野次馬したくなるお年頃

「え…硝子さんそれマジな話ですか…?!」

コーヒーを飲みながら大マジだよ。と微笑む硝子さんに空いた口が塞がらない。なんとここ呪術高専で有名な化物三人組と目の前の硝子さんが高専時代の同期だというのだ。クマがすごいが妖艶な色気が滲み出ている硝子さん、常に黒いアイマスクをした生徒のスカートを盗む変態と人当たりはいいのに非術師を猿と呼ぶ三年生の教師、ゴリラみたいに力が強いいい歳してアホみたいな髪色した二年生の副担を頭に思い浮かべる。この四人が同じ学年って大丈夫か…?


「伏黒は知ってた?!」
「…あ?…まあ。当時から親父通して知り合いだし」
「虎杖は?!」
「ん?五条先生から聞いたことあるよ。むしろ釘崎知らんかったん?」
「知らないの私だけかよ!」

クソが!と憤慨すればそれそんな必要な情報?と虎杖が苦笑している。

「写真ないんですか!写真!」
「…ああ、そうだ。昔プリクラを撮ったことがあったな」
「プリ、クラ……時代感じますね」
「…解剖されたいか?」

がら、と開けたデスクの引き出しからこれまた時代を感じる二つ折りの携帯電話がでてきて先程の硝子さんの気迫にビビって言葉には出さないが目を見開く。どういう構造になっているのかは知らないが、ぱか、と開いた蓋のようなところを外して「ほら」と手渡されるそれを受け取ってまた目を見開いた。


「何、ですか。これ……」
「?プリクラだよ」
「じゃなくて!なんですかこの各属性揃えましたみたいな写真!」


少し色味が褪せてしまっているが、蓋の中に貼られたそれは風化するのがマシだったのか全員の顔をきちんと確認できた。今よりはるかに若い四人は今の面影を残しつつ、今より尖った雰囲気で縦長のプリクラの中に収まっている。
顎にあてるピースをしている五条先生となまえ先生の時代を感じるポーズはさておき、映る全員の顔面から滲み出る個性の喧しさに思わず顔を顰めた。


「君たち、何しているんだい?…お、懐かしいのを見てるね」
「夏油先生!ちはっす」
「…っす」
「こんにちは、悠仁、恵、野薔薇」


にゅ、と突然気配もなく現れた夏油先生に一瞬身体をびくつかせたが、手に持つそれを見て少し驚いたように目を見開いた夏油先生がすぐに懐かしそうにふにゃりと優しげに笑うので同期というのは本当らしいと納得する。


「先生たち付き合ってたとかないのー?」
「ふふ、悟となまえはこの時からの仲だよ、あぁ、恋人になったのはもっと後の話だったかな」
「まじで?!何年付き合ってんのあの人たち!」
「十年以上はお互いのこと思い合ってるね。あ、噂をすればなんとやら、だ」


目を細めて遠くを見つめる夏油先生の視線につられてそちらを見てみればいつも通り仲良さげに連れ添っている五条先生となまえ先生。珍しく私服を着ているのかいつもの真っ黒な服装ではなく少しリングコーデ風に仕上げているのがなんか腹立つ。こちらに気づいたのかなまえ先生がいつものボロボロの傘ではなく可愛いレースのついた日傘の中でぶんぶんと手を振っている。


「なまえ先生ー!可愛いかっこしてんねー!五条先生とどっかいくのー?!」
「うん、今からデートなんだー」


さらっと褒めつつ聞きたいことを他意無く聞いてしまう虎杖にコミュ力モンスターめ…と内心毒づく。バイバーイと手を振る二人はすぐにこちらに背を向けて歩いていく。嬉しそうに笑い合い、寄り添いあった二人の手が指を絡め合うように繋がれているのを見て思わず「いーなー」と言葉が漏れる。恋人が欲しいなんて別に思ってたわけじゃない。人選はどうかと思うけどあの軽薄の塊みたいな男にあんなに愛おしげに見つめられるなんて相当愛されてんな、とそんな相手がいることが少し羨ましくなった。


「なまえ先生といる時の五条先生っていつもとちょっと違うよね」
「そうだね、昔からそうだよ」
「なまえ先生もいつもより楽しそう」
五条先生あの馬鹿ってどんなプランでデートするのかしら」

ぽつり、つぶやく疑問。五条先生が女性に配慮したデートができると思えない。こんな昼間からいったいどこに行くんだ。金に物を言わせて買い物?ーなまえ先生だって稼いでるだろうし欲しいものは自分で買うか。……いや、自分の食べたい物自分で選んで相手の意見も聞かずに行きたいとこフラフラ思いついたところに行って絶対あの調子で自分本位な連れ回し方してそうだ。ー見たい。日々呪いに相対する高専内では男女のあれそれだとか誰かの恋愛のアレコレなんて話題は滅多に議題に乗らない。それが自分の担任と上級生の副担のラブロマンスな話なんて興味がないはずがない。デート?覗くに決まってんでしょうが!


