Act1-14


五条と私による食堂破壊事件のあと、発熱で2日ほど寝込んだ私はすっかり元気になって任務にも座学にも体術にもしっかり取り組んでいる。夜蛾先生にはまじでバチギレられたけどもう校舎は壊しませんと誓約して許してもらった。あれから発熱も暴走もしてないし、元気ばっちりオールオッケーだ。
あれから何度かの任務で、行くとこ行くとこ謎に報告されてたヤツより強い呪霊が湧いてて、呪術師ってほんと大変なんだな〜〜、こんなん弱けりゃすぐ死ぬじゃんって思いながら呪霊ぶっ殺してたら知らない間に準一級まで昇級した。
冬に入ってからというもの、呪霊の活動も減る傾向にあるのか私はもちろんのこと、同期たちの任務の量も今は落ち着いている。要するに、時間に余裕がある。以前より同期たちとの交流の時間が増えた。



「五条、なにしてんの?」
「んー、反転術式の練習」
「ああ、最近ずっとやってるね」
「もーちょっとでコツ掴めそうなんだけどなー」


少し前までは硝子にアドバイスを求めてたけど、最近は諦めたみたいで自力で修練しているところをよく見かける。
俺って何でもできちゃうからとよく言ってる通り、たぶん五条はこの呪術が蔓延る世界でとても重要な人間で、とても強い。でもそれに驕らずひたすら努力し続けてる人だ。なんでこう強さを求めてる人ってみんな直向きなのかな?夏油もそうだし。すごいよね。


「なまえちゃんからアドバイスひとつ」
「はー術式ないオマエからもらうアドバイスなんてねえわ」
「たぶんね、五条本気になったことないんじゃない?」
「ーーーハ?」
「死ぬかもって思ったこと、ある?」


真っ黒のサングラスの向こうのビー玉見たいな瞳がゆらゆら揺れてる。


「死線をくぐるときにしか見えないものもあるよ。ほら、全部がゆっくりに見えたりいままでにないほど早く動けたり、今までにない活路が見出されるっていうの?まあ、五条を殺せる相手なんてなかなかいないだろうけどさ」
「……お前はさ」
「うん?」
「俺を殺せると思う?」


ゆらゆら揺れてたビー玉はじぃと私を見つめていた。


「殺してみたいけど、殺したくないよ」
「なんだよそれ」
「だって五条がいなくなったら寂しいよ。そんなこと考えちゃってる時点で本気でやれない。じゃれあいはできるけど」
「口説かれてる?俺」


アハハと笑えば不満そうに口をとんがらせる五条がなんだか可愛く見えて可笑しかった。






____




「なまえさー」
「ん?なに硝子」
「五条と付き合ってんの?」
「つきあう????」
「恋人なのかってこと」


談話室でお菓子を食べながらあれこれ硝子と話していれば急にぶっ込まれた話題。
は?????コイビトって、恋人?今宵涙こらえて愛を奏でる白い恋人達???だれが????


「なまえも随分こっちに馴染んできたね」
「うん?年末の歌番組でよく流れてたよ。みんな帰省してたしすることなかったから一人で稽古するかテレビ見るかしかなくて結構見てたけどテレビって面白いね」
「うん、今テレビはどうでもいい」
「恋人って私と五条が?」
「うん」
「なんで????????」
「いや、最近距離おかしいでしょ」


ポッキーの袋を開けながらこてん、と首を傾げる硝子に、うーんと首を捻る。確かにこの前話してから「ギリギリまで俺を追い込んでくれ」なんてドMが言い出しそうなこと言われたりだとか夜呼び出されて一緒にゲームさせられたりだとかはあるけど大抵夏油も一緒にいるしなあ。甘い雰囲気になったことなんて一度もない。


「恋人、とは?」
「お互いに恋愛感情を抱き相思相愛関係にある存在」
「はあ、ソウシソウアイ…」
「なんだ、違うの」
「愛を確かめ合った記憶はない」
「愛を確かめ合う?」
「セックスでしょ?」
「あ、そっちが先なの?」
「え?ちがうの?」
「違うんじゃない?」


違うんだ……自慢じゃないが恋人なんていたこともなけりゃ別に欲しいと思ったこともない。


「なまえは五条のことどう思ってんの」
「え?そりゃ好きだよ」
「え?そうなの?」
「うん?硝子も好きだし、夏油も好きだよ」
「あーなるほど」
「距離おかしいかなあ?べつに今まで通り鍛錬してるだけだし、普通じゃない?」


まあ、あのクズは彼氏向きじゃないなと硝子はポッキーを煙草のように咥えながら笑っていた。硝子からしたら、私と五条の今の距離感は恋人同士に見えなくもないということなんだろうか。知らんけど。



「あ、なまえいた。」


ひょこ、と現れた歌姫先輩に会話は自然と中断された。先輩はもうすぐ5年生になるから授業も特にない自由な期間に入るらしい。
非力でよわっちい先輩だけど、初任務の後、常識のない私を心配して上層部のこと教えてくれたり面倒見てくれた優しい先輩だから学校内でなかなか会う機会がなくなるのは少し寂しい。




「うん?歌姫先輩どうしたの」
「あんた今失礼なこと考えてなかった?」
「うん???先輩大好きーって思ってたよ」
「ハァ、まあいいわ。ねえ、組手付き合ってくれない?」
「んぇ?!どうしたの先輩」
「もうちょっと力つけたくて…」
「いやいやいや、まって?先輩殺しちゃうよマジで瞬殺だよ?!組手になんかならないよ!もう鏖殺待ったなしだよ?!」
「お前は本当に失礼なヤツだな!!!!!」
「でも先輩ー、ほんとにやばいですよ?なまえは。素手で校舎もグラウンドも破壊するんですからね?」
「ぐぅ…だって…」
「「だって?」」
「卒業前に五条と夏油に一泡吹かせてやりたいッ!」
「…先輩、無理だからやめときな?命の方が大事だよ」
「さすがの私もそう思います」
「本当に今年の一年は!!!」


アハハ、まあそんなに怒んないで、と涙目の歌姫先輩にチョコレートを差し出す。
私との稽古は諦めたのかぶつぶつ言いながら差し出されたチョコレートを食べ始める先輩は小動物みたいで可愛い。


「硝子もなまえももうすぐ先輩ね」
「ん?」
「後輩だよ、今年の入学生は二人だって聞いたよ」
「へー!強いといいなあ」
「でたよ脳筋」
「勢い余って怪我させないように気をつけなさいよ」


はいはーい、と返事をして窓の方を見れば、近くにあった立派な木の蕾が少し膨らみ始めているのが視界に入った。どんな花が咲くのかなあなんて少し楽しみにしている自分がいて、ほんとにずいぶんこっちに馴染んじゃったなあと実感した。



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