Chapter 25 : 激突


「ウワァァァアアアアアアアアアアアア!」

「ギャァァァァアアアアアアアアアアア!」


目の前で微笑むライオンの船首は、勢い任せに
ジャックに突っ込んだ。




「と・・・止まった・・・。」
「何か、柔らかいのにぶつかったみたい・・・あっ!」

突如止まった船体から身を乗り出したナミは、大きなたんこぶを
作って水面に浮かぶ海王類に目を留めた。

「わあああ、おっきなラッコ・・・。」
「あいつにぶつかったのか・・・悪いことしたなあ。」

ウソップは自分らの乗る船の半分もの大きさの海王類に向かって
そう嘆く。


「あんだよ・・・船が止まっちまったじゃねえか・・・。これから寝ようか
って時に。」
「おいゾロ!あんな大渦の中でどうして寝れんだよおまえは!」
「うるーせなっ・・・って・・・。」

船首にたかるナミたちの視線の先に見える毛並みに、ゾロは言葉を失った。

「・・・ジャック!?」

「ジャック?」

寝言の様な聞き覚えのない名前を発するゾロに
なかまたちは首を傾げ、その行動を好奇の眼差しで見守った。

ゾロは船から飛び降りるとジャックに飛び乗り、その生き物の
頭と思しき場所まで毛をかき分けた。

「おいジャック!どうした!?誰にやられたんだ!!」

「あー・・・サニー号がぶつかったんだ・・・って!
なんだよ!その海王類知ってんのか!?」

ウソップは海王類に語りかけるゾロの不可解な行動に
大声を上げた。

「ちっ・・・わりーことした。・・・アンジーは・・・アンジーはどこだ?」

ゾロはジャックの頬を叩きながら何度も耳元で問いかけるが
、ジャックは意識を取り戻さない。

ジャックの頭から飛び降り、とうきび畑をかき分けるようにジャックの手元に移動した
ゾロは直感が働いてか、意識がなくとも強く握られたその手を押し上げた。


ジャックの手の中には、青ざめて呼吸もしていない
アンジェリカの姿が見えた。

「アンジー!おい!しっかりしろ!」

「ゾロ!なんだそりゃ!人間!?」
「クソっ、息をしていない。誰か!手を貸してくれ!」

ゾロの焦りの混じった言葉にルフィとサンジは素早く反応し、
ジャックに向かって飛んだ。

「ルフィ、ジャックをあの岩場に
運んでくれ。」

「なあ、こいつ誰なんだ?」

「おれの・・・ともだちだ。」

「そっか、よし。」


ゾロはアンジェリカを抱え、船に飛び移った。
まるで反応もしないアンジェリカに違和感を覚え、
その顔をじっと見つめ、共に過ごしたあの日をふと思い出した。

「ゾロ、手当するからそこに寝かせてくれ。」

チョッパーはしゃがみこむと、アンジェリカの胸に耳をあて
呼吸と脈を確認した。


「・・・心音が・・・。とにかく、服を脱がせて!
人口呼吸するから、だれか心臓マッサージを!」

「チョッパー・・・すまねえ、そいつのことは、おれにまかしてくれねえか?」

「ゾロ!?」

「おまえは、ジャックの方を見てくれ。
おいナミ、部屋貸してくれ!それとフランキー、水の樽を運べ。」

「おいゾロ!そいつに何をするつもりだ!」

「早くしろ!」

いつになく真剣なゾロの表情に、フランキーもたじろぎ、キッチンへと走った。

「どうしたんだろうな?ゾロ・・・。」
「まかせろって・・・あの子、心臓が・・・。」

フランキーが水を船室に運ぶと、ゾロはドアから顔だけ出し
向けられた視線に答える様に、口を開いた。

「おれがいいと言うまで、ここは立ち入り禁止だ、いいな。」

そう言うとバタンと扉を閉めた。

「ギィっ!なんなんだあのクソマリモ!女の子と二人で部屋に入って
立ち入り禁止だと!?」

船に戻ったサンジは鼻息を荒げて憤慨する。
冷静かつ興味津々と言った表情で、ロビンも閉ざされた船室のドアを見つめた。

「確かにヘンね・・・何してるのかしら?」

「パンツ・・・見せてもらってるのでは?」

「進んで人助けか・・・確かに様子がヘンだぜ。」

互いに何の予想もできないゾロの行動に、そのドアが開かれる
のを待つ他なかった。
部屋から聞こえる音も僅かで、誰もが腕を組み首を傾げて
その時を待った。


「ゾロ・・・あの子の服を・・・脱がせてるみたい。」

そっと目を閉じたロビンが、花の様に眼を室内に咲かせ、
中の様子を覗いていた。

「あんのおお、クソマリモぉおおおお!美少女部屋につれこんで、こんな事態に
なにをぉぉぉぉおおおおお!」

サンジはロビンの言葉に拳を震わせ、思わずタバコを噛み切り
勇ましく、鼻息荒くドアに手をかけた。

「待って!・・・入ってはだめよ。」

「えっ?」

ロビンは突然に目を開けると、腕を降ろし
サンジの早まった行動を制止した。

「入っちゃダメって・・・やっぱり・・・えーーーーーー!!!!」

「やっぱり、パンツを・・・ヨホホホ!!!!」

「入らない方がいいわ、ゾロに任せましょう。」

