君の青春を僕にください

きゃいきゃい、楽しそうに雑談している生徒たちの姿を認め、常であればその集団に入って「何々〜??楽しそうだね〜」なんて言って若人の青春を見守る僕だが、最近はその輪の中に入れずにいた。別に年齢のせいとか、最近生徒たちとの間に埋められないジェネレーションギャップを感じるとかそういう問題じゃない。この前視力検査をしてた生徒たちに数値どんなもん〜??悠仁は2.0以上ありそうだよね〜なんていったらAだけど2.0って何?って言われた時は泣いたね。嘘でしょ?いつの間にそんなことになってんの?

閑話休題。

そうそう、なんで僕が生徒たちの楽しそうな青春の一ページに割り込めないかって話だったね。それは今彼らの話題の中心でニコニコとしている最近転入してきた一年生が原因で。別に嫌いとかそんなんじゃない。昔みたいにつっけんどんに関わる人間に毒づいてた時代はとっくに終わった。むしろ嫌いの逆。神々しすぎて近づけないのだ。なぜかって?それはほら、彼女が−。


「あ、先生〜!そんなとこ突っ立ってどうしたの?こっちきなよ」


じい、とその例の転校生をアイマスクの下で見つめていたら悠仁に気づかれた。誰を見ていたかまでは気づいていないとは思うが、悠仁の一言で他三組の若者の目が一斉にこちらを向く。その中でも特に目を惹かれる僕が言うのもなんだけど透き通るような瞳に射抜かれて一瞬ピシリと固まってしまう。


「みょうじさんきてから五条先生任務とかで忙しかったしあんま自己紹介とかできてなくない?今のうちにしといたら?あ、みょうじさんのことはいくら先生でも知ってるか!自己紹介いらない?」
「何言ってんのよ虎杖!『なまえさんが』五条先生知らないんだからあいつから挨拶すべきでしょうが!」
「……いや、そもそもあの人テレビ見る余裕とかないだろ。みょうじさんのことそういう認識で認知してないんじゃないか?」
「みんな、『さん』いらないよ?年齢は一つ上かもだけど私ここではみんなより下っ端だし」


三者三様言いたい放題に盛り上がっている中で困ったように笑っている少女ーみょうじなまえのことは、悠仁の言う通りもちろん知っている。知りすぎているくらいには知っている。何故なら彼女は、数年前からこっそり推しているアイドルだからだ。彼女は忙しい日々を潤す僕の『推し』だった。出ているテレビは細かにチェックして録画し、ブルーレイに焼いて保管しているのはもちろん彼女が出たドラマのBlu-rayBOXは全て視聴用保存用として二組以上購入しているし、少しでも力になれればと出る楽曲は同じCDを何枚も購入している。出ている雑誌は彼女のことが知りたい一心で小さなページから特集まできちんと切り抜いてファイリングされている。この中にいる誰よりも彼女のことに詳しい自信がある。非術師の世界で生きているはずの彼女がまさかこっち側の人間だったなんて露とも思わず、とある任務に向かった術師が行った先の呪霊をどうやら彼女が先に祓ってしまっていたことで、この呪術高専にスカウトされてやってきた。年齢は真希たちと同じだが一年ダブる形で悠二恵野薔薇と同じ一年生に在籍している。忙しい高専生であるにも関わらず芸能活動はセーブしながらも続けているというタフぶりだ。


そんな僕がずっと応援していた彼女が突然自分の世界に入り込んできたと知った時、僕はあまりの情報量に一瞬意識が飛んだ。考えてもみて欲しい。言うなれば絶対に交わらない世界線に生きていたと思っていた人間が目の前に現れた時どうなるか。絶対に混乱してすぐには状況が理解できない。ドッペルゲンガーを疑った。しかし口調や笑い方、仕草がいつも追っていた推しそのもので、ドッペルゲンガー説はすぐに払拭されることとなった。ホンモノだ。そんな一ファンである僕は、初対面で彼女とどう接したらいいのかわからず、まごついていればにこりと笑った彼女が口を開いた。
「担任の先生ですか?これからよろしくお願いします」と大好きな笑顔が僕だけに向けられて、泣かない人間がいるか?絶対にいない。このときばかりは自分のアイマスクに感謝した。思わず「ずっとファンでした!!」と手を差し出して暴露しかけたものだ。




「せんせ!先生!聞いてる?」


下から見上げられる悠仁の視線にハッと意識が戻る。訝しげに送られる不躾な視線を隠そうともしない野薔薇と恵に苦笑する。声をかけることができないで遠くから四人を眺めていることが多かった僕だったが今日ばかりはそういうわけにもいかないらしい。彼女以外の一年からもそれぞれ視線が送られさっさと自己紹介しろよと言いたげだ。ーそうはいってもなんて自己紹介すればいいのかわからない。『君のことだぁいすきな特級術師五条悟どぅえーす』ってか?


