あいすみるくを一杯。


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さよならさんかく、またきてしかく

思えば、あの時俺が変なことを聞かなければこうはならなかったんだろうか。聞いたとしても、話を途中で切り上げていれば良かったんだろうか。
こんなこと思っても後の祭りに変わりはないんだろうけど。

遡ること約一時間前。割り当てられた掃除場所を黙々と雑巾で拭いていた。たまたまくじ引きでペトラさんと同じ場所になったものの、後が怖いからとお互い特に会話もなく、真面目に役割を果たしていた。……筈だったんだけどもね。
先に言い訳すると、なんとなく気になったから口にしてみただけだったんです。15歳だもの、色恋沙汰には興味津々ですよ。しかもそれが上司の、となれば別格で。だからついつい言ってしまった。
「ペトラさんて、好きな人いるんですか?」
言ってしまってから思った。野暮だ!野暮すぎる!!って。
普段から巨人を倒すためだけに訓練をし、努めてきた俺たちはいつ何処で死んでもおかしくない。だから、特別な人なんて作るのは普通はしない。
もしも、自分が死んだとき、相手が死んだとき、愛していた人を苦しませるのは避けたいから。
それに、命を捧げて戦うことが困難になるからだ。人類のためであっても、恋人が危機に晒されていたら。その死で、作戦が成功するとしても。きっとほとんどが愛する人を守るだろう。
だからこそ、恋人を作ることは暗黙の了解として禁じられている。それがリヴァイ班ともなれば、尚更。聞かなくたって答えは出ている。
「あ、いや、忘れてくださいっ。そんなのいるわけないですよね!すみませ「いるよ」
「で・す・よ・ね!そんなのいませんよねー!あは、……ん?」
「だから、好きな人いるよって言ったの」
恥じらいもなく淡々と告げるもんだから、聞き流そうとしてしまったけど、え、ん?なんつったこの人。
「エレンが聞いたんでしょーが」
いやそんな呆れた顔されても。
「まあ、そうですけど、てっきりリヴァイ班ぐらいになるとそういう特別な人、……とか作らないものかと」
「あ、なるほどね。そりゃあ、作らない方が兵士としてはやっていけると思うわ。でも、何事にもモチベーションって必要でしょ?『この人の力になりたい』とか『この人を守りたい』だとか。だから、まぁこれは結構人によって分かれるけど――好きな人や恋人がいることはそんなに珍しくないのよ」
「はぁ、そういうもんですか?」
「エレンはまだ誰かに恋したりって経験がないみたいだね。恋人に限らず、友達でもそう。相手を守りたいって思う気持ちが強ければ強いほど、力だってつく。エレンは見に覚えない?マフラーの子……えっとアッカーマン?だったかしら。あの子は典型的にそうだと思うけど」
「あぁ、アイツは……、色々あったから。友達っていうよりはもう兄弟に近いぐらいですよ」
口うるさい姉ぐらいの感覚だし、それに、アイツにとっては最後の家族だから。きっと他より大切に思ってくれてるだけなんだろう。
「野暮な質問に更に野暮なこと聞きますけど、その相手って」
「兵長のことだよ」
「ですよね、そうですよね〜……って、ん?!」
機能停止。機能停止。絶賛フリーズなう。え、え、今なんて?俺の聞き間違いなんかじゃなければペトラさんの好きな人は――
「だから好きな人、兵長だって」
しれっとそう言ってのけるペトラさんに、俗に言う恋ばなとはこんなアッサリしたものなのかと錯覚さえ覚える。いやいや、違うはず。もっと恥ずかしそうに言ったり、顔を赤くしたりなんていうイベントがあると聞く!これはきっと恋ばなとは別のやつ!
いやいやいや、そんな恋ばな議論はさておき、ペトラさんの好きな人が兵長?え、兵長ってあのリヴァイさんですよね?認識間違ってないですよね?え?
「なんでそんな困惑した顔してるのよ。……まぁ恋愛感情になったのは割りと最近ではあるけど。元々尊敬していたし、憧れでもあったし」
尊敬や憧れ、と言われると変に納得してしまう。さっきまであんなに疑問符だらけだった頭が急にスッキリしだした。
あぁ、そうか。この人は兵長に認めてもらいたくて、兵長の力になりたくて頑張ってきたんだ、って。軽い恋ばななんて言葉でまとめるには惜しいぐらいに。
