鏡の見せる一夜の夢

※夏油not離反if しれっと全員生存してるifです




「呪具庫の整理?」

繁忙期も落ち着いてじっとりした暑さも和らぎ、さわやかな風が吹き始めた頃、穏やかな日常がやってきたある昼下がり、担任の夜蛾に言われ高専の呪具庫前に集められた一同はゲェと顔を顰めて夜蛾を見やった。なまえはきょとんとした様子で口を開く。

「何するの?」
「等級ごとに戻されているかの確認と修理の必要があるものは持ち出すんだよ」
「なんでそんな面倒なことやんなきゃなんねーの」
「…お前らが先日壊した校舎と土地がどれだけあると思っている」
「……あーね」

ペナルティの一環か、と思い当たる節のある五条と夏油となまえは顔を見合わせて仕方ないと呪具庫に視線を移した。
「完全に私とばっちりじゃん」という家入に渋い顔をした夜蛾は「連帯責任だ」と漏らして家入は大きなため息をつく。

「貴重な呪具もあるからなまえは気をつけろ」


はーい、と元気よく返事したなまえが呪具庫に入っていくのに続き五条、家入、夏油もぞろぞろと室内に入っていく。


暗く埃っぽい呪具庫の拙い灯りを頼りに手渡された資料を見ながら各個呪具の確認を行なっていく。
なまえは傷んだ呪具をよけながら整理整頓を進めていれば、乱雑に組み置かれた呪具の中からキラリと反射するものを視界に入れ、それを手に取る。細かい彫刻の入った年季の入った手鏡であった。手鏡の割にはずっしりとした重みがあり、背面には美しい扇の彫刻が施されている。作業を止めてくるくると前面と背面を返しながら鏡面をじぃ、と見つめていたなまえを目に留めた五条がギョッとする。


「なんでそんなもんがここにあるんだ!おまっ、それ離せ!」
「へ?何?」


五条が手を伸ばす手鏡にきらり、鏡面に映ったなまえは姿を変え、少し過去の、というか春雨の制服を着て地球のご飯を堪能しているものに変化する。任務中の様子やなまえが神威、阿伏兎、云業とじゃれているものにどんどん切り替わっていく。そのあまりの懐かしさになまえは瞠目し鏡に吸い込まれるように顔を近づけた。

「!なまえ!」

五条が必死に腕を伸ばし、鏡面に触れた瞬間バチンと電気が走ったかのような衝撃と、眩い閃光に呪具庫は包まれ、全員が作業する手を止める。
目前で閃光を浴びたなまえと五条は思わず瞼を閉じる。刹那洗濯機にでも放り込まれたかのような脳を揺さぶる目の回る感覚に耐えながら光が落ち着くのを待った。

「ぅぇっ…きもちわるい…」

やっと回転が終わったと目を開けようとすれば、土の匂いが感じられて思わず顔を顰める。なんで呪具庫で土の匂い?白んだ視界が落ち着き、なまえの目の前には五条の制服の胸元のボタン。五条を見上げればまだ頭が揺れているのか眉間に皺が寄って苦しそうだ。状況を把握するため五条の肩の向こうを見ようと肩をぐい、と押しのけて目に飛び込んできた情景になまえは理解が追いつかなかった。瓦屋根の建物に東京ではほとんど見られない着物を着た人間たちがちらちらとこちらに視線をよこしながら遠巻きに通り過ぎていく。繁華街なのか人の往来は多く、がやがやと賑わっている。なまえは、はたと先ほどの鏡面に映った自分を思い出してひやりと冷や汗が頬を伝う。まさか、元の世界の地球に戻ってきた?そんな考えが過ぎってしまっては、周囲の風景が全て『江戸』の風景に思えてしまう。間も無く日も暮れそうな曇り空の下、遠くに聳え立つ見覚えのあるターミナルを視界に入れては、もうここがどこだかなまえにはわかってしまってカタカタと指先が震えた。すぐ近くには先ほどまで呪具庫の整理を行っていた同級生が倒れていてさらに青ざめる。


