桐生(round3)A


桐生、まだ出てこねぇのかよ」
桐生は処理課の唯一あるシャワー室に籠もっていた。
処理を終えて、シャワーを使いたい綾瀬は文句を溢す。
「そっとしてあげて。なんかいつもと様子が違うの」
真木に言われて、綾瀬はふーんと呟いて席につく。
「隼人ぉ、そんなに体綺麗にしたいなら南の豚貸そうか?舐めて綺麗にするの得意だよ」
「……それ余計きたねーだろ」
南のぶっ飛んだ提案に綾瀬は顔を引きつらせた。
そんな中、処理課の内線が鳴る。
久遠が不在のため、真木が代わりに取った。
何回か会話をしたあと、真木は電話を終わらせて、桐生が籠もっているシャワー室へ入っていった。

「テツくん、電話あったよ」
真木は扉越しに桐生に声をかけた。
中からはシャワーの音だけが聞こえている。
「名前は、言ってもわからないからって、教えてくれなくて…。処理なのかどうかもよくわからないんだけどね」
真木は桐生の様子を伺った。影は動かない。
シャワーの音に掻き消されないように、真木は少し声を大きくした。
「“あの階の、あの仮眠室で、待ってるから、嫌じゃなかったら、来て欲しい”って、言ってたよ」
扉の向こうから聞こえた真木の言葉に、桐生ははっとした。
震えた手がシャワーを止める。
そしておそるおそる扉を開いた。
真木が優しく微笑みながら立っている。
「ほ……、本当に……?」
桐生は信じられずに真木にそう聞いた。
真木は頷く。
事情は知らないが、あの電話が桐生にとっての救いであることに、真木は気付いていた。桐生のどこか安心したような顔を見て。
「いってらっしゃい」

桐生は急いで体を拭き新しいワイシャツを着ると、あの階へ急いだ。
体中が熱かった。鼓動が早くなっていた。
瞬きすら惜しんだ。涙が出そうになるのは風で目が乾くから。
いやそれ以外にも、理由がある。
桐生は初めて、上を向いてオフィス内を通った気がした。
「…………っ」
仮眠室の扉を前にして、桐生は息を飲んだ。
心臓が高鳴っている。
おそるおそるドアノブを握ると、そっと静かに扉を開けた。
部屋の真ん中に、スーツの男が立っている。
男は桐生が入ってきた物音を聞いて、振り返った。
桐生は男の顔を見て、とうとう涙を零した。
格好すら違えど、男はやはり、あの清掃員の男だった。
「お掃除屋さん……、俺…」
清掃員は、桐生の方へ歩み寄り、溢れる涙を大きな手で拭った。
「俺のせいで、辞めたのかと…、」
「……いや、君のせいじゃないよ。俺が勝手にしたことだから」
「…っ、お掃除屋さん…、」
桐生にそう呼ばれて清掃員は微笑む。
「でももう掃除屋じゃないんだ、君に触れたからそれはクビになった。でも社長が、代わりに普通の社員として、雇ってくれたんだよ」
男の手の中の小さな顔を、桐生は男に向ける。
男はまた桐生の涙を拭う。
「君に触っても怒られないってことさ」
男はそう言いながら手を離した。
そしてぬくもりを惜しむ桐生の体に腕を回しぎゅっと抱きしめる。
桐生の体は熱くなっていた。初めて抱きしめられた時と同じだった。
桐生もぎこちない手で、男の背中に腕を回す。
「桐生くん、君は綺麗だ。本当だよ」
「…っ」
「君の仕事は辛いことだと思う、何度も汚されたと感じたと思う、だけど、体を重ねることは、時に美しいものでもあるんだよ」
桐生は絡めた腕をそっと離した。男も腕を解く。
二人は見つめ合った。
「……俺のこと、綺麗にして……」
男は優しく桐生の前髪を撫で上げて、額にキスをした。
次に唇を重ねたのは、桐生からだった。


