涼一(中2)
 
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..涼一side
 

卒業式の日に十弥と別れた。それから何をする気にもなれず自暴自棄な生活を送った。
4月になり新学期が始まってもあまり学校へ行く気になれず、気がついたらよく知らない人の家に泊まったりしていた。
 
久しぶりに自分の家へ帰るとポストに学校のプリントが挟まっていて、小さなメモ用紙に簡単な連絡事項と宮内というクラスメートの名前があった。学校へ行くと、先生や宮内は歓迎してくれたけど俺は自分の居場所がわからず、音楽室や屋上を見るたびに十弥との思い出に胸が締めつけられ、結局また学校へ行かなくなった。
 
このままじゃいけない、はやく忘れようと思ってもなかなか忘れられず、自分の家でじっとしているのも辛いので、遊び友達の家を転々とした。
いつの間にか季節は梅雨へと移り変わり、その日もダラダラと誰かの家に居座っていた。
 
「お酒、のまないの?」
 
中高生の男女が数人で騒いでいるなか、同い年くらいの女の子が話しかけてきた。ストレートヘアの黒髪で、とても真面目そうな子だった。
 
「のむと吐いちゃうから」
「へぇ。私ものめないんだ」
 
女の子は隣に腰をおろした。
 
「そのリボン、どうしたの?」
 
そう尋ねられて俺は手に持ったピンク色のリボンを見つめた。
 
「好きだった人がくれた」
「へぇ、いいな」
「でももう捨てる」
「いらないの?じゃあ私にちょうだい」
「………」
「私、失恋しちゃったんだ」
 
俺は女の子の方を見る。
 
「元気出せって友達に誘われてここへ来たんだけど、やっぱりちょっと居心地悪いな。ねぇ、一緒に外でない?」
「…なんで俺と」
「君も失恋したって聞いたから」
 
女の子は立ち上がって手を差し伸べた。俺はためらいつつ、その手を取った。
 
それから2人で夜の公園を歩いた。その間彼女はずっと自分の失恋話をしていた。公園には小さな池があり、彼女は橋の上で鞄の中を探った。出てきたのは金色の指輪だった。
 
「これ、捨てます」
「え」
「君も何か捨てない?ほら、あのリボンとか」
 
俺はしばらく考えた。それからポケットにあるピンクのリボンを取り出した。
 
「せーので、一緒に捨てようね」
 
俺と彼女は池の上に右手を差し出した。彼女が口を開く。
 
「せーの!」
 
ポチャン、という水の音がした。彼女の指輪が池に落ちた音だった。彼女が俺の方を見た。俺はリボンを握りしめたまま橋の上にしゃがみ込んだ。胸の奥から何かが込み上げてきた。うまく息ができなかった。やがて自分が泣いているのだと気づいた。
 
「う…、うっ、うぅ〜…」
 
手に持ったリボンが静かに風になびいていた。彼女は俺の背中を優しくさすった。


「ごめんね」
 
俺は必死に首を振った。
 
「忘れたい…、忘れたいのに……」
「忘れなくていいよ。覚えてなよ」
 
彼女はリボンを手に取り、小さく折りたたみ始めた。
 
「これが捨てられないなら持ってればいいし、忘れられないなら覚えてればいいよ。それだけ君に思われて、相手は幸せ者だよ」
 
彼女は折りたたんだリボンを手にぎゅっと握らせた。俺は涙をボロボロ流しながら、彼女の顔を見た。彼女は照れ臭そうに微笑んだ。
 

次の日学校へ行くと、宮内が驚いた顔をしてこちらを見た。
 
「生きてたんだ」
「生きてたよ」
「先生すごい心配してたよ」
「うん」
「ノートいる?」
「あー…うん、そのうち」
 
窓の外を眺めると、初夏の青空が広がっていた。俺は小さく息を吸って、ゆっくりと静かに吐き出した。
 

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