「うーえ、きもちわるっ、なまえ、無事、か…?!」


肩を押された衝撃のせいか意識を取り戻した五条。なまえと目が合い一瞬安心したような表情を浮かべるもすぐに驚愕に目が見開かれた。


「……どこだよ、ここ。っていうか呪力練れねェ」
「え?!」
「くっそ、どこに飛ばされたんだ…映画村かなんかか…?」
「飛ばされた…?」
「お前が持ってた手鏡、持ち主の記憶にある任意の場所に飛ばすって呪具だからお前の知ってる場所のはずだけど?回避用に使われてた呪具だったはずだけど抜き身であんなとこ置いとくなよクソ…っ、」

ぶつぶつ言いながら文句を垂れている五条は、地面に転がった手鏡を拾い上げて顔を顰めた。何も映さないそれにため息をこぼす。なまえの呪具のホルダーに手鏡を忍ばせ、隣で珍しく顔を青ざめさせながらカタカタと震えているなまえを怪訝に思い声をかけるとぐらぐらと揺れた瞳と目がかち合った。

「五条、やばい…ここ江戸だ…」
「はぁ?江戸って…」

五条は何を言ってるんだと言いたげな表情を浮かべるも、発展と未発展を混ぜ合わせた街並みと己の呪力が全く練れないことになまえの言ってることも間違ってはいないかもしれないと思わず舌打ちを漏らした。
 

「…っ、なまえ…?」
「夏油!大丈夫?!硝子、起きれる?!」
「ああ…、なまえこそ無事かい…?」
「あー吐きそ……」
「二人ともよかった…!」


家入と夏油が目を覚まし、五条と同様に周囲の様子に呆然としているが無理もない。家入に関しては顔色が頗る悪い。二人とも混乱しているようで呪力が練れないことに顔を顰めていた。


「さっきなまえが持ってた手鏡の術式かい?」
「そうみたい…私の記憶のある場所に飛ぶって言ってたけど、地球なんてそんなに回数きてないんだけどなあ…」
「宇宙に飛ばすのはさすがに無理だったんじゃね」
「しかも真っ黒になって何も見えなくなっちゃった」
「じゃあ戻れる手段ないってこと?」

家入がぽつりとこぼした一言に五条は「そういうこった」とあっけらかんと答える。

「ま、いーんじゃねたまには旅行的な」
「旅行にしてはぶっ飛びすぎてるね」
「まあずっと繁忙期で忙しかったしねなまえ案内してよ」
「とりあえず泊まるとこ探さなきゃな」
「というか私たちの持ってる現金こっちで通用するのかい?」
「普通に考えて無理じゃない?江戸なんでしょ?」

さも自然に現状を受け入れ始めた五条家入夏油の様子になまえはついに雄叫びをあげる。

「三人とも楽天的すぎるよ!帰れなかったらどうするの?!」
「お前が一人でこっち戻ったよりマシ。」

大きな手がなまえの頭にぽん、と乗せられたと思えばわしゃわしゃと犬のように掻き撫でられてなまえは少し照れながらも口を尖らせる。


「五条、やめーっ」
「オイオイなんでェ怪しい奴らがいるつーから来てみりゃここはコスプレ会場か何かですかィ?」


突如かけられた第三者の声に一同が振り返れば、栗色の髪の毛に赤い瞳を携えた一見優男風に見える男が気怠げにこちらに向かって歩いてきていた。男が下げる日本刀に、なまえと五条と夏油の警戒心がぐっと跳ね上がり、五条がそれとなく家入を背中に隠す。


「ん?アンタ夜兎ですかィ?」

番傘を腰に下げているなまえを上から下までジロジロと物色した男は訝しげに顔を一瞬顰めた後、なまえに声をかける。

「…夜兎知ってるの?」
「ええまあ…チャイナの知り合いですかィ?」
「チャイナ、とは…」
「万事屋ンとこのじゃじゃ馬でさァ」
「よろずや……なんだっけ、なんか思い出せそうだけどこっち離れて二年以上…絶妙に思い出せない…」
「あいつの知り合いでもないんなら夜兎がこんなところでなにやってんでィ」


