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02
夕飯時も、テレビを見ている時も、俺はいやに機嫌が良かった。 そんな様子を見ていた姉貴から気持ち悪いもんを見るような視線を向けられた。
「あんたずっとへらへら笑っててきもいんだけど…」
「はあ?きもいってなんだよ」
「もうずっと頬緩みっぱなし。何?好きな人でもできたの??」
言われて初めて気付くことなんて山ほどあると思う。 今回なんてまさにそれで、自分自身機嫌が良かったってことには気付いていたが顔が緩んでいたことには全く気付かなかった。 今更鏡で確認するのも馬鹿らしいのでやんないけど。
「ちげーよ。まあ面白い人と会ったけど」
「ほおほお」
興味津々と言った様子の姉貴はどう見ても俺の話を聞いていない。 違うと言っているのに、俺の話をにやにやしながら聞いている。 ああ、俺こんな顔してたのかな。
「だから違うって…」
「まあまた進展あったら聞かせなさいよ。そんな事より赤也赤也、ちょっとおいで」
「あぁ?」
さっきまでの態度はどこへ行ったのか。俺を手招きしたかと思うと手の中に何かを渡してきた。 結構硬くて平べったい。何だと思って手の中に目を落とせば、そこには黄色い花が押し花にされているしおりがあった。
「…なんだこれ」
「見てわかんない?しおりよ。し・お・り」
「いや、んなこと聞いてねーし」
俺が聞きたいのは何でこんなものを渡して来るのかという点であって、別に物に関しては聞いていない。
「いやね。バイト先の先輩から貰ったんだけど、数あるからおすそ分け」
「俺、んな難しい本とか読まねえんだけど」
「赤也もこれでばっちりだね」
「聞けよ」
姉貴は結局そのしおりを俺に押し付けてリビングを出て行ってしまった。 ぽつんと残された俺は、未だ俺の手の中にあるそれにもう1度目をやる。
「はぁー…」
無理矢理とはいえ貰い物を捨てる気も起きなくて、とりあえずはとしおりをズボンのポッケに突っ込んでおいた。 使う予定なんてないけど、入っていて邪魔になるようなものでもない。
「ゲームしよ…」
何もせずリビングでぼーっとしているのも何なので自分の部屋に戻ることにした。 ここに真田副部長や柳生先輩がいたのなら俺に「勉強しろ」と言ったことだろうが、生憎ここは俺の家であるので2人の姿は無い。 気兼ねなく趣味に走れるというわけだ。
結果、親に「アンタお風呂は!」と部屋の扉をばんばん叩かれるまでゲームに没頭する事が出来た。 宿題やらなんやらが出ていた気がしない事もないが、まあいいや明日やろう。 そう考えた俺は風呂から上がって早々ベッドにダイブした。ベッドがきしんだ衝撃で、隣に置いてあったお守りが飛び跳ねるのが目に入る。やがて布団の気持ちよさと、もともとの寝付きのよさが合わさって俺は直ぐに意識を手放す事になった。
ああ、明日も会えたらいいのに。
薄れゆく中、無意識にそんな事を考えていた。
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