03


寝る前に頭に引っかかっていた宿題はどうやら1時間目の教科だったらしい。最悪だ。全く手を付けていない。
しかも不運な事に俺の列の1番前の奴が当たり日らしく、俺が指名されるのはほぼ確定事項だった。誰かに愚痴を零せば「自業自得」だなんて言葉が返って来そうだがこんなのってない。

「たった1問なのに…!」

「おーおー頑張れ赤也」

「くっそ、お前見せろよ!」

「やーなこった」

わしゃわしゃと頭をかいてノートに向かっているのを茶化すクラスメイトに腹が立つ。
邪魔をするな。あの教師、絶対解けないやらやってないやら言ったら特別課題とか出して来るって。それだけは勘弁願いたい。地獄じゃん。

「あー…もう誰かのノートを…あ!」

「うお?!どうした赤也!」

「わりぃちょっと行って来る!」

「はあ?!お前もうちょいでHR…」

クラスメイトの止める声も押し切って俺は宿題の書かれたノートを手に廊下に飛び出した。
そしてちらちらと人がいるだけの廊下で目当ての背中を探す。幸いにも身長の高いあの人の姿は直ぐに見つかった。

「柳さん!!」

「え…?」

走って追いかけてその制服の裾を引っ張れば、柳さんは驚いたように振り返った。
そう、先程クラスメイトの肩越しに柳さんが通り過ぎるのを発見したのだ。

「ああ、おはよう」

「おはよっス!昨日ぶりっスね!」

戸惑ったような柳さんは、ふと辺りを見てから優しく笑った。

「お前は朝から元気だな。もうすぐHRが始まるが戻らなくていいのか?」

「大丈夫っス!あのあの!今いいっスか?!」

「? 構わないがそんなに焦ってどうし…ああ」

俺の気迫に一瞬押されながらも、柳さんは俺の手に握られた物を見て納得したらしい。

「わからない問題でもあったのか」

「その通りっス!またちゃんと自分でじっくり考えるんで直ぐ教えてくれません?!」

俺の言葉を聞いて、柳さんは呆れたように額に片手を当てた。
はい。俺も理解してます。こんな5分くらいしか時間無いのに教えてくれだなんて無茶振りですよね。でも俺は今形振りなんて構っていられなかった。答えが知りたい。

「…仕方の無い奴だな。かしてみろ」

「! はい!」

俺の必死さが伝わったのか、柳さんはノートを開いて俺がひたすら悩んでいた問題に目を通してくれた。1つ上の先輩なら時間も掛からずといてくれるのではないかという期待が生まれる。柳さんがどれほど出来るのかは知らないけれど、雰囲気的に軽く解いてしまいそうなイメージがあった。

「取り合えず、答えは書いておくが…理解しないことには話しにならん。放課後は空いているか?」

「うわああありがとうございます…って放課後?」

「ああ。勉強を見てやる。どうだ?」

まさかの申し出だった。予想外のスピードで答えをくれただけでなく、勉強を見てくれるだって?
柳さんとなら、確かにはかどりそうだが…でも勉強を残ってするというのは…。

「実は部活が…」

「確かテニス部だったな。今日の部活はミーティングだけのはずだ」

「何で知って…!…あ」

「空いているな?」

なんか騙されたみたいな錯覚に陥った。知っているなら聞かなくていいのに。

「え、でも俺やりたいこと…」

「復習出来ないならこのノートはお預けだ」

「?! 意地悪!」

「何とでも」

俺より遥かに高い先輩がノートを上に掲げてしまう。そんなことをされてしまえば俺がどうしようと届く筈がない。時間が無い。もうチャイムが鳴ってしまう。

「わかりましたよ!お願いします!」

「ああ、よく言ったな。じゃあ部活の方が終わったら図書室においで」

「うう…うぃーっす」

柳さんからノートを受け取りながら間延びした返事を返す。
柳さんはそんなこと気にもしないで「じゃあまた」と3年生の教室がある階に上がって行ってしまった。タイミングがいいのか悪いのかチャイムが鳴り始めたので、俺も慌てて自分の教室に滑り込む。
やはりというか何というか、廊下に他の生徒の姿は無かった。

余談だが、HR後の授業で当てられた際にそのまま柳さんの教えてくれた答えを答えたら担当の先生にあり得ないほど賞賛されて俺がびっくりしました。
聞くと、俺のことからかってたクラスメイトも意地悪で見せてくれていなかった訳でなく解けていなかったらしい。年上とはいえ、そんな問題をあんな短時間で解いてしまう柳さんにちょっと畏怖の念を感じた。これ、柳さんには内緒な。


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