そういうあなたは誰なの、と警戒心を露わにするなまえの眼前に男は懐から取り出した小さな手帳を広げて見せつけた。


「え、なになに?真選組…沖田総悟…?あ、江戸の警察だっけ」
「怪しいやつは逮捕しまさァ」
「あやっ…怪しくない!気づいたらここにいただけだし!」
「怪しいやつはみんな怪しくないって言うもんでさァ」
「何言っても逮捕するつもりじゃん!げっ、夏油っ助けてっ」


恐ろしいほど冷たい顔で見下ろされ、逮捕しようと手錠を腕にかけようとする沖田という真選組の男の腕を振り払い、なまえは男をなんとか言いくるめてくれそうな弁の立つ夏油の背中に隠れた。夏油は大きな背中でなまえを隠すも、いつものように呪霊を呼び出せないことに舌打ちを漏らす。


「へー、無実の女の子に無理やり手錠かけようとすんのがここの警察のやり方なんだーてか新撰組ってそんな服だった?水色のなんかハッピみたいなのじゃなかったっけ?…あ、パラレルワールドなの忘れてたわ」
「ごっ五条…!」
「なんでィ、お前」
「俺たちさー、集団で迷子になっちゃったんだよね、帰り方わかるまでどっかに身寄せしたいんだけど警察ならなんとかなんない?財布もスられたみたいでさー、無一文なの。ほら、オンナノコも二人いるし危ないっしょ?誰に頼っていいかもわかんないし、お願いできない?」


蒼と赤。相対する瞳が交錯し、迷子になったとは思えない不遜な態度で沖田の前に立ちはだかる五条に思わず沖田はムッと顔を顰める。サァと冷たい空気が二人の間を駆け抜ける。


「ハァ、迷子とは思えない態度ですねィ、警察も暇じゃないんでィ。万事屋の旦那にでも依頼してくだせェ」
「さっきも言ってたけどよろずや?って何」
「なんでも屋でさァ」

ひとまずなまえを逮捕する気はなくなったのか手錠をしまって案内する気があるらしい沖田の視線に促されるままずんずん進んでいく足取りを五条と夏油が、その後ろを家入となまえが追う形で小石の転がる見慣れない土の道を歩いていく。

「ねえ、春雨だっけ?連絡取るように伝えたらだめなの?」
なまえにだけ聞こえるようにこそりと家入が言葉を紡ぐ。
「犯罪組織だから地球の警察には言わないほうがいいんじゃないかな。連絡もし取れたとしてもみんな連れていくわけにはいかないし」
「せっかく帰ってこられたのに、会わなくていいわけ」
家入の垂れ下がった強い瞳に見つめられ、なまえは暫し逡巡するも、ぐっと眉を顰めすぐにいつもの様ににっこりと笑いかける。
「みんなを無事に帰す方が先だから」
納得いかないような顔で家入ははぁ、とため息をついてポケットを漁るが、希望の品はそこになくさらに大きなため息をついた。



______


「おや旦那、こんなとこにいたんですかィ。今丁度そっちに行くつもりだったんでィ」

突如ピタリ止まった沖田と同様になまえたちも立ち止まり、沖田が声をかけた人物に四つの双眸が向けられる。死んだ魚のような目をした白銀の髪を持つ男は、白いスーツと青いシャツに身を包み道ゆく若い女性に声をかけていた。


「あ?あー総一郎くんじゃねェの」
「総悟でさァ。ーって、なんです?その格好。まァたホストクラブでバイトですかィ?精が出ますねェ」
「いやー高天原で従業員にノロウィルス出たらしくてなァ、仕事依頼されたわけ。仕方なしに出れるやつ探すついでに客引きよォ。アッ、総一郎くんはもうこなくていいからね。ややこしいから」
「お呼びとあらァいつでも馳せ参じますぜィ」
「だからいいって言ってんでしょうがァァア!お前がくるとホストクラブじゃなくてSMクラブになんだよいい加減にしろよォ!」