「ごめんごめん、考え事してたよ」
「?先生忙しいもんね。あ、で、みょうじさ…みょうじが先生と仲良くなりたいって言ってたよ」
「仲良く?!?!」
「うお、びっくりした。何急に」


仲良くなりたいって言った?仲良く…仲良く?!?!それはどういう意味で?!将来的に結婚したいとかそういう意味で?!マジで?!?!僕もしかして脈アリなの?!ま、まって…!推し以前に生徒だよ?!僕君と一回りぐらい年齢差あるよ…?!うそうそ、なまえってばもしかして禁断の先生と生徒とかいうシチュエーションに燃えるタイプ…?!ま…まじか…!!!!


「…なんか様子おかしくない?」
「五条先生の様子がおかしいのはいつものことだろ」
「まぁ…そうね…」
「五条先生、大丈夫ですか…??」


て…天使…!!!!圧倒的天使!!優勝!誰も勝てません!終了!なまえがいれば地球が救われるね!少なくとも僕の疲労は彼女の心配でひとっ飛びだよ!
気遣わしげに向けられる泣いてもいないのに常に潤んでいるように見える瞳に見つめられて感情が爆発しそうだ。返事もできず固まっていれば野薔薇に背中をバシンと叩かれた。全然痛くないけど容赦ないな、野薔薇。でもありがとう。ちょっと正気に戻った。



「ちょっと!やっぱりおかしいわよ!」
「ーあっ、いや、うん。なんでもないよ」
「えっと、五条先生。お話しするの、初めてお会いした時ぶりですよね?先生とっても強いって聞いてたので、これからよろしくお願いします!」


ちっともアイドルを鼻にかけたような態度ではなく丁寧に挨拶をするなまえの様子にハッとする。そうだ、この子はアイドルのみょうじなまえではなく、呪術師の卵のみょうじなまえとしてやってきているのだ。それを教師である僕がアイドルとして彼女を扱って良い訳がない−!あぁでも、彼女を目の前にするたびに伝えたい言葉が脳内を駆け巡る。可愛い。いつも何事にも一生懸命取り組むところがいい。朝が苦手らしい君が寮生活でストレスを溜めないか心配だ。ネットではたまにアンチが湧いてるけど気にしてないかな?そもそも急に呪術師になることになって本当に大丈夫?ああ心配だ。女の子だから特に心配だ。腐ったみかん共に目をつけられないように目を光らせておかなければ。なんなら君がいく任務には全部僕が引率するよ。やっぱりファンだって打ち明けようか?だから僕に君を守らせてねって、伝えようー、



「私今まで、自分が変なんだと思って自分のこの技ー、あ、術式か!自己流でなんとかやってきてたんですけど、ここはたくさんすごい人がいて自分の弱さにびっくりしました!先生にいろいろ教えてもらえるの、楽しみです!歌って戦える先生みたいに立派な術師になりたいです!」


キラキラキラキラ、潤む瞳の中にキラキラと輝く無数の星が散りばめられたような純粋な視線を向けられ、うっと思わず口先まででかかった言葉をなんとか喉元の向こうに戻っていくよう嚥下する。
この気持ちは伏せたままでいよう。陰でそっと彼女を見守って、変な虫がつかないように常にセコムして…そうだ。プラスに考えよう。高専の庇護下に入ったということは僕の目の届く場所に常にいるということだ。憧れの先生として最強の特級術師としてかっこいいところを見せつけて、卒業するまでに彼女をオトしてしまおう。彼氏なんて絶対作らせないし絶対に僕のこと好きにさせてみせる。ふふ、僕のテリトリーにやってきた時点で詰みだよ、なまえ。卒業した暁にはアイドルも辞めて、術師も辞めて、僕のお嫁さんになろうね最後のコンサートは舞台上にマイクでも置いて去っていけばいいよ。ん?古い?元ネタがわからない?今ここでそれはさほど重要じゃないから置いといていいよ!それよりも、好きなアイドルをお嫁さんにもらうって一度は誰もが夢見たシチュエーションだよね!



「まっかせなさーい!GTGが君のこと、責任を持って面倒みていくからね!」
「!はい…!よろしくお願いします、五条先生!」


あは、それは僕との将来の肯定だと思っていいんだよね?はー、可愛いなあ!結婚式は神前式かな?それとも教会式かな?ドレスも白無垢もどっちも似合いそうだね、あ!二回に分けてやればいいのか!僕あったま冴えてるねー!相変わらず!カラードレスも色打掛もどっちも見たいもんね!何色が似合うかな?お色直しの由来って相手の家の色に染まるって意味だったっけ…?それならーやっぱり青かな?盛大な式にしようね!!あはは、楽しみだなあ…!



「…なんか寒気するんだけど」
「……奇遇だな釘崎、俺もだ」
「?野薔薇ちゃん、伏黒くん、大丈夫?」
「二人とも大丈夫か?生姜たっぷり入った鍋でもする?」
「「「賛成」」」





れなさま、今回は企画へのご参加ありがとうございました。
どうしても書いている途中で推しの話の五条に寄ってしまって苦労してしまいましたが(笑)最後古の夢女の血が騒いでしまい何故かヤンデレチックに終着してしまいました。すみません……。
少しでも楽しんでもらえると幸いです!素敵なリクエストありがとうございました!


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