「伏黒!虎杖!」
「おん?」
「……俺は行かないぞ」
「まだ何も言ってないじゃない!行くわよ!担任のデートの尾行!!!」
「おー!おもろそう!行く行く!」
「ハァ……」
「ふふ、面白そうなことを企画しているね。私もついていこうかな硝子はどうだい?」
「クズと馬鹿のデートなんてクソほどどうでもいい」
「はは。相変わらずだね」


硝子さんが大きいため息を吐くのに対してニコニコと微笑んでる夏油先生。夏油先生いれば万が一見つかった時もなんとかなりそうね!良い味方を得たわ!ついでにスイーツかなんか奢ってもらいましょ!善は急げとばかりに足を動かそうとしない伏黒の首根っこを引っ掴んで問題の二人を追いかける。さあ!どんなデートをしてるのか見せてもらいましょ!!



△▼


「うそ、でしょ…?」


電車を何度か乗り継いで移動する二人に気づかれないよう隣の車両から様子を見ながら尾行を続けた。電車の乗り換えのたんびにまさかと思っていたが、本当に降り立った駅に青ざめる。まさか、あの二人がこんなファンシーな場所に…?!楽しげな音楽が流れ続けるキラキラ光る世界。そう、ここは所謂某夢の国だった。私の初めての夢の国がまさかの担任の尾行で来ることになるとは思わなかった。しかもランドじゃ無くて海の方。初めてなんだからまずはランドを抑えておきたかった。とはいえ、しれっとチケットを用意してくれた夏油先生に感謝を告げつつ、ワクワクしながらゲートを潜った。


同じようにゲートを楽しそうに潜っていった二人は早速アーケード内で買い物を始める。カチューシャを付け合ってあれでもない、これでもないと物色している様は呪いなんて無関係なちょっと顔のいいデート中の恋人そのものだった。周りは白髪とピンク頭の登場に少し遠巻きにしながらヒソヒソと見つめている。ーわかる。その気持ちはわかるがこの二人、もしや出かけるとなったらいつもこんなに注目されているのだろうか。


「うっわまじかよ。ベタ〜〜〜!!」
「いいじゃん。二人とも似合ってんね!」
「君たちも欲しいのあったら買いな。私が買ってあげるよ」


どのカチューシャにするのか決まったのか二人して某ネズミのお気に入りのテディベアが某妖精の粉で動くようになったという某クマの恋人セットを頭につけてレジに並びだす。死角になった場所で自分にもカチューシャをあてながら虎杖と二人の様子を盗み見ていれば夏油先生がさらりとカチューシャを購入してくれる。虚無顔をしてぼーっとする伏黒の分も適当に引っ掴んで買ってもらった。非術師のことは猿というが気遣いのできる夏油先生がモテるのは必然だなと思うと同時にどっちかといえば私だったら夏油先生選ぶのに、なんて思った。


その後何故か列のできているアトラクションを待ち時間なく通過していく二人に疑問を残しつつ、たまにアトラクションに乗ったり可愛らしいタピオカドリンクを二人で買ってきゃいきゃいと楽しんだりチュロス食べたりまるで食べ歩きのように常になまえ先生が指さすフードを摂取し続けている。あれでなぜ太らないんだと憤慨したくなる量を食べていたが、ただただ楽しそうで五条先生は楽しそうにするなまえ先生を永遠に見つめていた。…なんだ、あんな軽薄な男でも好きな女ならちゃんとエスコートできるんじゃない。話している内容まではさすがに聞こえないが、イチャイチャという擬音が聞こえてきそうなくらい睦まじげな二人に興味なんてもはや失せてしまった。



「ふふ、野薔薇。もういいのかい?」
「なーんか見てるの馬鹿らしくなってきて」
「わかるよ。普通に仲の良い様を永遠に見せつけられるだけだからね」
「自分の他に三人しかいない同級生のうちの二人があれって夏油先生も硝子さんも苦労したでしょうねー。さ!せっかく夏油先生がパス買ってくれたんだし私たちは私たちで楽しみましょ!」
「俺あれ乗りたい!垂直に落ちるやつ!」
「………まだ帰らねーのか」
「今日はとことん楽しもうじゃないの!」