髪の色が五条に似てるなあ、なんてなまえと家入が思いながら沖田と言い合いをする男を見ていれば視線を感じたのか先ず五条と夏油を視界に捉え、男は目を見開いた。


「なんっだこのイケメン共」
「お、そういやァコイツら仕事と宿探してるつってたんでどうでィ?」
「別に仕事は探してねーけど」
「コレがさっき言ってた万事屋の旦那の坂田銀時でさァ、アンタら金無ェんでしょ?ホストで一稼ぎしてきなせェ」
「ねェ今俺のことコレつった?コレつったよね?」
「はァ〜〜ホスト〜〜?!」
「私たちはともかく連れは女性ですが」
「なんとかなりまさァ」
「駄目だって総一郎くん!!こんなSSR黄金聖闘士共連れてったら俺の存在が霞むでしょうがァ!」
「どうせ旦那を指名するなんざあのドM女くらいでさァ」
「キィィィ黙って聞いてりゃあ!俺がモッテモテなとこ見せてやらァ!オラお前ら来い!」

ずるずると銀髪の男に引きずられていく沖田に一同は顔を見合わせる。

「え、マジでホストで働くの?」
「江戸なのにホストがあるんだね。なまえのいたところの世界観すごいな」
「ねぇ、世界観っていうのやめてくれる?」
「夏油はともかく五条には無理でしょ」
「なんでだよ!俺の顔面で惚れない女の子なんていないでしょ?」
「ここにいるけど」
「一応まだ全員未成年だけどね」
「江戸時代の成人っていつな訳」
「十五とかじゃないの」
「じゃーとっくの昔じゃん!」
「それ、適応されるのかい?」
「まーいんじゃん?金稼げてタダ酒タダ飯ありつけるよ?どうやって帰るのかわかんない以上なまえの飯代だけでも浮くの助かるでしょ」
「五条お酒飲めなくない?」
「確かにホストでそれは致命的かもね」
「え、そうなの?てかホストっていまいち何なのかよくわかってねえ」
「でたよボンボン」

井戸端会議を始めるなまえたちに、お前らはやくきなせェ、とかけられた沖田の声に仕方ないか、と頷き、一同は繁華街に足を踏み入れた。









________

「なにがどうしてこうなるの??」


暴れるオカマ、飛び交うクナイ、ドSによって縄で吊るされるドM、死屍累々とも言える酔っ払い共が繰り広げる目の前の惨事になまえの目はついに死んだ。


遡ること数時間ほど前、間も無く夜が訪れそうなかぶき町一番街という繁華街で一際ネオンが輝く高天原と書かれた煌びやかな看板のかかる店に案内されるがまま一同は入店した。
店長と名乗る狂死郎は高天原にやってきた五条と夏油を見るなり美しい眼を限界までかっ開き、わなわなと震える。

「この二人百年…いや千年稀に見る逸材…!」
「お?おにーさんよくわかってんね俺四百年ぶりに生まれた天才だから」
「そちらの黒髪の方も切長な目元がセクシーで溢れ出る色気…!女性人気が二分する二人…!」
「ハハ、どうも」
「めっちゃ褒められててウケる」
「クズ共だけどな」
「私たちホストでやることある?」
「ねェな。酒飲んでよ」
「私もご飯食べたーい」
「あ?なんだお前ら女かよしかも片方は神楽みたいなチャイナ服着やがって…ってお前夜兎か?!どっかで見たことあんなお前!」
「ハイ夜兎ですけど」
「あ?なーんか春雨に昔こんな奴いなかったか?」
「ヒトチガイダトオモイマース」

こんなところで春雨にいたとバレるとは思っていなかったなまえは冷や汗を垂らしながら家入の後ろに隠れようとするが華奢な家入の後ろでは隠れられず注目を浴びる。

「なんだオマエ。夜兎アルか」

独特な口調とこんな場に不似合いな少女風な声に出所を辿れば、なまえにとっては見覚えのあるサーモンピンクの髪をオールバック風に撫で付け、サーモンピンクカラーのスーツを身につけた少女になまえは目を剥く。

