2-3


いきなりだが、私の実の家族の話をしたいと思う。
母については正直特筆して話すべきことは無い、父についても一旦端に寄せておく。
私が話したいのはそう、二人の姉についてだ。

二人の姉、もしくは双子の姉達。
上の方が真希、下の方が真衣。
同じ着物を着て、何処に行くにも大体同じ。見分け方は、上姉の方が髪質がストレート、下姉の方がやや癖がある。それくらいの差しかない…そんな姉達だ。

彼女達は呪術界にとっては忌み子の意を示す双子で産まれて来た。
そのためか、片方は呪力が無く呪霊も見えない体質で、もう片方もやや呪力がある程度の体質であった。
だからだろう、父は彼女達に期待という期待はしていない。というか多分、あの人の眼中には無いのだろう。私も居るし。

私と姉達の関係は語るほど何かあるわけじゃない。
そもそも母が私と姉達を関わらせたがらなかったので、殆ど話をした記憶は無かった。
たまに訓練中に視線を感じることはあったが…本当にそれくらいで、他には一切の関わりが無かったと記憶する。
それでも、私は彼女達の顔をしっかりと覚えていたし、視線から感じる様々な感情達も覚えている。

だから、たまにふと思うのだ。

恵くんって…姉達の顔によく似ているな……と。
姉達もだが、禪院家の血を濃く受け継ぐ人はシャープな顔立ちが多い。こう…目がキュッと釣っていて、鼻がシュッとしていて、顎もスッとしてて…黒髪黒目で……うん、つまりは美形なのだ。とっても。
甚爾さんも正にそんな感じの顔立ちで、彼はそれはもう適当に甘えれば大概の女性は堕ちるだろう…というくらいの顔の良さをしている。

多分だが、姉達や恵くんも将来こういう感じの顔付きになるんだろうな…と私は予想している。
とくに恵くんなんかは、そりゃあもう思春期には薔薇色のモテまくりスクールライフになること間違い無しに決まっている。約束された勝利の顔面。流石、ヒロイン候補ナンバーワンは格が違う。


さて、ではここで同じく禪院家の血をちゃんと受け継ぐ私はどうかといえば…率直に言おう、正直姉達とは全く違うタイプであったりする。

猫目猫毛、低身長。なんか一人だけ、全然強そうじゃないし格好良くないし、オーラも無いし、もう小学一年生の年齢なのにまだ舌っ足らずだし、ほよほよしている。あと時雨さん曰く、ガチでまだ赤ちゃんの匂いがするらしい。

何だろうこの明らかな差は。明確な線引を感じる。
不思議と直哉くんの隣に居ると同じ一族として何となく違和感の無い顔立ちなのだが、姉達と並ぶとどういう訳か一人だけ違うな…ってなる。悲しい。やっぱり私は異分子で異端者なんだ…。

……というようなことを恵くんを見ながら思い、直哉くんの顔が恋しくなるなどした。


現在、私は恵くんと一緒に高専敷地内にて甚爾さんを待っている状況であった。
私は例の如く収集した情報を売りに、甚爾さんは呪具だか何かを見に、そして恵くんは完全なるオマケである。

面談も終わり早々にやることの無くなった私は、別室で待機していた恵くんの手を取り校庭へと向かった。
外はよく晴れており気持ちの良い天気だったので、広い校庭がいつもよりも素敵に見える。
私は校庭に繋がる階段に腰を下ろし、隣をペチペチ叩いて恵くんに座るよう促した。

「ジュースとおかし、たべよ」
「親父は?」
「とうじさん…?たぶんまだ、じかんかかるんじゃないかな。あいたい?」
「そうじゃねぇよ…」

周りをキョロキョロ見ながら隣へ座った恵くんは、少しむつかしい顔をしている。
どうしたどうした〜〜???最近やたら口調が悪くなり始めた恵くんは、たまにこうして辺りを警戒することがある。
私はそれをお姉さん気分でニコニコしながら見守る。SPごっこかな?それともそんなにお父さんに会いたいのかな?

「真知が…」
「ん?」

職員室で貰った紙パックのジュースと、美味しそうなクリームのサンドされたワッフルをバッグから取りだした私は、ハンカチの上に並べながら恵くんの話を聞いた。
すると、彼は私の予想だにしないことを述べ出すではないか。

「前に攫われたって言ったんだろ。だから…親父が居ない時は、俺が…」
「………あ、え…いや、あの……」
「つか…親父、ちゃんと側に居ろよ」
「ソ、ソダネ………」

め、恵くん………!!!
どうしよう、嬉しさと感動とすまなさがこころの中でトルネードしてしまう。
心配してくれてありがとう、守ってくれようとしてありがとう。でも違うの、私を攫ったのは他でもない君のお父さんなの…。

ハンカチを挟んで隣に座った恵くんは素早く紙パックのジュースを手に取ると、ストローを刺してこちらに「ん」と渡してきた。
私はそれを両手で受け取りながら、苦笑いを浮かべそうになるのを耐えた。
恵くん……なんて優しい子に育ったんだ…本当に甚爾さんの血流れてる?なんか別の禪院家の人の血とかじゃない?私、不安になってきちゃった…。甚爾さん、本当に私以外を攫ったりしてないよね?


