お子ちゃま論争

「ーでね?七海めっちゃ最近強くなってきてると思うんだよね。鍛えがいがあるっていうか。タッパもあるし近接タイプだし育てがいがあるの」
「なまえ育成ゲー好きだもんな」
「うん、硝子もやってみなよおもしろいよ?」
「いつもいうけどそれまじでクソゲー。時間の無駄だから」
「酷すぎる」


イライラする。何に?もちろんポータブルゲームを操作しながら後輩を褒めちぎりヘラヘラ笑ってる目の前の女に。イライラしすぎて貧乏ゆすりが止まらない。もはや座っている質の悪い硬い高専備え付けのソファが一緒に座ってる傑ごと揺れている。「悟、やめろ」と言ってくる傑を無視してなまえを睨みつけるも一向にこちらの視線に気づかない。気づけよ。俺イラついてんの。そんな能天気な顔して笑ってっけど俺マジでイラついてんの。


「まあ、高専内で彼氏にするなら圧倒的に七海だな。呪術師にしてはマシだ。」


ニヤニヤとこちらを嗤いながらなまえに話しかけた硝子の一言に貧乏ゆすりがピタと止まった。何だって?彼氏にするなら俺一択だろ。こんなにイケメンで、強くて、金あって家柄も良くて。何が不満なわけ?七海の一億倍はいい男だわ。なまえは強い男が好きだ。本人から聞いたことだってある。七海より俺の方が明らかに強いし、正直傑ならともかく七海なんて負ける気がしない。尚もニヤニヤしている硝子は俺を煽ってるつもりかもしれないが、なまえの答えなんて決まってる。『七海は私より弱いからナシ』だろ?そうだろ?


「う〜ん、今はまだタイプじゃないけど将来性見越すと大いにアリだね」


ハ?????あり?蟻?


「しかもクォーターだしなかなかのイケメン」
「クォーター?」
「デンマークの血が入ってるらしいぞ」
「???よくわかんないけどまあ顔はイケメンだよね声もなんかエロいし」
「ウケる。たしかに低くて掠れててエロいな」
「ヤバい声帯してるよね」



ハ??????なまえって声フェチなの????


「常識あるし」
「というか私いっつも怒られてるわ。後輩に怒られるって笑えるよね〜しっかりしてるよホント」
「あ、噂をすれば七海だ」
「え?あ、ほんとだ」


硝子となまえの声に反応し、なまえが七海〜とぶんぶんと手を大きく振る方にギギギと壊れたブリキのオモチャのように五条が視線を送る。談話室の入口でなまえの呼びかけに気づいて一瞬足を止めて俯いたのち、なまえや硝子の座っているテーブルに近づく七海。


「なまえさん、こんなところにいたんですか」
「へ?」
「今日は灰原と近接特訓をすると我々は貴女から二日前に聞かされましたが」
「うっわ!そうだった忘れてた!ごめん!すぐいく!」
「…いえ、ゆっくりでいいですよ落ち着いてください」
「はあ、七海は相変わらず優しいねえ、約束忘れるダメな先輩でごめんねえ。」


およよ、と泣き真似をするなまえに呆れた表情を浮かべる七海。お前ら、そんな仲良かった…???じゃあ行こっか、と七海の背を押しながら談話室を出て行こうとする二人に五条はソファの前のローテーブルに思い切り拳を打ちつけて待ったをかける。



「な、な、み、くぅ〜ん」
「………なんですか五条さん」
「今日は俺と組手しようか!」
「はあ?!なんで!」


七海の背中を押していたなまえの手を取って七海から距離を取らせる五条に、声をかけられた七海ではなくなまえが噛み付いた。


「今日は私が七海と約束してたんだけど!」
「お前今まで忘れてたくせに何言ってんの」
「五条より私の方が組手は強いんだから邪魔しないでもらえる?私が今七海と灰原を手塩にかけて育ててる最中なの!術式のアドバイスならともかく体術他のやつから仕込まれるなんて最悪!」
「はあ〜〜〜〜??俺最強だよ??お前の方が強いなんて冗談だろ」
「……七海だって私と特訓する方がいいよね?!」
「……五条さんと近接したことがないのでわかりません」
「ほらーーー!!私の方がいいって!はァー七海最高!!!」