「ん?!?」
「何アルかジロジロ見て」

記憶の中の人物によく似た目の前の存在に一瞬名前を呼んでしまいそうになったが、よく見れば声も顔も背丈も何もかも違うことに少し残念そうな顔を浮かべたなまえはすぐに人違いだ、ごめんね、と神楽に謝罪を漏らす。特に気にした様子のない神楽はぐいぐいとなまえをスタッフルームに引き摺り込もうとしている。

「オマエもスーツ着るヨロシ!働かざる者食うべからずネ!」
「え、え〜〜じゃあ硝子もやろうよ」
「やだ」
「硝子、ヘルプとか入ったらお酒飲み放題だって、硝子にぴったりじゃん!」
「やる」


まんまとなまえに乗せられた家入となまえが適当なスーツを身につけて神楽とメインホールに戻ってくれば、五条が黒シャツに白スーツ、夏油が白シャツに黒スーツに身を包み何故か薔薇を一輪口に咥えてノリノリでお客様を出迎えていた。

「今夜は帰さないよ子猫ちゃんたち」
「私たちと眠れない夜を過ごそうか」
「……何やってんの?アイツら」
「……とりあえず、楽しそうだからいっか」

最近あった夏油の離反一歩手前の騒ぎを思い出したなまえは久しぶりに見る五条と夏油のただただ楽しそうな顔に笑みをこぼした。ーー
「キャーSATORU何飲むー?!」
「んー、メロンソーダで!」
「メロンソーダ??かわい〜!!」
「SUGURUは〜?!」
「君たちが飲みたいものまず頼もうよ」
「キャー優しいー!!」
ーーが、早速やってきた女の子たちを虜にしている二人組になまえと家入は呆気に取られていた。
「SATORUとSUGURUって何なの…」
「馬鹿すぎてついてけない」
店内に入店した女の子の肩を抱きながらホストらしく接客を始めている五条に若干イラっときたなまえはそれに気づかないふりをして次いで入店してきたお客様へと視線を移して、固まった。

「え?なに、あれ」


青い顎のゴツい体つきの綺麗な着物を着た女ー女?たち。ー所謂『かまっ娘倶楽部』の店員たちなのだがそんなことは知りもしないなまえと家入は唖然としながらやってくる恐ろしい軍団に思わず一歩足が下がる。のしりのしり、という擬音がつきそうな足取りが女の子たちと無邪気にはしゃいでいる五条と夏油の元に向かっていくのを見て二人して合掌した。


「や〜ん見たことないイケメンがいるじゃない」
「は?何このバケモンんぐ?!」
「だァれがバケモンだってェ???」

人一倍でかい鬼神のようなオーラを持つコーラル色の着物を着たオカマ、西郷特盛に目をつけられた五条は西郷の地雷を踏み抜き、頭を鷲掴みにされてぶん投げられた。もちろん呪術の使えないこの世界で無限の使えない五条になす術もなく頭から血を流して白目を剥いて倒れている。西郷の背後に控えている大量のオカマたちの醸し出すただならないオーラに座っていた女の子たちは悲鳴を上げて一目散に逃げていった。

「悟!」
「五条白目剥いてんだけどウケる」
「写メ撮っとこー」
「君たち少しは悟を心配したらどうだい」
「あの馬鹿がこんなことで死なないだろ」
「だって失礼働いたの五条だもんね?ププ」
「あんたたちよくわかってんじゃないか。こっちに来な」
「…悟がああ言うのも仕方がないだろう。見たことのない化け物を初めて見た時は誰だって驚く…」
「あ?オメーも化け物つったな?」