今思い返してみれば、兵長のことを口にするときのペトラさんて、目はキラキラして、まるで自分のことかのように誇らしげに饒舌になる。リヴァイ班のみんなはきっとその気持ちは当然だろうけど、ペトラさんはそれ以上だ。尊敬していて、憧れていて、それでいて愛している。
「ペトラさんは兵長にその、……告白、とかしないんですか?」
「しないよ。もしも私が下手に告白なんかして、兵長と距離を置くことになったら。そっちの方が辛いし、苦しい。私は恋愛感情よりも、尊敬と憧れが前に来るからさ。……それに私たちは、調査兵団だかね。恋に翻弄されて良いほど、余裕なんてないわ」
「……ふうん?なるほどな」
ほぉほぉ、と頷いていると、不意に後ろから聞き慣れた冷めた声が。ん?こ、これは?これはもしかしてもしかしなくてもこの声は……。
「「へいちょ?!!」」
「大きな声を出すな。うるさい。それに、俺は『へいちょ』じゃない。兵長だ」
最後をやたらどや顔で言い放った兵長だが、そこじゃない。そんなこと心底どうでもいい!!
「へ、へいちょ、話聞いてたんですか……?」
そうそう。俺が聞きたかったのはこれだ。
恐る恐るといった感じで細々と聞くペトラさんだが、何気に俺の足を踏んでいる。痛い。とんだとばっちりだ。痛い。まだ聞かれてたかも分からないのに。痛い。
「……俺は大分前からここで立っていたんだがな。お前ら二人とも話に夢中で気づかなかっただけだろ」
ぎりぎりぎりぎりぎり。さっきまで踏んでいた足に更に強いダメージを与えてくる。
いってぇ!ペトラさん兵長に聞かれたからって俺の足をぎりぎりしなくても!そろそろ血が滲むどころじゃなくなってくる頃だろう。ペトラさん、自分の力の強さわかってんのかな、加減ができてないぞ。
「で?そのなんだ、お前は俺が好きなのか?」
「は?兵長なんでそんな直球な、」
「エレンは黙ってくれる?」
無駄に反応した俺が悪いんだろうけど、いやいやいや。兵長が無表情に近い顔でそんなこと言うからさ、
突っ込むしかないと思ったのにさ。だってまず、恥じらいなさすぎだろ、……ってペトラさんがまた更に力を加える。そろそろ俺の足、なくなるんじゃないか。もげるなよ、頑張れよ、俺の足。
「いや、ぶっちゃけ好きですけど。それが何か?」
半ばヤケになっているようで、こっちも恥じらいなんてない。むしろ逆ギレ。
「いや、何か?って。お前が無駄に俺のこと心配してるから、その必要はねぇよって言おうと思った……ってペトラ酷い顔してるぞ」
「ですね、なんかたった今両思いになった顔とは思えない顔してますよ」
「エレン、お前は黙ってろ」
「?!」
おやおや、なんだか理不尽すぎて涙が出てきたぞ。これさっきもペトラさんに同じこと言われたような。俺そんな邪魔者か?
「え、ん、え??両思い?何言ってんのエレン。今日エイプリルフールでも何でもないけど?」
若干小バカにしたように鼻で笑うペトラさん。え、だから、さっき遠回しだったけど、そこまで遠回しになってない告白があったでしょうよ。ペトラさんお願いだから気づいて。
「あーもうだから、俺がお前を好きだと言っているだろう」
もはや投げやり。いや、もしかすると兵長なりの照れ隠しなのかもしれない。
「……ジョークではなく?本当に、ですか?」
「あぁ。そんなに俺が信用ならないか」
頭をぽりぽりと掻きながらペトラさんの答えを待つ兵長。
「ペトラさん、良かったですね」
「……え、あ、……」
やっと状況が読み込めたらしく、だんだんとペトラさんの顔が赤くなっていく。
そんなペトラさんにとどめを刺すように兵長は抱き締めてかかる。ペトラさんはもはやパニック状態で、兵長の胸の中でもごもご言っている。
「じゃあ、俺はこの辺で」
兵長の「察しろ」という目に素直に従い、俺は部屋を軽やかに出た。よかったよかった。一時はどうなるかと思ったけど、これでめでたしめでたしだな。俺はそっと胸を撫で下ろした。

霧瑚さんから、リクエストした小説いただいてきました(///△///)
リヴァペトでお願いしたら、こんなに素敵なことになりました…!
ありがとうございました!


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