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 黒板にデカデカと書かれた“自習”の二文字。

 課題にと出されたプリントも、三十分もすれば終わりに近付く。四十分も経つころには、グループで集まって雑談が始まる時間だ。

 他にも、携帯をいじったり、音楽を聞いたり、寝たり、早弁をしたり。とにかく、各自が好きなことをしている。

 それは、窓際に座る男女も例外ではない。

 机に頬杖をつきながら窓の外を眺めている少年と、椅子に横向きに腰掛けながら携帯をいじる少女。

 一つの机を共に囲んでいるのに、向かい合って何かするわけでもない。

 だが、会話がないわけでもなかった。

「すき焼き食べたい!」

「いや、意味わからへん。なんなん急に」

 携帯を閉じたかと思うと急に大声をだした少女に、少年は目を丸くした。それに構わず、少女は己の主張を続ける。

「肉が食べたいねん。ガッツリ、しっかり。あと、白滝と豆腐」

「ふーん。俺はさっぱりしてるほうがえぇわ。冷やし中華とかどうや?」

 少女の熱いパトスがほとばしる主張に対し、少年は自分の意見を述べた。

 窓の外は日差しが眩しく、うだるような暑さが伝わってくる。そんな日には、冷たい食べ物が一番だ。

 そう考えたが少女は違うらしい。再び携帯を開きながら口を開いた。

「やー、麺なら焼きそばやわ。ソースたっぷりでー、かつお節と紅ショウガのせてー」

「えぇー、俺紅ショウガ嫌いやし」

 その瞬間、少女の手から携帯が滑り落ちた。

 床に落ち、固い音がする。傷がついたかもしれないのに、少女はそれには目もくれない。

 ただ、ありえないものを見るような目で少年を見つめた。

「信じられへん! なんでや?」

「や、だって見た目が……。何でピンクやねん、紅ちゃうんかいって感じ?」

「じゃあ、桃ショウガならえぇんか?」

 噛みつかんばかりの勢いで言い返された代替案。少年の脳内で、めくるめく想像が繰り広げられる。

 数秒後、勢いよく口に手を当てた。

「か、かなりフルーティーな味がしそうな名前やな。想像しただけでキモい」

 こみ上げてくる何かを耐える少年。それに対し、少女は携帯を拾い上げ、顎に手を当てて何かを思案している。

 そして、おもむろに一言。

「いや、案外いけるかもしれへんで、ピーチ」

「ちょっ、タンマ。その話題やめい。マジで吐く。口から出てきたらアカンモンが出てくるー!」

「うわー、キモ」

 本格的に口を押さえ出した少年から、少女は体を反らすことで離れた。そんなあからさまな態度に、少年は微妙に傷付く。



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