「は……っ、あっ、ぁん……っ」
ベッドの上で、桐生は甘い声を出す。
男はワイシャツのボタンを一つ一つゆっくりと外していきながら、桐生の肌にキスをしていった。
他人に全身を舐めるように体を嬲られ、いつも悪寒を感じながら耐えていた桐生だが、なぜが今は不快な感じはしない。
むしろキスが落とされる度に、触れられたそこからじんわりとあたたかいものが体の内側にまで届いているかのように体が火照っていく。
「ひぁっ、あぁっ」
男の指が桐生の乳首を弄る。
感度が良い様子を見て、男は反対側の乳首を舐めた。
「ぁんっ」
桐生は自分の胸に吸いついている男を見る。
赤い舌が、つんと突起した乳首をくりくり刺激する。
そして引っ込んだかと思えば、柔らかい唇に包まれたり、白い歯で優しく噛まれたりする。
桐生はぞくぞくした。いつもの悪寒ではない。
腰のあたりから砕かれるように溶かされていく。
「あっ、やだ…っ」
桐生が漏らした言葉に、男は乳首に触れるのをやめた。
「ごめん、」
男は桐生の嫌がることはしたくなかった。
しかし桐生は本気で嫌だと思って口にしたわけではない。
いつも他人からされている虐めとなんら変わらないことをされているのに、嫌気は一切感じずただただ気持ち良さだけが募っていくこの状況に戸惑い少し恐ろしく思っているだけなのだ。
「あ、違っ…、いやじゃ、ない…から…っ、」
桐生は涙目で訴える。
「もっと……して……ください……」
いつも強いられて、嫌々催促の言葉を言うのに、勝手に自分の口から続きを求めていることに桐生は内心驚いていた。
「嫌だったら、すぐ言ってね」
男はそう念押しして、桐生の乳首をまた舐めた。
そしてワイシャツのボタンをまた一つ外して、肌の上を優しく撫でる。
「んっ、…ふ、……ん…っ」
男が桐生のワイシャツのボタンを全て外した頃には、桐生の肌はほんのりと桜色に染まっていた。
いつものくちゃくちゃな泣き顔はなく、蕩けた表情で男を見上げる。
「気持ちいい?」
男の言葉に桐生はこくんと頷いた。
「良かった」
男がそう言って次に目を向けたのは桐生のペニスだった。
桐生にも、嫌でも自分の勃起したペニスが目に入る。
男がそっと顔を近づけて赤い舌を出した。
「っ、…そこ…舐めるの…?」
「嫌ならしないよ」
「汚くない……?」
「そんなことないよ、石けんの匂いがするし」
「や、やだ…っ、変なこと言わないで…っ」
シャワーを浴びた後の桐生は全身から石けんの匂いを放っていたが、男がそこ限定で言うので桐生は恥ずかしくなった。
「はは、可愛いね」
「ぁんっ」
男は桐生のペニスの先にキスをした。
そしてれろっと唾液を絡めた舌で舐め回す。
「ひぁ、ぁ…っ、ぁぁんっ」
他の社員にペニスを舐められたことはあったが、やはり思うことが違う。
こんなに自分だけが気持ちよくして貰って良いのだろうか。
桐生は初めて相手に対して尽くす気持ちになった。
「あぁっ、お掃除屋さん…っ、ぁっ、あっあんっ」
男の口の中に包まれてぢゅぽぢゅぽと音を立てながら刺激され桐生は悶える。
思わず腰が揺れてしまっていた。
「ぁぁっはぁっ、ぁっ、あんんっ」
目を瞑り快感に耐える。
そのまま食べられてしまうのでは、そう思うくらい桐生のペニスはとろとろにされた。
「あぁっ」
桐生は強く瞑っていた目をぱっと開いた。
口でペニスを刺激しながら、男は桐生のアナルに指を挿入したのだ。
既に他の社員の処理に使われていた桐生のアナルは簡単に男の指を飲み込む。
いつも中出しされた精液を掻き出してくれていた男の長い指。
今は桐生を気持ちよくするために中に入ってきている。
「あっぁぁっ、んぁっぁー…っ」
男の口の中で桐生のペニスがびくびく反応していた。
「あっあぁっ、お掃除屋さん、あんっだ、め…だめ…っお願い…っだめぇ…っ」
桐生が必死に止めるので、男はすぐにアナルから指を抜き、ペニスから口を離す。
「ぁ…っ」
突然全ての行為が止められ、桐生のペニスもアナルもイきたそうにひくひくしていた。
「ごめんね、やっぱりやめようか」
「あ、ち、違うの…っ、い、一気にされたら…へ、変になっちゃうから……」
桐生は息を上げながら、ふと男の股間に視線を移した。
スラックスの生地を持ち上げているのを見てドキッとする。
指で弄くり回されていたアナルがきゅんきゅん疼いた。
「お掃除屋さん………、」
男は桐生の目が自分の股間にあることに気付いた。
「それ……、俺の中に、きて……」
「でも、」
「もう…、切ないから…っ」
桐生にそこまで言われて断れるわけもなかった。
男は硬くなったペニスを露わにした。
大きい。
桐生は息を飲んだ。
いつも他の社員に渡すゴムは持ってきている。
しかし渡そうとはしなかった。
男の熱を一心に受け止めたい、そう思った。