そう言ったロビンの微笑みに、深い意味を察知した
サンジだけが地団駄を踏み悶え回る。

ロビンは船室に背を向け、改めて置かれた状況に
眼を向ける様に、あたりの様子を見回した。

「海底でもなく・・・島でもないみたい・・・不思議ね。
 この世にこんな場所があるなんて・・・。」


海水の流れ込んでくる音が遠くに聞こえる以外に何も聞こえない。
なんとも不気味な場所にロビンは目を凝らして見入った。

「おい、ナミ!あの〜風の出るヤツあるだろ。何か乾かしたりするやつ、アレ貸せ。」

突然ドアから顔だけ出したゾロは、言い終わるが先かと
またドアをバタンと閉めた。

「風って・・・、ドライヤーでいいのかしら。」

「パンツ乾かすんでしょうかね!ヨホホホ。」

飽き足りずに放たれるブルックのジョークを聞かされながら
1時間程が経過したところで、眉間に皺をうんと寄せたゾロが部屋から出てきた。
そして、無言でナミたちの間を通り、岩場に横たわるジャックを見つめた。

「チョッパー!そっちはどうだ?」
「船にぶつかってケガはしてるけど、大丈夫だ!だいぶ泳いだみたいで
疲れてるだけだ!」

自分の背丈に比べ、何十倍もある巨体の診察を終えたチョッパーは
船に乗り込むと、ゾロに詰め寄り問いただした。

「ゾロ・・・あの子、心臓が止まりかけてたんだぞ!・・・何したんだ?」

「あいつももう大丈夫だ、もうじき目を覚ますだろう。」

「おまえ、医術なんて知らないと思ってたぞ!いっ、意外と頭いいんだな!おまえ」

「知らね、それに意外は余計だ。」

ゾロに浴びせられるであろうものはそれだけでは済まず、控えてましたとばかりに
サンジは鼻息を荒げながら涙を振り乱しにゾロに詰め寄る。

「でぇ・・・・あんた!あの子のなんなのさぁ!!!!」

「だから・・・ともだち。」

「おまえっ!ふくっ・・・服・・・!」

「あん?いいかげん、その汚い顔をどけろクソコックが。」

「やんのかコラァ、おろすぞ!」

「何を怒ってんだ、いいかげんに・・・!」

「いい加減にしなさい!」

ナミの鉄拳がいち早く二人を黙らせた。

「まったく、まず!ここがどこなのか!それにあの海王類とあの子は誰なのか!
私たちはさっさと新世界に上がりたいのに、こんなとこで騒いでんじゃないわよ!」

「腹減ったぁ・・・。」

呟いたルフィに白目を剥いたナミは、静かに開いた扉に気がつき
凝視した。

「おう、気がついたか。」

「ロロロアか・・・、はぁ。」

部屋から出てきたアンジェリカは、帽子を深く被り直すと
見慣れない人の群れに眼を向けつつ、ゾロの方へ真っすぐに歩いた。

「おまえ、何やってんだこんなとこで。」

「それはこっちのセリフだ、ここはどこだ?」

「さあな、深海...1000メートルくらいかな、わたしも途中からは
覚えてない。・・・これは、おまえのなかま?」

「ああ、そうだ。」


「くふぅうううう、声も可愛らしいーーーー!大丈夫かいお嬢さん!
僕が君をこの変態から助けたナイトだよーーー!あ、僕・・・」

「騒々しい・・・あとからゆっくり聞くとしよう。」

クルクルと舞踊るサンジを睨みつけ、アンジェリカは船首へとゆっくり歩き出した。


「ジャックはどこだ・・・また飯か・・・。」
「いや、ジャックならあそこでのびてる。」
「!!」

ゾロの指差す先にいるジャックを見つけ、アンジェリカは息をのんだ。

「・・・どうして。」

「あの、流れの速い渦に入っちゃって、船がこの洞窟に持ってこられちゃったのよ。
そのときに、ぶつかっちゃったみたい!ハハははは・・・はは・・・。」

ナミはアンジェリカの視界を塞ぐように、愛想笑いで説明をするが
アンジェリカの戦慄の眼差しに少しよろめいた。

「大丈夫だ!そのラッコは気絶してるだけだ!おれは船医のトニー・・・」

「騒がしい・・・。」

アンジェリカは一言でチョッパーの言葉を遮り、船から飛び降りた。
ジャックの顔を撫で、今までに見たことが無い程に傷ついた
相棒を見つめ、悲しげな表情を浮かべた。

「なぁ、ゾロ・・・。あいつおまえのともだちなんだろ?何か暗いな。」

「しかたねえさ、暗いとこで育ったんだ。」

「暗いとこ?」

「ああ、なんでもねえ。」

珍しく、そこまでは騒ぐことのなかったルフィは立ち上がると、
アンジェリカに向かって大声を上げた。

「おーい!一緒にメシにしようぜ!」

アンジェリカは振り返り、ルフィを睨みつけた。
睨みつけただけでは無かった、その身体からにじみ出るような覇気が
洞窟を揺らす程・・・アンジェリカはルフィを睨みつけていた。

その眼にルフィも少し微笑み、視線にぐっと力を入れた。


目には見えずとも、はっきりと、色の違う
空気、そのものがぶつかり合っているように
その感覚を誰もが肌で感じていた。



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