するりと五条に掴まれていた腕を振り解いて七海の腕に自分の腕を絡めながらピッタリ寄り添えば七海は嫌そうな顔で振り解こうとするが馬鹿力に抑え込まれて動けない。大人しくなった七海に満足げに笑ったなまえは背伸びしてサラサラの髪の毛をよしよしと撫で付けた。七海はといえば明後日の方向を見つめて虚無顔。要するに諦めた。
五条はそんな仲の良さそうなやりとりをする二人をまざまざと見せつけられ、なまえの形の良い胸が七海の腕に押しつけられているのを目敏く見つけ、これでもかと目を見開いてその光景を見つめている。六眼が赤く染まるのでは、というほど目は血走っている。



「おいクソビッチ、今すぐその手ェ離せ」
「は、はあ〜〜?!?!クソビッチ?!」
「聞こえねえの?」
「最低なこと言うクズの五条は置いていこうね、七海」
「ちょ、待てよ!!」
「「ブッフゥ…!」」


談話室から七海と連れ添って出て行こうとするなまえを慌てて引き止めようとした五条の背後で大きく吹き出す声が聞こえて五条が振り返れば、もう耐えられないとばかりに腹を抱えて笑い出す家入と夏油の姿がそこにあった。


「ヒーヒー…いまの、聞いた?夏油」
「フフ、そんなに笑ったら、悟がかわいそ…ぶふっ」
「ちょ、待てよ!だってーーーー!!!ヒーーーッお前はキ○タクかよ!!あーーーもう無理ッ笑い死ぬ〜〜!!!!」
「ハァ、ダメだよ硝子。悟は、今小学生から大人になってる最中なんだ、からかっては、いけないよ、フッ、キム○ク……」
「……ハー笑った笑った。今年イチ笑ったわ」
「なまえ、お子ちゃま悟くんはね?七海と仲良しこよしななまえに嫉妬したんだよ。その辺で勘弁したげな。フフッ」
「………殺す」


顔中に青筋が浮かんだ五条が夏油に飛び付きヘッドロックをかけるが夏油は余裕そうに笑っている。


「好きな子にクソビッチなんて言う奴が悪いんだろ」
「は、ハァ〜〜〜〜?!?!」


近づいた五条の耳元で小さい声で囁いてやれば動揺したのか瞬間、力が緩んだ隙をついて夏油は五条の腕から抜け出した。



「五条」



ニヤニヤ、と笑いながら未だに七海と腕を絡めているなまえは五条の名前をからかいまじりの声で呼びつける。ジト目でそれを見やった五条はなんだよ、と不機嫌そうになまえと七海を交互に見て小さく舌打ちをした。


「今のところ私の好きなタイプは五条だよ」
「ーハ」



じゃあね〜と言いながら今度こそなまえは手を振って七海を連れて談話室をでていく。
顔を赤く染めて固まった五条、「よかったね、悟」「は、あいつまじ趣味悪ぃ〜〜」となまえの発言に談話室に取り残された者たちは三者三様の反応を示していた。






めめ様、企画へのご参加ありがとうございました!
せっかくご参加いただいたのに、前サイトがサーバーダウンする等のトラブルに見舞われ、移転することとなってしまい、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。無事こちらにたどり着いてくださっているのを祈るばかりです。
七海と仲良くする夜兎主をずっと書きたかったのでとても楽しく書かせて頂きました!嫉妬する五条、上手く表現できていればいいのですが…!今回は素敵なリクエストをくださりありがとうございました。今後ともどうぞ驟雨をよろしくお願いいたします。


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