ジューッ


勢い良くリンゴジュースを吸い込めば、口いっぱいに人工甘味料が混ざった甘ったるい味が広がり、私は鼻の頭にシワを寄せた。
個人的な指向の話だが、私はコーラもジャンクフードも人工甘味料の入った果汁ジュースも好きじゃない。馬鹿な味がするから。
あと胃にも悪いし。そういう物を大量に食べるとすぐ吐く体質なんだよね、最近。

ふと思い返すと、近頃の私は家に居た頃よりも健康になるどころか虚弱になっている気がする。
例えば先程の食事のこともそうだが、よく体調を壊すし、眠くなることが多い。
だが、それと比例するかのように術式や呪力はグングンメキメキ伸びている。
まるで、進化と退化そのものであるかのように。

特定の生物は系統派生の過程において、必要無くなった器官や組織、細胞、機能などを単純化…もしくは省略化させることがある。
それこそが退化であり、進化の一側面だ。

きっと私の身におこる様々な身体的弱体化もその証なのだろう。
今はまだこうして昼の空の下を自由に歩けているが、この先数年後もそうしてられるかは分からない。
だが、それにより得られる他の力は確かに重要な事柄であり、いずれかの未来で役立つのだろう。
そう思うと、一先ず受け入れる気にはなる。

だが、私はそれで良くても周りがそうとは限らない。
日々虚弱になっていく私を、時雨さんは何度も医者に診せてくれた。熱が出た日は早めに仕事を切り上げてくれるし、身体に良さそうな物を買ってきてくれる。
恵くんも一週間に一度は私の様子を確認してくれるし、高専の職員さん達も無理はしなくて良いと言ってくれている。

ただ…あの人だけは……甚爾さんだけは、そうじゃないみたいで。
理由は分からないが、とにかく弱った私を見たくないらしい。だから、私が倒れた日は我が家に近寄らなかった。私はそれが寂しくて、少しだけ心が痛かった。本当に少しだけだが。


隣に座る恵くんの顔を盗み見る。
ジュースを飲んでワッフルを一口食べるその顔付きは、幼いながら甚爾さんの面影があった。

「…とうじさん、はやくかえってくるといいねぇ」
「いや、俺は別に…」
「ド、ドライだ……」

恵くんは本当にそう思っているらしく、甚爾さんが来ないのを全く気にせずワッフルをもふもふと頬張っていた。
今度こそ私は苦笑いを浮かべ、同じようにワッフルを口にする。


生クリーム、おも……。




___





「オロロロロロロッ………」
「慣れねぇもん外で食うなっつっわれてたよなあ?」
「ズ、ズビバゼン……」

私の背中を擦り続ける甚爾さんは、洗面所で胃の中の物をぶちまけグッタリしたを横抱きにしながら渋い顔をした。

生クリームの挟まったフワフワのワッフルをお腹いっぱい食べたのがアウトだったらしく、盛大に吐き戻すハメになった。
恵くんに半分…いや、三分の一個分けて貰うなどすれば良かったのかもしれない。

そう思うものの時既に遅し。
保健室へとドナドナされた私は、ベッドに寝かされ暫く休むようにと言い渡された。
あからさまに機嫌…というか、気分が微妙になっているらしい甚爾さんにもう一度「ごめんね…」と力無く言えば、「体力使うから喋るな」と言われてしまう。

「………………」
「ご、ごめんて…」
「真知、お前暫く何もすんな」
「いや、でも……」

だって、でも、やっぱり……。
私はモダモダウダウダと言葉を濁しながら甚爾さんの意見に反対しようとした。だが、彼は一度浅く溜息を溢して「我儘娘が」と言って保健室を後にしてしまう。
思わず追い掛けようと身体を起こすも、思うように身体に力が入らず私はベッドにボスッと逆戻りしてしまった。

伸ばした手は空を切り、枕の上に髪が散らばる。
見上げた天井は何故か霞んで見えて、頬を温い液体が伝っていったのが分かった。

私、なんで泣いてるんだろ。

胸の上で両手を握り、奥歯を強く噛んで込み上げてくる得体の知れない感情を無理矢理飲み込んだ。


今になって強い孤独感を感じてしまうのはどうしてだろう。
ずっと一人でも大丈夫だったのに。

私、身体だけじゃなくて心も弱くなったのかな。

mae ato
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