3-9


革命である!!!
革命である!!!


私の名前は禪院真知、十四歳。
しかし中身は良い歳した転生者であり、薄っすらとある前世の記憶を鑑みるに…友達の一人も居ない寂しい科学者であった様子。

ちなみに、前世で友達が居ないと言ったが、正しくは違う。
私は今世でもまともに友達が居ない。だって学校に行っていないから。いや、学校に行った所で友達が出来るとは思わないが、今の私には友達を作る切っ掛けや出会いすら無かった。
仕方無い。引き篭もりの味方は理解のある家族と物言わぬ骨だけだ。

しかし、そんなクソボッチな私にも春がやって来た。
出会いはそう…数週間前の昼過ぎ。私は実の姉である禪院真希と運命的な再会をし、それ以来ずっと彼女のことを考えては胸をときめかせ続けていたのだった…。

一応弁解しておくと、このときめきは女性が男性アイドルに寄せるような物だと私は介錯している。
しかし男性アイドルを好きになると言っても、その推し方は十人十色…中には「え?も、もしかして恋かも…?」なんて思っちゃう子も居るはず。
つまりはそういうアレである。
思春期ですよ思春期、だって私の脳と身体の年齢は丁度そういった年齢ですから、精神が多少性別不詳の科学者でも肉体に引き摺られて青春のラブストーリーが奏でられる場合もあったり、無かったり…。
いやまあ一番の原因は言わずもがな、実姉が格好良過ぎたのが原因なんですけども。はあ…思い出すだけで心の付け根がきゅってなっちゃう…。たまらん…。

というような感じに春爛漫な心の私は、本日なんと…もう一人の姉である真衣お姉様に会えるとのことで、さらに舞い上がっていた。
真衣お姉様もきっと麗しい女性になって居られるはず、姉妹並んだら芸能事務所からのスカウト待ったなしだろう。でも真希お姉様にはやるべきことがある…ここは一つ、私が『勧誘お断り』の札を首から下げるしかない…。

気分はもう鰻登り鯉のぼり滝登り、盛り上がって参りました私の人生。フィーバータイム突入しちゃってますよ、これは。
恋する乙女な私は、一週間前から悩みに悩んで決めたお洋服を着て、ルンルン気分で姿見の前でターンを決める。

いつもなら避けるはずの白いワンピースを着て、サイドの髪を片方だけピンで止める。このピンも…この前、真希お姉様が下さった物だ。何かの時に入手した物らしいが、「可愛過ぎて趣味じゃねぇから、お前にやるよ」と言って…私の髪にそっと差して下さったのだ。
あの時のお姉様は…本当に格好良かった…私は思わず口から「はうっ!」なんて声が出てたっけ、それを聞いた傑さんが物凄い顔をしていたのもついでに思い出す。
分かるよ、分かる。長年成長を見守ってきて、今まで恋愛の"れ"の字も無かった子供にいきなりのラブ的展開…そりゃ、思う所もあるよね。

でも、知ったことでは無いのだ!!
何故ならば、私はこの叶わぬ恋に浮かれポンチになっているからだ!!
だから、甚爾さんが「あんなの俺と大体一緒だろ」という言葉も、悟くんの「え?嘘でしょ?脳みそ退化でもした?」という声も、私の耳には届いていなかった。

クルクルと鏡の前で回り、えへへ…とだらしなく緩んだ笑みを鏡に向けて浮かべる。

真希お姉様には会えた。
お姉様はお家で色々あっただろうに、父に異端者として追放された私にとても良くして下さる。顔を赤くする私を見て「可愛い奴」と言って頭を撫でてくれるし、疲れて座り込んでいれば簡単に抱き上げてくれた。
そして、あの頃のことを…「何も出来なくて悪かった」と謝ってもいた。
私は罪など無いはずの謝罪を心苦しく思ったが、同時に「だからこそ、やり直せる」とも思った。

