱい力を入れて開き中にへと進んだ。
普段なら好んで来るような場所では無いので見慣れない部屋に少し怯む。しかしこんな所でそわそわしている訳にもいくまい。
もう図書委員も帰宅したらしい無人のカウンターの前を通っていくつも用意されている机へと向かえばその一つに柳さんの姿を発見した。
「柳さーん!」
ここがどこであるのかも忘れて柳さんが座っていた机の横にへとダッシュした。
そんな俺に柳さんが顔を上げる。
「こら、ここは図書室だぞ?静かにしないか」
「えーでももう誰もいないっスよ?」
「そういう問題じゃない」
「ちぇっ」
渋々といった調子で隣に座れば柳さんがくすりと笑うのが確認できた。
「しかし、ちゃんと来てくれたのだな。嬉しいぞ」
「当然っスよ!約束は守る性質なんスから!俺!」
「それはいい心掛けだ」
そう言って俺の頭を撫でた彼は「さて…」と言いながら教科書を取り出す。…そうだ、ここに来た目的はこれだった。
「時間が惜しいのでな、始めようか」
「…うぃーっす」
正直あまりやる気にはなれていなかったがやるしかない。
一種の覚悟を決めた俺は柳さんが開いたページの問題に取り組み始めた。
* * * 「柳さーん、これなんスけど…」
「ん?ああこれは…」
柳さんの教え方は的確だった。問題を見て、俺の考えを聞いた上でアドバイスをしてくれる。自分の考えを言わなければならないので自然と頭に残るのだ。
思った以上に問題はすらすらと解けていった。
「そー言えば、」
「どうした?」
俺が問題を解いている間、柳さんは図書室の本に目を通していた。
今まで本に落とされていた視線が俺にへと向く。
「昨日何探してたんスか?すっごい真剣に探してたけど…」
「ああ、気にしないでくれ。ちょっと落し物をしてしまってな」
「へー…、早く見つかるといいっスね」
「そうだな、それより赤也。ペンが止まっているぞ」
「やってますやってますって!!」
これは嘘ではない。事実ちゃんとペンは動いてるしさっきの問題から一問だけど進んでいる。それでも「早くしないと学校が閉まる」といったようなオーラを出してくるのだから柳さんは意地悪だ。この雰囲気はちょっと幸村部長に似ているかもしれない。根本的な部分は違うけれど。
柳さんが俺に課していた問題を全て解き終わる。
それを柳さんに告げれば「これを解いてみろ」ともう一問問題を追加された。
暫く紙と睨めっこしてペンを動かす。やがて出た答えを柳さんに見せれば満足そうな笑みが返って来た。紙の上に綺麗な丸が描かれる。
「今日の宿題の最終問題、見てごらん」
「え?」
描かれた赤い丸が嬉しくてそれを眺めていた俺に柳さんはそう言った。
何でと疑問を抱きつつもノートと問題を取り出す。そこで俺は気がついた。
「これ!」
「これでもうこの問題は解けるな」
先ほど俺が解いた問題、それは所謂朝俺が解けなかった問題の類題だったのだ。
一日でこのように成果が出るなんて嬉しくて仕方が無い。
「しかしちゃんと家で復習するんだぞ?覚えたものを忘れては勿体無いからな」
「はーい!柳さんありがとうございますっ」
柳さんの指導は凄い。いっそ授業も柳さんから受けたいと思ってしまった。たった一年年上と言うだけでこのようなスキルが身につくのだろうか。
「じゃあ、今日はお終いにしようか。もう暗くなってしまった」
「ちっす!」
すっかり暗くなってしまった外に目を向けそう言葉を漏らす柳さんに頷きながら返事をする。誰もいなくなった図書室に鍵をかけて、俺達は学校を後にした。
有意義な放課後だったように思う。まさかあそこまですらすらと解き進めるとは。家に帰ってからは案の定と言うかゲームに没頭しちゃったけどな。
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