「本当にいいの?」
男の言葉に桐生は小さく頷いた。
男はそれを確認してから、桐生のアナルにペニスの先端を当てる。
「んん…っ」
ペニスの先端が侵入してきた感覚。
普段の桐生なら絶望を感じる瞬間だった。
洗い立ての真っ白なシーツに泥をかけられような、そんな思いでいた。
しかし今は違う。
男の熱いものが自分の中に入ってくる度に心が満たされていく。
体が浮いていくようなそんな感覚。
「痛い…?」
全て挿入すると、男は桐生の前髪をそっと撫でるように上げ、少し汗ばんだ額にキスをした。
「大丈夫…」
目を瞑る桐生の瞼にも男はキスを落とす。
「お掃除屋さん…早く終わらせないで…」
「…うん、ゆっくりしようね」
男は桐生の中に入ってから動かず、桐生とキスを交わす。
「俺のお願いも聞いてくれる?」
「なに…?」
「優一朗って呼んでもらっていい?」
桐生は近い距離にある男の顔を見つめる。
「お掃除屋さんの名前…?」
「うん。もう清掃員でもないしさ」
「いいの…?」
何故だか桐生は嬉しかった。
なんだか胸の中で込み上げてくるものがある。
桐生は優一朗の首に腕を回した。
「優しくして…優一朗さん…っ」
優一朗はまた桐生に口付けてから、ゆっくり腰を引いた。
抜けていく感覚にぞくぞくすると、またゆっくり中に侵入されて内壁を優しく抉られる。
「あぁ…っあん…っ、はぁ…っ」
桐生の口から甘い喘ぎ声が漏れる。
「はぁっ、あぅ、…んん〜…っ!」
ニュックニュックといやらしい音がしていた。
桐生は体全体をひくひくさせた。
ゆっくりゆっくり気持ちいいものが桐生の体を撫でるように渦巻いていく。
「あっ、ん…あぁ…っ、優一朗さん…っ」
桐生は優一朗の背中を撫でる。
少し汗ばんでいてどきどきした。
「ひっ、んっあぁっ」
お腹の方をペニスで擦られて桐生は声を上げる。
そこを優しく何回も擦られると目の前がチカチカした。
「ここが好きなの…?」
「ああっんっやっわかんない…っそこ、あんっ擦るのだめぇ…っ!」
優一朗はそれがもっとして欲しいのだと理解してまた擦った。
桐生が悶える。
「やぁん…っ、あっあっあっ、きゅんきゅんしちゃう…っそこ…っ、あぁん…っ」
桐生は涙目で優一朗を見つめた。
優一朗は微笑んで桐生の瞼にキスをする。
感じる場所を突かれながらキスをされると桐生は堪らなかった。
これがいつも嫌な社員からされている処理と同じような行為だとは到底思えなかった。
「優一朗さん…っ、あぁん…っ優一朗さん…っ」
抱きしめると言うよりは、しがみつくと言った方が良さそうだった。
桐生は優一朗からの熱いものを受け止めるのに必死になって、脚を絡めた。
「気持ちいい…?」
桐生は優一朗の言葉に頷く。
「あっ、はぁ…っ気持ちいい…っ、優一朗さん…っ」
優一朗はいつも泣いて嫌がっていた桐生のその言葉を聞いて胸の奥が締まった。
「君に…教えてあげたかったんだ。体を重ねることの幸せを…」
「んっ…ぁ、…俺、はぁ…知らなかった…、こんなにも、人の、温もりが…っ、心地良いんだってこと…、」
「桐生くん…っ」
二人はゆっくりと快感に浸った。

