嫉妬とパンケーキ@


根暗人生に奇跡が起きて、笑顔が眩しく天使じゃないかと思わせるほどの超絶イケメン瀬名とお付き合いを許されている俺は、今日もデレデレ顔でデートをしている。
しかし二人きりと言えども、ちょっとでも瀬名から目を離すと危険がいっぱい。

「すいません、一人ですか?良かったら一緒に…」
俺がティッシュ配りの人にしつこくティッシュを渡されている隙に、きゃぴきゃぴした女の子たちが瀬名に話しかけていく。
まただ!本日何度目かの逆ナン!
女の子ってこんなに逆ナンするの?ってくらいこの光景を目撃する。
その度に俺は瀬名が連れ去られていくんじゃないかと見ていてあわあわする。
「今デート中だから、ごめんね」
そして瀬名の断る言葉を聞きながら俺はまたまた何度目かの心臓を奪われる。
そのまま瀬名は今にもキュン死しそうな俺の方へ来てくれるんだけど、女の子たちが見てもどうやら俺が本気で恋人とは思わないらしく、単純に断られたと思って帰っていく。
本当に付き合ってるんだけど、手とか繋ぐわけにもいかないし、見せつけることは出来ない。
一目見て恋人同士だと分かれば、ナンパなんかされないんだろうけど、なかなか男同士ってのは難しい。
「ちょっと腹減らない?なんか食べたいなー」
瀬名は普通に話しかけてくれるが、逆ナンされまくりのきらきらしたイケメンと根暗な俺って、端から見たら恋人どころかそもそも友達とすら見られないだろうなって、なんとなく思う。
「あそこの角にあるパンケーキ食べたい」
俺が言うと瀬名は白い歯を見せて笑う。単純に歯並びが綺麗。
「女子だなー!」
「めっちゃ美味しいんだって。ちょっと並ぶらしいけど」
「並ぶのはべつにいいよ、話してたらすぐじゃん」
瀬名はそう言ってパンケーキの店がある方へ歩き出す。
瀬名は脚が長いから油断してると歩幅に差が出る。歩き出すのが遅れて俺は少し急ぎ目で歩いた。

パンケーキの店はやはり並んでいた。
瀬名は文句を言うわけでもなく普通に並んでくれる。優しい。そして美しい。
「どれ食べるか決まってんの?」
メニューの看板が出てるのを眺めながら瀬名が聞いてきた。
「あれかな、あの一番端っこのやつ」
「え?あのイチゴがいっぱい乗ってるやつ?」
「そうそう」
「名前めっちゃやばい」
「たっぷりイチゴとクリームブリュレのぱんぱかパンケーキ」
「女子じゃん!」
瀬名はまた声を出して笑う。癒しかよ。
「黒川って本当可愛いよな」
いや、お前が一番可愛いよ。ってきっと前に並んでるチラチラ見てくるお姉さんたちも思ってると思うよ。
「黒川?」
俺が瀬名に見とれてると、後ろから名前を呼ばれた。
振り返ると後ろにサングラスをかけためっちゃチャラそうな金髪男が立っている。
どっちかってと瀬名の知り合い?って感じだけど瀬名も誰かわからないらしく男に注目している。
「えー…っと、」
「なんだよ、わかんねぇの?俺だよ、俺」
男は指輪をいっぱいつけた手でサングラスを取った。
そして改めて顔を確認すると、むちゃくちゃ知った顔だった。
「えっ…、嵐?」
「そうだよ、久しぶりだなァ」
瀬名は誰?と小さい声で俺に聞いてきた。
「あ、えーっと…、小中高一緒だった知り合い」
「知り合いってなんだよ、友達でいいだろ」
嵐はそう言って俺を軽く小突いた。

瀬名に紹介したとおり、嵐は小さい時からずっと一緒にいた、いわゆる幼なじみってやつだ。
家も近いから登下校もずっと一緒だったけど、俺とこいつは根本的にキャラが違う。
見ての通り俺は根暗のフツメンでこいつはイケイケグループに属してるチャラチャラ男だ。
なんでそんな俺たちがずっと一緒だったかと言うとお互いゲイで、その点においては他の人と話すわけにもいかなくて、二人でこそこそ相談してたりしてたからだ。
俺は大学に近いアパートに引っ越したから、なんだかんだで嵐と会うのは高校を卒業した以来だ。
昔は茶色く染めてるくらいだったのに、今はがっつり金髪でチャラさが増している。
嵐は俺のことを懐かしがるのもほどほどに、俺の隣にいる瀬名に注目した。
「すげーイケメン。もしかして付き合ってんの?」
嵐のドストレートな言葉に瀬名が言って良いものかと俺を見る。
「あんまちょっかいかけんなよ…」
俺が露骨に嫌な顔をすると、嵐は口をとがらせる。
「なんだよ、邪魔者みたいな顔して」
「邪魔者だろ、早く帰れよな」
「帰らねーよ、パンケーキ食べに来たんだから」
嵐の言葉に俺と瀬名は嵐の周りを確認する。
後ろにいる女の子たちは連れではなさそうだ。
「…え?一人で?」
「一人だよ」
「やばい」
瀬名はまた笑う。
「さすが黒川の友達」
嵐が瀬名の言葉に首をかしげる。
「女子力高いって言われてんだよ」
俺が言う言葉でもないけど。

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