ドオオオオォン、轟音と共に夏油も鬼神に投げられたことを悟りなまえと家入はまた静かに合掌した。
呪霊を普段から見慣れているのに安易にオカマに化け物などと言うからである、普段から二人は最強だとかなんだとか言って驕っている節のある二人にいい気味だと家入となまえはクスクスと笑った。ーしかし、笑っているのは今のうちだとすぐに悟るのである。


「そこの二人もこっちに来なァ!」
「今日は朝まで飲むぞォ!」


低い雄叫びを上げながらなまえと家入に酒を飲ませながらどんちゃん騒ぎを始めるオカマ軍団。いつの間にか家入はオカマたちと腕を組み交わしながら友情一気をしているし、なまえもこれ幸いとばかりにテーブル上に並んだフルーツ盛り合わせや食事を水のように胃袋にかき込んだ。そうこうしているうちにメインホールでは新たにやってきた吉原の自警団、百華をひきつれた泥酔した月詠によって坂田改めGINを的にしたクナイによる恐怖のダーツゲームが始まっているわ、GIN目当てでやってきた猿飛あやめが沖田改めSOUGOに縄で縛られ吊られているわ、神楽が始めた将軍様ゲームでいつ目覚めたのかわからないSATORUがゲラゲラと笑いながら、SUGURUの服をひん剥いているわで現場は混沌に包まれていた。なぜか集中狙いされているSUGURUは周囲を取り囲む人間に「猿め…」と呪詛を吐いている。
何度見たかわからない地獄の再現に店長の狂死郎はヒクヒクと頬を引き攣らせている。
目を離した隙に一体何があったんだとなまえは目を白黒させ、横で酒を煽る家入の肩をガクガクと揺さぶった。


「し…硝子!また夏油闇落ちしかけてる!猿って言ってる!やばいよ!」
「あー酒がうめー…」
「駄目だ硝子がただただ酒飲むだけの機械に成り果ててる」


とりあえず五条を沈めて夏油を救い出そう!となまえはぴょんとテーブルからテーブルへと飛び越えてそのままSATORUの頭に着地しつつテーブルに頭を沈めた。


「ってえな!何すんだなまえ!」
「もう!五条こそ何してるの?!夏油また闇落ちしかけてるじゃんか!呪詛師になったら五条のせいだからね?!」
「悟…向こうに帰ったら覚えときなよ……」
「傑にはやられねーし!この前の喧嘩忘れたかよ!俺の圧勝だっただろ!」
「それは私も加勢したからでしょ?!」
「ふふ、言ったね。悟一人でなんとかできないぐらい私が持ってる呪霊そこら中にばら撒いてやる」
「オイ!まじで呪詛師堕ちしかけてんじゃねーか!」
「今回ばかりは私五条の味方しないから」
「いい子だねなまえ、悟なんかやめて私と共に行こう」
「それもアリだね。あんな風に女の子誑かす男サイテー」
「オイ!!そんなこと言ったら傑だって一緒になってやってただろーが!」
「知らない!私がこの世界捨ててあっちの世界居座ってたの誰の為だと思ってんの?!もうあっちの世界帰らない!私ここに残る!神威と阿伏兎んとこに帰る!」
「あ゛ぁ?!駄目に決まってんだろ!お前は俺と帰るんだよ!」
「あのーお取り込み中申し訳ないんですけどー」
「んだよ!」「何!」
「君たち、いったいどこから来たの?」
「「…あ」」


GINーもとい坂田から発せられたその問いで正気に帰ったなまえと五条は顔を見合わせてへらっと笑う。


「「日本の、東京から」」




________


先程の喧騒はどこへやら、ガチャガチャと割れた酒瓶やグラスを片付ける音の中でなまえら一同は坂田らに向かい合いここに至った経緯を説明した。ー…いまだ家入は残った酒を煽り続けているー、俄には信じられない話ではあるが、普段からはちゃめちゃ騒ぎが起こるかぶき町を生き抜く坂田は眉を顰めながらも何年か昔に会った覚えのある(なまえの話を聞いてようやく思い出した)なまえの荒唐無稽な話をため息一つ漏らしてひとまず受け入れていた。