クチュックチュッパチュン、パチュン、パチュンッ
桐生の中を突く音が、だんだんと早くなっていった。
「あっあっあっ、優一朗さん…っお願い…っ、奥まで満たして…っ」
優一朗の腰の動きで、もう果てることに気付くと桐生はそう言って絡めた脚をさらにきつくした。
「でも、」
中に出されることを嫌っていた桐生の中で果てるなど、優一朗はできないと思っていた。
しかし桐生は優一朗を離さない。
「いいから…っ、お願い…っ、優一朗さん…っ、またあなたの指で、きれいにしてくれたら…っ」
「桐生くん…」
優一朗はそう言われて、それでも無理に外に出す気にもなれず、桐生の中に射精した。
熱い精液が自分の手の届かない奥の方へ注がれ桐生は感じた。
「あっあぁっ優一朗さんっ俺…っ、ぁんっ俺も…っ出ちゃう…っ!あぁんっ」
桐生は中に出された快感に震えて自分も射精した。
今までの処理の中で一番気持ちが良いと思った。
いや、むしろ今までは心からそう思ったことなど一度も無かった。
「はぁ…っ、…優一朗さん…っ、」
優一朗は自分を熱い目で見つめる桐生にまた優しくキスをする。
桐生は目を瞑り、優一朗から送られる優しさに包まれた。
「桐生くん…、君を泣かせた人たちと同じになってしまった俺を、どうか許して」
優一朗は桐生を強く抱きしめながら呟く。
その言葉に桐生は、優一朗の心の内に全て気付いてしまった。
「…………優一朗さん……」
この瞬間が思い出に変わってしまう前に、桐生は優一朗の胸の鼓動に耳を澄まして、永遠にあるはずのない永遠を願った。
「ありがとう……。俺は、幸せをちゃんと、知ることが出来ました…」


如月は人事部長からの電話を終えると、窓の外を眺める社長の元へ知らせに行った。
「辞表を届けに来たそうですよ、あの清掃員」
如月の言葉に社長は窓の外を見たまま微笑む。
「そうかぁ。残念だったね。彼は出来る人間だった。あの桐生くんが懐くくらいだからね」
如月は振り返らない社長を見つめた。
「あなたなら…彼が正社員としてここに残る気はないこと、わかっていたのでは?」
社長は一瞬間を空けた。
「どうして?」
「処理課の業務に嘆く処理課員に優しく接する彼が、処理課を利用する社員と同じ立場に立つとは思えませんが」
如月の意見に社長は初めて振り返った。
机の上で手を組み如月を見つめる。
「さぁ…。どうだろう。私はあの清掃員がどういう人物なのか、さっぱりわからない」
「………………」
「君は、私が嫌な男に見えるかい?」
如月は社長をじっと見つめた。
そして瞬きをしてから、社長の後ろに広がる、都会のビルが建ち並ぶ景色にふっと目を向ける。
「いいえ、」
夕陽が全てを赤く染めていた。
「規則を破ったのは、元清掃員ですから」

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