目を話した隙に、二人はいつの間にかどこかに消えていて、忙しい二人のせっかくのデートだっただろうに、野暮なことしたかな、と少しだけ、すこーしだけ反省した。




△▼


「あれ、尾行もう終わり?」
「ふふ、みたい。尾行なんてしてるより楽しくなっちゃったんじゃない?」


高専を出る前から感じていた生徒たちと同期一人の視線が急に自分たちに向かなくなってちぇ〜と呟く。デートの様子を見られるのは悪くない。きっとミーハーなところのある野薔薇あたりは五条先生最高のデートプラン考えるじゃん見直したとか言ってんだろうな。なまえは尾行されていることは別にどうでもよかったのか特に気にすることなく普段通りにしていた。もうそろそろ夕暮れ時、「たまには遊園地もいいね!楽しかったーそろそろ帰る?」なんて言うなまえにニヤリと笑ってみせる。


「ショー見てから帰ろうよ」
「……エ?悟こういうショーとか興味ある人間だった?ちなみに私はないよ」
「もう〜ムードないなあ」


本当はベッド狭いからどうしようか迷ったんだけど、実はあそこ部屋とってあるんだよねと指を指す先を見てなまえは顔を顰めさせた。え、何その態度。この僕の完璧なデートプランに文句あるの?

「何その顔」
「なんか悟がそういうこと言うと信用度が下がるよね。なんでだろ」
「しっつれいしちゃうよ全く!僕ほど完璧な恋人いないでしょ?遊園地で疲れたなまえのために休める場所も用意してるなんて悟気が利くぅって褒めるとこだよ?」
「…こんなことで疲れないし…なんか悪巧みでもしてるの?」
「んー、ショーで照らされるなまえを窓ガラスに押し付けながら立ちバックでシたい
「最っ低じゃん。どこが完璧な恋人なの?」


完璧な恋人なら今日は楽しかったねって送り届けてくれるもんでしょ?なんて言いながらじと、と呆れた視線を送りつけてくる恋人の腰にさりげなく手を回し、頭についたなまえの髪色と似てるせいで頭からクマ耳がほんとに生えてるみたいに見えるカチューシャを微調整しながらその気にさせるべく、ちゅ、と額にキスをすれば少し照れた表情を見せる。このままホテルに誘導したらついてくるだろうな、と思うけれどそれでは面白くない。なまえから求めてもらうのが最高に可愛いのだ。普通の女の子が喜びそうなものではきっと釣られないなまえの喜ぶポイントを探す。


「ルームサービスなんでも食べていいよ?」
「悟のご飯の方が好きだから帰ろうよ」


バッサリ、吐き捨てるように言われたそれに喜んで良いのか悲しんで良いのかわからない。メシで釣られないとは今日のなまえはなかなか手強い。


「たまにはいいじゃんー。ほら僕たち付き合い始めて結構経つし?非日常味わいたくない?」
「………」
少し顔を顰めさせたなまえが何も言わない。お?食いついた?「……悟は、マンネリとか、感じるの?」少し不安そうに僕を見上げるなまえに思わず驚いて一瞬宇宙を背負いかけた。マンネリ?感じたことないけど?反転術式かけてんのかってくらい毎日新鮮な気持ちだけど?まさかなまえが感じてるの?ー、一大事だ。やっぱり今日は家では味わえない背徳感やら特別感やらをなまえに感じてもらわねばならないらしい。


「僕は感じないけど。毎日毎日任務とか授業ばっかじゃん?せっかくここまできたんだし、なまえにも楽しんで欲しいなと思って予約したんだけど」
「……そっか、ありがとう。無下にするのはよくない、ね」
「うんうん、じゃあ、これからどこで何する?なまえから言って欲しいな」
「……いじわる」


少し瞳に熱がこもり始めたなまえがくい、と裾を引っ張るので「ん?」と顔を近づけながら内心ガッツポーズする。「いつもと違うとこで、仲良し、したい」…はぁ〜〜〜!?最っ高かよ。よしよし、家じゃできないこといっぱいしようね、と耳元で言えば珍しく照れたなまえが可愛すぎてその後とんでもなく滾ってしまったことは言うまでもない。ショー?宣言通り窓ガラスに押し付けてなまえの白い体に反射する色とりどりな光はばっちり見たけどそもそも興味ないからもちろん見てないよ。みんなショー見てるから誰もこっちなんて見るはずないのに恥ずかしいって言うなまえ最高だったな




花紡様、今回はリク企画へのご参加ありがとうございました!一緒にコメントも送ってくださりありがとうございます。私の書いたお話で楽しんでいただけているのなら、とても嬉しいですー!
IF原作軸と書かれてあったので闇い夜に煌めくはの番外編で間違いないかな?と思って書かせていただいたのですが、大丈夫でしょうか…!少しでも楽しんでもらえれば嬉しいです。今回は素敵なリクエストありがとうございました!今後ともよろしくお願いいたします。



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