「んで?ここにくることになったその手鏡っつーのは?」
「これだけど」

なまえは五条によって懐に入れられたそれを久方ぶりに表に出したと同時に驚く。真っ黒だった鏡面が呪具庫で見たような輝かしい鏡面に復活していたからだ。


「五条!」
「あ?あー、戻ってんな」
「よかった、帰れるかな?」
「………」
「五条?」


ぷい、とそっぽを向いてしまった五条になまえは訝しげな視線を送る。拗ねた風の五条の振る舞いになまえは首を傾げた。

「なまえ、悟はさっきの君の発言で拗ねているんだよ」
「拗ねてねーし」
「さっきの?」
「君が帰らないと言っただろう?」

眉を下げてなまえの頭を撫でる夏油になまえはあぁ、と数分前の出来事を思い出して言いすぎたなあと頬をかく。

「なまえが帰らねーなら俺も帰らねーから」

尚もそっぽを向いている五条に苦笑を漏らして夏油と笑いあったなまえは手をぐいと伸ばしてそっぽを向く五条の頬を包んで首がゴキゴキとなる勢いでこちらを振り向かした。

「いちいちいてーんだよお前!」
「ごめんね、言い過ぎた。あんまりにも女の子とイチャイチャしてたからヤキモチやいちゃった。許して。一緒に帰ろ?」

こてんとわざとらしく首を傾げたなまえに五条はうぐっと言葉を詰まらせた。
「その鏡帰ったらソッコー壊すから」
返事と受け取ってにこりと笑ったなまえはまだ酒を煽る家入を引き連れて高天原にいる全ての人間に聞こえるように声を張り上げた。

「みなさーん!短い間でしたがとっても楽しかったでーす!お騒がせしましたー!見ず知らずの私たちに親切にしてくれてどうもありがと〜!!」

「おう、硝子またこっち来ることあったら今度はかまっ娘倶楽部に来な。もてなしてやる」
「アリガト、西郷さんまたねー」

「悟さん、傑さん、君たちのような逸材に出会えてよかったです」
「おー店長ありがとな」
「お店、こんなにしてすみません」

「なまえ、神威に伝言あるなら私聞いといてやるヨ」
「え?神楽神威の知り合いなの?」
「はぁ?気づいてなかったアルか?私神威の妹ネ」
「エーーー?!うそでしょ?!だから似てたんだあ!元気に生きてるよって言っといて。私が生きてることさえ知らないからさ!」


そう言って笑ったなまえの手の中にある美しい手鏡に現れたのは、五条、夏油、家入はもちろん担任や先輩、後輩、隙あらばセクハラをかましてくる体術講師などなまえがあちらの世界で出会った人たちと満面の笑みで笑い合う姿だった。

「ふふ」

早くみんなに会いたいな、そんなことを頭の中で考えていればいつの間にか再び閃光に包まれ、脳が揺さぶられる感覚になまえは意識を手放した。





「本当に消えたアル…」
「嵐みたいな奴らでしたねィ」
「ああー、不思議なこともあるもんだなーァ」

高天原に残された面々はしばし四人組が消えたその虚空を見つめては笑みをこぼした。
外は既に朝日が昇ろうとしていた。







雪姫様、この度は企画へのご参加ありがとうございました!遅くなってしまい大変申し訳ありません!
オールキャラでとのことだったのですが銀魂世界のキャラの数等を考えるとどうしてもこれ以上増えるととっ散らかってしまって風呂敷にしまいきれず、四人だけでしかも一日足らずの帰宅となってしまいました……書きがいのあるリクエストだったのですが、1話に纏めきるのが難しく、リクエストに応えきれているのか不安です……
+七海灰原伏黒甚爾で途中まで書いていたのですが、さすがにキャラを書ききれず断念してしまいました…ごめんなさい…!どうしても五条と夏油のホスト姿が書きたくて高天原に行かせたのですが設定活かしきれていたのか……(笑)
楽しんでいただければ幸いです!!今回は素敵なリクエストありがとうございました!!


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