刺のように痛みのある言葉が少女から飛んでくる。
男は言葉の通り魂がない。
何故なら、魂は愛した女性に捧げたから。
男は不死身であるが故に、永遠を持てあましていた。何に関心を持ってもいずれは廃れてしまう。それがたまらなく嫌いだった。だから、時代は廃れるけれど、減ることのない人間に興味を持った。
愚直で脆弱な人間、それでも有限の時間を必死に生きようとしている姿が、美しかった。
有限だからこそ、その時間を精一杯に生き、誰もが一人を強く愛し続けた。
それがとても、人間らしいと。自分にはない感情に強く惹かれた。
そういった中で、男は一人の女性に出会う。
男はきっとこの女性を永遠に愛し続けるだろうと思った。
けれど女性は人間で、永遠を生きる男にとっては少しの時間しか連れ添えなかった。愛せる時間も男にとっては一瞬だった。
だから魂を渡したのだ。
魂だけは変わることのないもの、世界を循環してまた別のものに産まれ変わるもの。それは永遠に等しい。男の魂を女性に渡し、姿かたちは違うけれども一緒にいようと。
──想いは、永遠だと。
「お前は賢い」
「どれだけ一緒にいると思っているの。分からないほうが馬鹿だわ」
「言ったら、お前が悲しむと思った」
「貴方は馬鹿よ……」
銀色の瞳から大粒の涙が溢れる。白磁器の肌を伝い、血がついた口周りへと。赤色の滴が男の手へと零れ落ちて、男は涙を拭ってやる。
「ごめんな。俺はお前に感情を抱けない。魂はあいつだけのものだ。だから、魂は食べさせてやれない」
その言葉に少女は何も返さなかった。
銀色の瞳は鈍く光り、男を見つめている。少女は男の首筋に牙をたてる。
肌が裂かれ血が溢れる。それでも男は苦痛に顔をゆがめないし、声もあげない。
死にもしない。
「貴方が、死ねばいいのに」
「……ごめんな」
永遠に、この男を想い続け、永遠に、男の想いは手に入らない。
この苦しさも、永遠だと、男の脈打つ首筋にまた牙をたてて、思うのだった。