私達、きっとやり直せる。
真衣お姉様とも、絶対仲良くなれて…今度こそ三人で仲良くするんだ。幸せになるんだ。
春は一緒に菜の花を見に行って、夏は浴衣を着てお祭りに行くの。秋は沢山カフェ巡りをして、冬はココアを飲みながら三人で映画を見て。
そうやって、楽しく仲良く、幸せに笑い合って過ごしたい。
あの頃何一つ叶わなかった夢を叶えたい。もしも叶うならば、お母さんも一緒に。

「真知…そろそろ行くぞ」
「あ、恵くん。ねえ、見て見て、今日の私…可愛い?」
「良いから、行くぞ」
「あらまあ…君も思春期なのね」

私のキメキメ可愛いポージングに眉根を寄せて顔を背けた恵くんは、同じく高専に用事があるとのことで、本日は一緒に行く約束をしていたのだ。
だから、今日は甚爾さんは不在。一緒に来るか聞いたけど、恵くんが居るなら問題無いだろうと気ままにボートレースを観に行ってしまった。
でも、夕方には戻ると言っていたので、私は行ってらっしゃいのハグをして見送った。

「甚爾さんを心配させるといけないから、日が落ちる前には帰らないとね」
「…お前は甘過ぎんだよ、放っとけあんな奴」
「だって、大切にしたいからさぁ」
「これ以上甘やかすな」

溜め息を付かれながら言われてしまったが、私は曖昧に笑うしか無かった。
うん、ご尤も。でも、基本皆あの人には厳しいのだから、一人くらい甘々なのが居ても良いはずだろう。

そうだ!今度は甚爾さんも一緒で、皆で会おう。
私達に流れる血は悲しくて悔しいことばかりじゃないのだと、皆で会えばきっと強く思えるはずだ。
そうすれば次の時代には、もう少し優しくて誇らしい我々になれるはず。

うん、素晴らしい未来だ。
明るい、幸福が詰まった世界だ。

私と恵くんは、肩を並べて高専へと向かって歩き出した。
この数十分後に起こる悲劇を何も知らないまま、仲良く笑い合って、幸せしか見えなくなって歩いていたのだった。




………




ガヤガヤガヤ………

ザワザワザワ………


煩い。
酷く煩い。

痛い。
何もかもが痛い。

苦しい。
指先のその向こうまで苦しい。

流れて止まらない血は淀みなく赤い血溜まりを作り出し、千切れてバラバラになった肉片はそこかしこに散らばっていた。
眼球はとうの昔に潰れ、呼吸は最早消えかかっており、想像を絶する痛みもやがては脳が麻痺したショックによる、多幸感に塗り潰されていく。


「ーーッッッ!!!!ーーーーーッッッ!!!!」


つい先程まで聞いていた声が、何かを呼んでいる。
そんなに叫んでいて辛くは無いのだろうか…私は死の直前に、そんなことを思った。

何処からか、シャッター音が鳴り響く。
最後に耳に届いたのは、どうでも良い他人の声だった。


「いきなりトラックが突っ込んでさ、女の子一人潰されたっぽい。めっちゃ血ィ出てんの、マジやべぇって」

「動画撮ってる?これテレビ売れんじゃね?」

「うわ、私じゃなくて良かったぁ」

「可哀想……まあ、行こっか」

ガヤガヤガヤ………

ザワザワザワ………

視界と意識が黒く塗り潰されていく。
何処かで誰かが呼んでいるのは確かに伝わってくるのに、私はそれに答えることも出来ずに冷たい静かな闇の中へと意識を落していった。

深海に沈んでいく夢を見る。
ここまでの日々はまるで夢のような、旅路だった。

溺れる。夢に。
何処までも、限りなく。




………




水槽の奥で私は揺れる。
いつかの手のひらの中と同じ。

ここでは、神の計画を無視した進化が行われている。

mae ato
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